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3月26日 20:45
泣いても笑っても喚いても異世界転生である。正直勘弁して欲しい。
命あっての物種とは言うけど、別人の命でもカウントしていいのだろうか。
昨日呼ばれた名前に私は一旦全部を諦めた。夕飯の席や空いた時間に確認してみたけど、『前』の私の名前を知る人はいなかった。ぽっかりと、消えてしまっている。
スマホのトークアプリや机に置かれた中学卒業アルバムには友達がそのまま残っていた。でも、私の通う予定だった高校は記憶の中とは変わっていて、友達でそこに進学する子はいなかった。
「受かるぞー!って勉強頑張ってたのはアヤじゃん!」
昨日の夜、藁にもすがる思いで電話をかけた幼稚園から一緒の親友は、知ってる顔で知らない女の進路を語った。流石に少し夕飯が出た。
そんなこんなで諸々を受け入れられずとも捨ておかず、状況を整理した結果ここは恐らく乙女ゲームの世界だろうという結論に至った。
……別に願望というわけじゃない。ただ、私の名前が乙女ゲーの主人公のデフォルト名である「閏月 絢加」とモロ被りな点、高校HPに乗っていた生徒会長の名前が攻略キャラと同一だった点からの推測だ。
ちなみにプレイはしたことない。かなり好評らしく、SNSでたまに流れてくるフォンアートを見たり、ゲームが好きな友達の語りを聞いてたぐらいだ。
うるう月と書いてジュンゲンなんて苗字は聞いたことないし、12人いるらしい攻略対象は暦に因んだ名前で〜……と聞いていたから、ほぼ確定だろう。
その主人公はグラフィックが無いタイプの主人公らしく、過去も本編で深堀されない。自己投影型だからこそ、こうやって名前以外の過去はお目こぼしを受けたと推測している。
よく見るファンタジー世界に転生……みたいなのじゃなくて良かったと思う一方、孤独感と違和感がマックスなんですけど????!?の感情が凄い。
だっえ、みんな、私の話をしてるのに、別の名前呼んでるんだもの。もうこれ星○一のホラーじゃん。
ショートショートで済むならいいが、残念ながら私の人生はまだまだロングロングである。ロングロングアゴーを振り返るには人生成熟度が足りない。
ロングロングにしたいのだ。一回死んだ身でなんだが、死ぬのは怖い。長生きしたい。
だから──ヤンデレ血塗れ監禁ネグレクト誘拐とやたら不穏なファンアートが流れてくる学園乙女()ゲーに転生するのは、正直不安でしかない!!!
だから私は今日、ふたつ定める。
ひとつ、攻略対象っぽいイケメンは絶対好きにならないこと。
ふたつ、友達は作ること。寂しいからね。
──どうあれせっかく拾った命だ、楽しまなきゃ損である。
というわけで、目下、入学式をどうするか。あまり良くない頭を抱えて私はベッドにダイブした。
入学式といえばイベント。そしてイベントはヤバい。乙女ゲームの鉄則である。