十四話 お、同じ部屋!?
【プレイヤー リング からフレンド申請が来ました】
【申請を受けますか? はい/いいえ】
去ってなおリングからのフレンド申請は視界の端で圧をかけてくる。
「と、とりあえず受けとくか。初めてだな、こういうの」
ジンは「はい」を選んだ。
一応初めての、そして美少女のフレンドだ。思わずにやついてしまう。
そうしていると後ろから袖を引っ張られる。
「あの、ジンさん」
「え? どうしたユノ」
リングとの会話中一度も口を開かなかったユノは、何故か今ジンの袖を指でつまみジト目で見てくる。
「さっきの人はどういう人なんです……?」
「どういうっていわれても……とりあえず周りを振り回す人っぽいな」
突如話しかけられ、路地裏に連れてこられ、色々喋ったかと思えば去っていった。
ジンからリングへの印象はそんな感じだ。
しかしユノは首を横に振る。
「いえ、ジンさんとはどういう関係なのかな、と」
「ああそういうことか。って言っても一度助けられて、今回はその恩を情報で返した……みたいな感じか? 会うのもまだ二回目だし」
「に、二回目。そうですか、ふぅーん」
「ほんとにどうした?」
「い、いえ。それよりこれからどうしましょうか。また市に行きますか?」
「ああだからそわそわしてたのか」
確かに夜市を見ている途中で出てきてしまったとジンは納得する。
「また戻っても……ふぁぁ」
戻ってもいい、と言おうとしたところであくびが出た。
「眠い……そうか、もう深夜だった」
「う、そういえばそうですね。今日はもう休んだ方がいいでしょうか」
「そうだな」
リングとの出会いで疲れたこともあり眠気は急激に増してくる。
ジンはメニューを開いてログアウトしようとして、気づく。
「ユノはどこで休むんだ?」
ジンはネクスタルにセーブポイントを登録している。
そのため街の中ならどこであろうとログアウトは可能で、再び出た時は門に近い広場へ出てこれる。
しかしNPCのユノにログアウトの機能などないのだ。
だがそう聞かれたユノは意外そうな顔をする。
「えっ、ジンさんと同じ宿に泊まろうと」
「……あー、そうなるのか。確かに宿とかあったな」
「野宿してたんですか⁉」
「いやそういうわけでは……ない!」
「なぜちょっと悩んで……?」
ユノの誤解をジンは慌てて否定する。
ただ今まで宿を使ったことがなくその辺でログアウトしているので、否定しづらくもあった。
「NPCと一緒だとちゃんと泊まらないといけないのか……」
「えぇと、じゃあどこかの宿に決めてたわけじゃないんですね」
「うん。マジか、これから宿探さないといけないのか」
「でしたら逃げてくる途中で近くに見かけましたよ」
「ユノ有能……!」
「え、えへへ」
そうしてユノが見つけていた宿屋にジンたちは向かい、泊まることができた。
しかし問題が一つ起こる。
「わー、結構広いですね」
「なんで同じ部屋に……!!」
そう、ジンとユノは同室で泊まることになったのだ。
ベッドが二つ並ぶ部屋の中を見てジンは頭を抱えていた。
そんなジンに、荷物を置きながらユノは言う。
「ジンさんがなるべく安い部屋でって言ったからですよ。二部屋取ると300ギル、二人部屋なら200ギルだから、二人が安く泊まるなら二人部屋の方になります」
「俺の馬鹿! 僅かな金を惜しんだばかりに!!」
既に10万以上の金を持つジンは100ギルを惜しんだことを後悔していた。
嘆くジンへユノは俯いて聞いてくる。
「その、すみません。私と同じ部屋だと嫌でしたか?」
「それは絶対にない!!」
ジンは全力でユノの言葉を否定した。
ジンは別にユノと一緒なのが嫌なわけではない。
「そ、そうですか」
