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父からの手紙

「っていうかさ。深刻な顔しているところ1ついいかな?」


「なに?」


大事なことを見落としていることをウサモフは指摘した。


「今日は5回検索を使い切っているよ。明日以降にしない?手紙なんてそこまで、急ぐ話じゃないんだしさ」


「あっ……」


盲点だった。


今回は、そこまで緊急性のある事件ではなかったからよかったが、前のように殺人事件に巻き込まれたときに同じ事態が起きていたら……。


琥珀は身震いをした。


その日は、金曜日だった。


土曜か日曜の落ち着いたタイミングで改めて調べればいい。


冷蔵庫に何も入っていないのを確認し、買い物メモをしながら、琥珀は冷静さを取り戻していった。


本当にこれから自分のやろうとしていることは正しいことなのだろうか。


今日、会ったばかりの女の子の家庭の事情に深入りし、人間関係をかき回していいのか。


善意でやろうとしていることだが、裏目にでることはないのか。


何かの歯車が狂って一家心中なんてことにはならないのか。


自分に責任を取る資格はあるのか。


自問自答していた。


「でも……」


天音ちゃんの涙は本物だった。


お父さんと魂でつながりたいという気持ちは本音のように思えた。


一通り家事を終え、教授が帰ってこないのを確認すると、琥珀は子どもらしく21:30に就寝した。


朝になり、最近では、すっかり、見なくなったスズメがさえずっていた。


「お父さんが天音ちゃんにあてた手紙だね」


翌朝、ウサモフは、探し当てた手紙をディスプレイに表示していた。


語彙のレベルを落とし。小学3年生に理解できるよう配慮されていた。


『天音へ。元気にしていますか。毎日、学校へ行って、お友達と仲良くしていますか。お父さんは元気にしています。お父さんは天音がやさしい子に育ってくれてうれしいです。小さい子がいじめられないように守ってあげていると学校の先生が言っているのを聞きました。天音はお父さんにとってたからものです。お父さんは、お母さんとけんかして家を出ていきましたが、天音のことはいつでも心配です。大きくなったら、また、会いましょう 愛する父より』


「これも焼却炉で焼失しているみたいだね。届ける?」


こくりと琥珀はうなづいた。


天音ちゃんのお母さんの仕事のシフトを確認すると、不在だと分かっている時間帯を狙い、玄関口についている郵便口に投函した。


琥珀は、彼女に届くことを祈ることしかできなかった。


月曜日になり、天音ちゃんがはしゃいでいる姿を琥珀が見かけた。


「なにかいいことあったの?」


「うん。秘密だけどうれしいことあったんだ。私、早く大きくなりたい」


少女の笑顔を見て、琥珀は自分のやったことは間違っていなかったと悟ったのだった。

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