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小さなアパート

「おならぷー。うんこぷりぷり」


男子は、琥珀の目の前にやってくると、腰をくねらせながら、お笑い芸人の仕草を真似したダンスを披露する。


今は、給食の時間、琥珀は牛乳を飲んでいた。


(お、俺の正体は大人の男なんだ。そうでなくても一応外面は、美少女っていう設定のはずだ。こんなところで牛乳を吐き出すわけには)


少女はすっかり忘れかけていた。


小学生の世界がしょうもなかったことを。


「うんこちんちん」


(うんこだけでも嬉しいのにちんちんまでついてくるだと?!だ、だめだ。俺は大人の男なんだ。こんな肛門期を卒業したばかりの児童向けの笑いに負けるわけには)


「ぶほっ」


「笑った笑った」


少女は感性が幼児退行していた。


だが、無事、牛乳は飲み干した後で、大惨事にならずにすんだのだった。


(はあ……。これから男子の意地悪を乗り越えなきゃいけないのか)


琥珀はこれから先が思いやられた。


「小学生生活を満喫しておるようだな」


「うわっ。ウサモフ!」


成人男子を少女に、変身させた亡霊のウサギは話しかけた。


「そう見える?結構、男子に意地悪されているんだけど」


「そりゃ、自分では自覚してないかもしれないけどかわいいからな。男子もいじわるしたくなるんだよ」


「そんなもんなの?」


自分が男子だった頃、そんなことしたことがなかった琥珀は実感がわかなかった。


「琥珀ちゃん。放課後遊びましょうよ」


天音だった。


大人の世界では、初対面の相手にお誘いをするのは、あまり信頼できるものではないが、子どもの世界の友情はそのあたりシンプルで敷居が低かった。


「うんー。行くー」


放課後になり、自宅に帰ると、そそくさと私服に着替えて、天音が待っている外に向かった。


「琥珀ちゃん、私服もズボンなんだねえ」


「うん。スカートとか恥ずかしくて」


「わかる」


意外とわかってもらえた。


リアル女子もやっぱり恥ずかしいのかなと琥珀は思った。


天音の家は小さなアパートだった。


琥珀が、かつて、男児だった頃、遊びに行ったことのある女の子の家にはうさぎのドールハウスや男兄弟がもっているゲーム機なんかが置いてあったが、天音の家はそんなシャレたものはおいていなかった。


おもちゃといえるものは、学校の授業の一環で買ったような縄跳びだけ。


ゴムボールのようなものすらなかった。


琥珀は、スーパーのチラシと100円ショップに売っているようなデザインのシャープペンシルを見つけると、女児風の画風に合わせて琥珀がウサモフの絵を描くなどをすると、天音は、対抗して、かわいい女の子の絵を描いた。


(うまい……)


琥珀は思った。


「私ね。大人になったら、絵の学校に行って、漫画家になろうと思ってるんだ」


「天音ちゃんならできるよ。夢はかなう」


「ありがと。でも、うち、貧乏だから…。パパ出て行っちゃったし」


琥珀に最初にできたお友達は母子家庭だった。

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