ユノが安心したようにはにかんだ。
「うぐぅっ……!」
その可愛さにジンは再び頭を抱える。
そうだ。何度も言うがユノの容姿はジンにとって理想の美少女である。
そんな子と一緒に泊まるのはジンにとって未知の展開過ぎた。もう本当にこの部屋へいていいのかもわからないのだ。
「そんな男女が同じ部屋に泊まるなんてそんな……! くっ……外でログアウトするか? いや、でもお金せっかく払ったのに……!」
「じゃあ私はこっちのベッド使いますね」
「うぇ⁉ あ、お、うん」
きょどりまくるジンに首を傾げながらユノは右のベッドの近くへ自分の荷物を置く。
自分と泊まることを全く気にしていなさそうなユノの態度に、ジンもだんだんと冷静さを取り戻していく。
「そうだ、もうお金は払った。ならちゃんとベッドで寝ないともったいない!」
ジンは決心して立ち上がり。
「よいしょっ、と」
ベッドでユノが服を脱いでいるのを見てしまった。
服といっても上着だけだ。肌が見えたわけでもなんでもない。
「あ、すみません。ちょっと着替えようと……」
ただジンの視線に気がついたユノが恥ずかしげに笑って。
それでジンの精神が限界を迎えた。
「おああああおやすみまた明日ログアウトぉーーー!!!」
ジンは全速力でベッドへと飛び込みメニューを開いてログアウトした。
現実へ帰ったジンはヘッドマウントディスプレイを外し、枕に顔をうずめる。
「……!」
そして照れやら恥ずかしさやらを吐き出すようにバタバタと悶えるのだった。
■ ■ ■
翌日の日曜日。
朝ごはんと家事を済ませて九時頃、ジンは再びログインする。
昨日の光景を思い出して緊張しながら、ゆっくりと目を開く。
と。
「あれ? いない……」
朝日の差し込む宿の部屋の中、隣のベッドにユノはいなかった。
「昨日のは、まさか夢? 幻覚……⁉」
自分の妄想だったのかと疑い始めた時ガチャリと部屋のドアが開く。
入ってきたのはユノだった。
「起きたんですねジンさん。おはようございます」
「お、おはよう」
夢ではなかった。
緊張と共に挨拶をしたジンは、ユノがその手に持っているものに気づく。
「それ、串焼きとパン?」
「あ、はい。お腹が空いてきたのでお先に。食べますか?」
ユノが差し出してくる食事をジンは受け取る。
「うわ、いい匂いだな」
「でしょう?」
『ランコス』の超クオリティは香ばしい肉の香りをしっかりと再現している。
ジンはユノと共に串焼きとパンを味わった。
その頃には緊張もほぐれ、ジンは宿の中でユノと今後の予定を話し合う。
「今日もとりあえず市場を見に行く感じ?」
「できればそうしたいです! 昨日みたいな掘り出しものがたくさん並んでいそう……!」
「じゃあそうするか」
ジンたちは宿を出て市場へと向かう。
その途中でジンはふと自分が『ランコス』を始めた理由を思い出す。
「そういえば俺ハーレム作るために始めたんだったな……」
リアルでモテない鬱憤をゲームで晴らす、というのがジンの目的だった。
未だハーレムという目標にジンは至っていない。
「でも、なぁ」
ジンは隣を歩くユノを見る。
ユノは一人目の仲間でありながら理想の美少女だ。市場に向かえるとウキウキしているその姿はとても可愛い。
こんな子が仲間になったのだから。
「別にもうハーレムとか作らなくても——」
そう考えたジンの頭へ、初恋の子に告白した時のことが思い出される。
——ごめん、返事は……もうちょっと待って——
そのまま返事もされず——。
「……」
思い出してしまった記憶、ジンは顔をしかめてそれを封じ込める。
「……今は関係ない。ゲームだぞ、ゲームを楽しもう」
ジンはユノと共に市場へと歩いて行く。