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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第96夜 軟骨5本

「軟骨5本ね」

 股関節の軟骨が擦り減ったのが痛くて、この店に這うように歩いてやって来るのは至難だ。だが来ないではいられない。コの字カウンターだけのこのもつ焼き屋は私の瞑想場だから。スマホもイヤフォンもポケットから出さずに、ひたすらカウンターの対岸や調理場の動きを眺めながら、もつ煮込み、串、レバ刺、煮込に浸した豆腐を生ビール、酎ハイで流し込み梅割りで締める。締めて3150円。

 今日も軟骨串の比率を増やした。医食同源、せめても飲み屋で股関節の回復にすがるのだ。一本180円の豚軟骨を大量摂取したところで股関節の軟骨再生に効くとは思えないが、頼む。頼る。昨年へそ下から脂肪を摂取して数ヶ月培養した物を右股関節に注入した。最高学府東大理Ⅲ出身チームの努力で手が届く費用での幹細胞治療が叶った。が、私は臨床実験に貢献出来なかった。MRIには変化は認められず、鈍痛も跛行も改善はしなかったのだ。

 たどり着いたカウンターは適度な接客スタンスで、一人客に優しい。私は軟骨串を右並行に引きながら人生のこの先を憂う。誰もそんな私に干渉をせず、各々のペースが流れる。カウンター反対にぶらさがる品切れネタの赤字を見つめながら、自身の体のパーツの品切れを思い深くため息をつく。クライアントの元に通う仕事スタイルの継続はもはやキツい。となるとオンライン会議やメールでのコミュニケーションになるが、そんな血の通わない人間関係は無いと思っているので、動きを限定されたこの身に活躍できる職場はもはや無い。オフでも3歳の孫の手を引いて公園に行くのは何か突発的なことが起こってもすぐに反応できない私では息子たちにも申し訳ない…。串の焼き場から盛大に立ち昇る煙は絶望の狼煙(のろし)で、ネガティヴな感情がカシラに充満していく。

「軟骨もう一本ちょうだい」

「すみません軟骨ヤマです」

店員がそう言いながら軟骨札を赤字のものに掛け替える。

「おい、ここでも軟骨は終わりかよ」 

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