会話の共通項
人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である。
古の有名な喜劇役者のセリフであるが、今の車の中がまさしくそういった状況にあてはまっていた。
思い詰めて破滅的な行動に走る男と道連れにされようとしている少女。
当事者からすれば悲劇である。
だが、そのふたりがレトロオタクトークで盛り上がろうとしている様はコントでしかなかった。
演芸番組常連で半ば役者化している名物トリオさながらであった。
「ずいぶんと古いもの知ってるな」
「心は大人男子というのがモットーでして」
「だがな……」
男は叫んだ。
「俺は、子どもの頃、そういうもの親から見るなって言われて育ってきたんだよー!」
「しまったー!」
不用意に心の古傷をえぐってしまった。
それも見方によれは喜劇でもあり悲劇でもあった。
「武者小路安則!陸奥則祐!渋くて殺陣がかっこいいですよね!人情あるし!」
「逆に時代劇役者の名前とかなら、わかるんじゃないかとか安易な方向に走んなー!チャンバラとかも禁じられてたんだよー!」
「だめかー!じゃあ、何なら見てたんですか!」
「ニュースと朝のドラマだけだよ」
「うっ……!」
ニュースはまだしも朝のドラマは琥珀の守備範囲外だったので言葉につまった。
「そういうわけだ。俺はテレビカルチャーのトークなんてできる愉快でおめでたい人間じゃない。そんなことができるようだったらこんなことはしていないんだ」
無趣味で勉強ばかりやってきた人間。
20世紀の言い方でいえばがり勉。
そんな人間が勉強で挫折するのであれば、心も空っぽになってしまうのも琥珀には理解ができた。
いっそのこと、教授のように、幼児向けアニメに夢中になれば平和だったのである。
「ウサモフ」
「なんだい?怖い男かと思ってたら、意外と愉快なことになってるね」
「ちょっとは心配してよ」
「ごめんごめん」
「今ではなく普段何を考えてるか知りたい。卒業文集とはかさすがに昔すぎて、ただの下世話な情報バラエティー番組とソースの信頼性が変わらない。最近書いた文章探せない?」
「手記とか日記を残してたらいいけど……」
手記、日記。
琥珀には男が、今時そのようなものをまめに残しているような顔には見えなかった。
いや、この男に限らず現代人はそもそも日記を書くという習性を失っている。
代わりになっているのがSNSやブログの類ではあるが……。
それが、現代の警察官たちが、犯人の人間性や普段考えていることを探るときに掘り起こすとされているもの。
だとすれば……。
「ブラウザ……」
「ん?」
「ブラウザのCookieを参照してれ」




