08.ファミレス
ショウさんとウサのお話、続きです。
レストラン「アイゼリヤ」。通称「アイゼ」
本格イタリアンをリーズナブルに提供するファミレスチェーン。
「アイゼ」か~
托卵が済むと第一島からの外出が許可される。私とウサは、揃って高校のはじめの頃だった。
外出と一緒にバイトも許可されたけど、バイト代なんかアッという間に無くなっちゃう。
で、お金の無い私達はアイゼでなんか一品。あとはセットのドリンクバーで何時間でも喋ってられた。
寮の門限ギリギリまで話し込んじゃって、コムウェイの駅まで全速力とかよくやった。
なつい。
なついけど、もうお互い二十代だし、お金も稼いでる。なんか、もうちょっと
「ねえ、ウサ。できれば、、」あら?いない。
見るとウサは店の中から手を振っていた。もう入ってる!
仕方なく入店。
「ボックス席、空いてたよ~」
そうね。壁際のボックス席、落ち着くけど。話し込むときの定番だったけど。
───と、心の中でツッコんでたら急に思い出した───
ウサは確か『話がしたい』って連絡くれたんだっけ。
久しぶりの再会!これはデート!とか言って、勝手に私が浮れてただけか〜。うーわ、ちょっとハズいかも…
フ〜(心の中で、ひと呼吸)仕方ない。
恋心は一回引き出しにしまって、旧友として付き合うか。
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「ショコちゃん、呑めるんでしょ?」
「仕事柄ね~、まあそれなり。ビールってある?」
ウサは卓上端末を操作しながら答える「あるよ〜
私はね、え~っと、ワインにしよっと。赤と白どっちにしようかな〜」
「あ、待って。じゃあビールやめて私もワインにする。
赤白どっちもデカンタで取ろうよ」
「イイね〜。じゃあ、グラスは2個で良いよね」
「(!)…良いよ」ウサさん、そういうトコだぞ。今日は黙ってるケド。
「あ『お豆の温サラダ』は絶対!」
「絶対と言えば『ミラノ的なドリア』でしょ。温玉乗せる?」
「温玉はお豆サラダに乗ってるからな〜」
「あ、チーズ乗せて焼いたの!」
「それだ。アイゼって大盛りとか無いんだっけ?」
「無いみたい。じゃあ、二つ頼んじゃおうか?」
「いやぁ待て待て。そこは一個でガマンして、ピザ頼もう」
「天才」
「でしょ~♪あとはねー」
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「かんぱーい」×2
お互いのグラスを合わせる。私は赤、ウサの持つグラスには白ワインがなみなみと入っている。
まずは一口
「美味っ。アイゼで呑むの初めてなんだけど、このワイン、普通に美味しい」
「おいしーねー」
そして『辛いチキン』
名前で言うほど辛くない。なんなら名前は『旨いチキン』で良いと思う。
アイゼに入り浸ってたティーンの頃にもあったけど、食べ盛りの当時は「美味しいけど量が少なくて物足りないサイドメニュー」って印象だった。
でも今日、認識を新たにしました。これ、お酒のアテに最高。
皮パリッと、中はホロッと解けるけどチキンの噛み応えもあって、しかもジューシー。
見た目はビール向けっぽく見えるけど、ワインにも合う!
「美味しー。これ、こんなに美味しかったっけ?」
「私も食べる~。(はむっ)美味しっ、これは赤だね~。ショコちゃん私にも頂戴」
チキンをかじってから、私の手からグラスを受け取って口に運ぶウサ。思わず目で追ってしまう。
「美味しー。こっちも美味しいよ。コレはやっぱり白かな」
ウサが『お豆の温サラダ』を勧めてくる。柔らかい青豆に乗っていた温玉は既に崩されてて、スプーンが一本だけささってる。
口に運ぶと温かくて、甘くて、ちょっとだけ青臭い。今日はもう、コレで良いや。
うん。白ワインも美味しい。
『ミラノ的なドリア』とビザが来た。
このドリアは間違いない。もう通算何皿食べたか分からないド定番。
しかも今日はチーズON。
スプーンを入れると焼き目の付いたチーズがパリッと割れて、ミートソースがのぞく。掬い上げるとビヨーンとチーズが伸びて、ふわっと湯気があがる。
「(フ~フ~。パク)ハフハフハフ」ん~そうそう、これこれ。赤ワインに手が伸びる。「うま~」
おいしいのと、懐かしいのと、あと色んな感情でチョット泣きそうになるわ。
ピザは、一面にソーセージが乗っているのにした。
ホットソースびしゃ掛けが美味しい。これも赤だな~
「赤のデカンタ、追加しようか」
「白もいっちゃえ~」
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ウサは「足りない」といって追加注文した、ノーマルのドリアを食べている。
この娘は昔から、ホントによく食べる。
私は、もういいやって感じで、ポテトをつまみながらワイン。
『話したい事』ってのが一向に出てこないんだけど、こっちから水を向けてあげないとかなぁ…
と思ってたら
「ショコちゃん、あのね、」
ドリアをつつきながらポツポツと話し出した。
文中に出てくる『托卵』ですが、第一島の女子の間で使われている隠語で、卵子提供と不妊手術のことを指してます。