10.ちょっと一服
ショウさん帰ります。
その前に
(今回、喫煙シーンあります。ご注意)
店を出て、二人でぶらぶら駅に向かう。
と、途中に喫煙所があった。
ちょっと迷う。んでも、あ~、まあ、もういいや。
「ちょっとここ、寄ってって良い?」
「いいよー。ってか、ショコちゃん、タバコ吸うんだ」
「ん~まあ、お付き合い程度ね」
ちょっと人通りから外れたところにあるからなのか、密閉式じゃなくて仕切りとエアカーテンで囲ってあるオープンなタイプだった。
入ると誰もいない。
一本取り出して咥え、火を点けて深く吸い込む。
上を向いて煙を吹き出す。
ん~、やっぱり最初のひと吸いが一番クる。お酒も入ってるしキクな~
と浸っていたら、仕切りの向こうにウサが来ていた。
仕切り越しに声を掛ける「そんなに近いと匂い移るよ?」
「大丈夫」
「そお?
なら良いけど」
それからは二人して黙ったまま。
一本目を吸い殻入れに落とし、二本目にいこうかどうか考えていると、ウサが仕切り越しに話し始めた。
「ショコちゃん、今日はありがと」
「ん~、なんもしてないでしょ?話聞いただけ」
「聞いてもらうのが大事なの」
「聞くのは得意よ?仕事柄」
「フフッ、うん」
二本目を咥える。
「ねえ、ウサ」
「ん?」
「メグミさんのことだけど」
「うん」
「過去の出来事で傷ついてるのは、もうどうしようもないと思うんだ。それって過去のことだし」
「…うん」
「でもウサはさ、一緒に住んでるんでしょ?過去のことはどうしようもないけど
これから楽しい思い出で上書きしてけば良いんじゃないの?」
「(!!)ショコちゃん~」
ウサは『そうか!』みたいな声になってるけど、これは気休めだ。上書きなんか出来ない。
出来るとすれば、風化を待つこと。
鋭く尖った過去の記憶を、柔らかい日々の記憶で埋めていくしかない。
それでも、なによりも、こういう話題は前向きに終わるのが一番。
「グッジョブ、私。さすがプロ」
二本目も終わったし、帰りますか。
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駅まで歩く。
ホームで別れたら、今日のデートは終わり。
最後に気になってたことを訊いてみる。
「メグミさんってさB、なんだよね?
離婚の理由はさっき聞いたけど、天地に来た理由は、やっぱりセクシャリティ?」
実は私もB、今の同居人も男だ。
別に秘密じゃないんだけど、なんとなくウサにだけ言えてない。
メグミさんも同じなら、ウサのシュミってことでしょ?なんかちょっと嬉しいんだけど。
「えっ?ああ、えーっと。どうなんだろ?
なんか…女の子と付き合ったのは、私が初めて、らしいよ」
ウサはちょっとだけ気まずそうだった。
(この子は、またノンケを転ばせたのか…)
天地は喫煙率が高めです。
しっかり分煙されているのもあって、喫煙者の肩身もあんまり狭くないようです。




