3 入学式と誤算
4月1日、頭脳そこそこ容姿平凡の私が入学式イベントを無事やり過ごすために取った手は余りにも容易かった。
「お母さん……頭痛い……」
仮病である。人によっては「親が泣くぞ」と思うかもしれないが、母親の反応は「あらあら」と温和なものだった。助かる〜
冬の余り物であるホッカイロで温めた脇は高温に近い。ちょっと緩めて少し冷まして……と絶妙な調整を繰り返しながら体温計は、見事「医者にかかるほどでは無いが入学式には参加出来ない」という無難な37,5度を叩き出していた。
仕事を休もうとする母親を「もう高校生だから大丈夫!」と必死に説得し、布団に戻りごろんとする。昼ごはんとしてあったかいおうどんと蜂蜜のかかった林檎を頬張りながらの勝利の笑みが零れたのは、まぁ、ご愛嬌ということで許して欲しい。
傍からみた印象としてはかなり最悪かつ、理由が不明確だとは思うが、私がこの入学式を避けようとしたのにもちゃんと理由がある。
私自身はこのゲームをプレイしたことはないが、ファンアートは雄弁で、その中のひとつに「入学式から目を付けていた」系のものをチラホラとみかけるのだ。
攻略対象の一人らしい不良ビジュの美形男に監禁される主人公、なんでこんなことをするの……?という最もな問い掛けに「お前が俺を救ってくれたから」と恍惚とした表情で意思疎通の取れていない言葉を返しながら、床に尻もちを着く主人公の首元にゆっくりと手を伸ばして「ひとつに溶けような」で暗転……といったファンアートだと記憶している。
暗転の後とかお察しすぎるし。刺されたかなんかだろ。主人公、なんか手足に拘束された痕があったし。捏造注意!とか書かれてないから公式でどこまでやってるか分からないところが怖い。
私も拘束監禁される可能性あるの怖すぎるだろ。ビジュは「私」の攻略対象達のお眼鏡に掛からない可能性は高いとはいえ、中々どうして油断はできない。公式がどんな話で終わったかは知らないが、私の人生は続くのだ。続いた先で不穏ファンアートエンドは嫌すぎる。
と、いうわけでの仮病。これで入学式イベントはスキップ出来るはずなのだが……。