12.甘味とうどん
ウサさん帰宅です
帰りにコンビニに寄ったら、『あんなま』の新作が出てた。
「あんこがおいしい~生クリームあんみつ」、通称『あんなま』
寒天はプリっと固め。
甘さ控えめのあんこは、小豆の風味がしっかりわかる。
求肥やらフルーツやらを乗せて、黒みつはたっぷり。
これだけでも十分おいしいんだけど、さらにその上から七分立ての生クリームをトロ~ッとかけると、いろんな味が混ざり合って本当においしい。
期間限定でいろんなバリエーションが出てるんだけど、今回の新作はマンゴー。
入ってるフルーツが、角切りのマンゴーに変わっててる。
あんみつとマンゴーって合うのかな?って思ったけど、このシリーズは外さないから、きっとおいしい。
メグミが好きなヤツだし、買って帰ろう。
ショコちゃんと話して、私はすっかり前向きだった。
帰ったら、ここのところショボくれていたのを謝ろう。
そんで、『あんなま』の新作を一緒に食べよう。
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帰宅。玄関から「ただいまー」と声を掛けると
「おかえりー」と声がする。キッチンかな?
ダイニングへのドアを開けると、ふわっといい匂いがする。なんだろ?お出汁っぽい。
「早かったね、もっと遅くなるかと思った」
キッチンから出てくるメグミ。うん。ちっちゃくて可愛い。
「メグミに早く会いたくて、急いで帰ってきた」「またもー」
ただいまのハグをしようとしたら、押し返された。
「臭っ! ウサ、タバコくさいよ?」
「えっ?ホントに?」自分のにおいを嗅ぐ。
「いいから、お風呂入ってきて!!
におい付きやすいんだから髪はちゃんと洗ってね。短いからって適当しないのよ!」
追い立てられるみたいに風呂場に向かう。
仕方なくシャワーを浴びていると、ドアの向こうから呼びかけられた。
「ウサ、お腹いっぱい?おうどん作ったんだけど、ちょっと食べる?」
「食べる~。あと、『あんなま』の新作出てたから買ってきたの。玄関にあるから冷蔵庫入れといて~」
「はいはーい」
(『マンゴーじゃ~ん』という声が、ちょっと遠くから聞こえる)
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「ふ~。さっぱりした~」
改めてハグ。「どお?」「ん、合格」
テーブルには、どんぶりが用意されていた。
「でもウサ、食べてきたんでしょ?ちょっと小盛りにしといたよ」
「え~普通に食べれそうなのに」
「ウサさん、それは酔いで満腹中枢がおバカになってるからよ?」
「はーい」(ドリアをお代わりしたのは、黙っとこう)
「じゃあ改めて、いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
「(ふーふー。ずぞぞっ)ん~おいし。飲んだ後のシメのうどん、サイコー。
ん?卵とじかと思ったら、なんか入ってる。この具、なに?」
「それは、短冊に切った油揚げ。本当は薄揚げを煮含めるんだけど、市販の味付け油揚げを使った手抜き版だよ」
「ふーん。『本当は』ってことは、元のレシピがあるんだね。私、初めて食べたよ」
甘じょっぱい油揚げが、斜め薄切りのネギと一緒に卵とじになってて、うどんの上いっぱいに乗っている。しみじみ美味しい。
メグミも一口すする
「美味しいでしょ。私も久しぶり。
これね。『ぎんぎつね』っていうの。
何処の料理か知らないんだけど、義理のお母さんに教えてもらったんだ」
ギリノオカアサン?
一瞬、何のことか分からなかったけど、メグミの元夫の母親?一方的に離婚してきたクソヤローの家庭の味ってことじゃないか。「ちょ、メグミなんで、そんなの」
私の反発を予想していたのだろう。メグミは落ち着いた様子でやんわりと言う。
「ウサ、聞いて。私も天地に来た時は、もう色々捨てて独りでやり直す!みたいな気持ちだったんだけど、遠ざかって逃げただけで、結局なにも捨てられてないし忘れられてもいないの。
なんかさ『全部なかったことにする』とか『一切触れないようにする』とかって、逆に囚われちゃってるのかなって。
それでね、良いも悪いも、昔のこともひっくるめて自分なんだって思うことにしたの。
いきなり大丈夫になんかなんないと思うけど、ちゃんと向き合おうかな、って。
で、手始めに、このおうどんを作ってみたの」
メグミはどんぶり越しに、私をチラと見る。
「パートナーにも、気を遣わせちゃってたみたいだし?」
「…メグミ」
「なに?」
「そっち行って抱きしめて良い?」
「…ダメ。おうどん冷めちゃうからダメだって…」
『あんなま』は冷蔵庫で待ってます。




