少女の怪文書
助手は慌てて研究室の中にあるパソコンの電源を入れて、自分のアカウントでログインする。
情報系の研究室ではないので、起動までが遅い。
念のため平行して助手の私物のパソコンの電源ボタンもクリックする。
プリンタに接続されているのは研究室のパソコンだから、結局使うのは、研究室のパソコンになりそうではあるが。
私物のパソコンにいち早くログインできたのを確認するとおもむろにテキストエディタを開いた。
手のサイズが縮んでいて思ったようにタッチタイピングできない。
ウサモフが検索結果を見せる。
ここに書かれている情報をすべてメモするのはタイムパフォーマンスがよくない。
警察が捜査に必要としそうな情報だけ効率よくピックアップしなければならない。
購入者の名前、販売業者、薬品の名称などは必須の情報だろう。
買い物番号とされている13桁のIDもタイプミスがないように慎重に入力する。
論文のファイル名、クラウドサービスのバケット名やエンドポイントなどの情報も警察にとってきっと有益だろう。
クラウドが置かれているリージョン名がサンノゼ、要は海外だ。
海外業者を経由すると国際捜査になり簡単に情報を取り寄せられないと聞いたことがある。
もっとも、クラウド業者も近年は日本の経済団体に加盟するなど、日本側に歩み寄りを見せていたりはするが。
さらに警察の助けになる情報はないか。
ポート番号、セキュリティグループ、IPアドレスなどの情報は、捜査に関係ない。
見落としがないことを確認し、印刷を試みる。
エラーメッセージ。
プリンタの電源が入っていない。
などなど、悪戦苦闘をしている間に時間は過ぎていく。
その頃、教授は警察から事情聴取を受けていた。
「その時、僕はアニメを見ていましたね。ウサキュートっていう泣ける作品なんですよ」
「それを証明する人間は?」
「助手が部屋に入ってきたのですが、その助手が今行方不明でして……」
「行方不明?妙ですね」
警察は教授を怪しんでいた。
それをみた講師は、ひっそりとほくそ笑んでいた。
「教授。あなたの話は要領が得ません。ちょっと、署で詳しい話を聞かせていただけませんか?」
眉間にしわを寄せたベテランの警部は、ぺこりと頭を下げた。
教授はわなわなと震え、顔面は蒼白になっていた。
その表情を見た警部は、教授に対する疑念を深める。
彼の長年の勘が教授を犯人であると告げていた。
「警部、こんなものが落ちてました!」
警官が見せたのは、A4サイズの紙に印刷された薬物や卒業論文に関する情報だった。
「なんだこれは?出所が怪しい怪文書だな」