14.アマプラ0613:牛丼と通知
ルウさんの日常、続きです
ヨシエさんは謎の予言(?)を言い置いて部屋を出て行き、入れ違いでオウが戻ってくる。
「長かったな」
「女同士は、色々あるんですう~」
「そうか」
(素っ気な!)
「まあ、終わったんならシャワー浴びて来い。
その間になんか飯買ってくる」
「はいはい、お肉!!お肉がいい。
えーとね、牛丼。大盛り、肉多めで」
オウは笑いながら応えてくれる。
「わかったわかった」
・
・
・
「ねえねえ、玉子は無いの?」
私は、オウが買ってきたテイクアウトの袋をガサガサする。
「玉子は、こっちの袋だ」
「あ、あったあった。おー、紅ショウガと七味の袋もいっぱいある。さっすがオウ、分かってるぅ~」
狭いテーブルに、ご飯が並んでいく。
「それに、コレだ」
「わっ!ビール」
「今日は、大仕事を首尾よくこなしたんだろ?こんなもんだけど祝杯だ」
「うれしー。かんぱーい」
それぞれ缶を開け、軽く合わせる。
ゴッゴッゴッ。
オウの喉が上下に動くのを横目に、私もグビッっと。
「っは~。おいしっ」
私は、紅ショウガと七味は最初からたっぷりで、玉子は半分くらい食べてからの後入れ派だ。
そして、私みたいにカワイイ女の子でも、牛丼だけは器を持ってかきこむのが作法。(キリッ)
「いただきまーす」
ガガガッ。くぅ~、おいしい。
やっぱり牛丼は流し込むように食べるのが醍醐味。
そしてビール。
うわ~もうサイコー。
──────────
あー。なんとなく酔いも回ってきて、だいぶほぐれてきた。
今日の私、やっぱ緊張してたんだなー。
向かいにオウが座ってる。
まなざしが優しい気がする。
「相変わらず、よく食うな」
…いつも通りだった…
「それ、褒め言葉よね?」軽くにらんで、オウを指さす。
「もちろんだ」オウはおどけて両手を上げる。
「なら、良いわ」
この狭い部屋で、二人で過ごす時間が大好き。
この時間を守るためならなんでもする。
家族ってこんな感じなのかもしれないな。よくわかんないけど。
と、ベッドサイドのコンソールが通知音を鳴らす。
「ん?」
この部屋のルームコンソールは、私の個人アカウントと連携してるから、私個人への通知ってことよね。
「なぁに?こんな夜中に。
コンソール。メッセージチェック」
『新着一通。厚生省人口管理庁出生局から、日本語テキストメッセージです』
「出生局?テキストサイズは?」
『130文字、165音、読み上げは33秒程度です』
「ん〜微妙。読み上げ聞くのも面倒ね。読むから映して」
指示すると、壁の一角が暗くなりテキストが投影される。
その内容は、
Subject:【出生通知】
おめでとうございます。
あなたの配偶子から、第一子が誕生したことをお知らせします。
詳細については、添付のデータを参照ください。
なお、本件に関しては通知のみとなります。
子の性別、健康状態ほか、今後一切の問い合わせには応じられません。
悪しからずご了承ください。
以上。
短いメッセージの後には、添付されていたデジタル署名が正しいので、間違いなく出生局からの通知であることの表示。
それから簡単な新生児のデータが添えられていた。
出生日時と身長、体重、胸囲、頭囲。
「出生通知じゃないか。おめでとう」
「え?あ、うん」
なにが(おめでとう)なのか解らない。
配偶自体がランダムだから、いつ来るかわからない。
しかも、第一子の時しか通知しないっていうルールがあって、一人に対して通知されるのは一回だけ。
そういうレア感はあるけど、だから?って感じ。
出生通知といえば、まだ第一島にいる頃、托卵から1年も経たないうちに通知を受け取った娘が居たっけ。
あの娘は確かLだった。
恋人と手をつないで、なんだか嬉しそうだった。いや、誇らしそうだった。
(そうか!)「『わたし達の子』か」
「これ、オウと私の子供の可能性もあるよね?」
オウは『何を突然』という顔で「まあ、確率で言えば、ゼロじゃないな」と言う。
「フフッ。良いじゃない。
『天地のため』みたいなのは、なんか勘弁だったけど、これなら良いわ」
体重3,060g、身長47.4cm。私の子。
何年かしたら街で、知らずにすれ違うかもしれない。
なぜか自然と口元が緩む。
「ママ、がんばっちゃうよ!」




