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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第92夜 河童たちのあくび

 一体いつからだ、こんなにも河童が増殖したのは。ダークなスーツを身にまとい黒いナイロンリュックを背負った河童が通勤の群れとなり、東京駅を動き回っている。きっと増殖したのはスマホが浸透したのと時を同じくしたはずだ。タッチパネルを操作するのに、まだまだ両手でないと具合が悪い。手提鞄種はそうして河童種へ進化したのだ。それより少し前、出現した手引カート種は今もますます増殖している。こちらはカラフルなのが多い。そんなにも日帰り旅をするのか? はたまたそんなにも多くのものを持ち歩く必要のある生活なのか? それでも世代無く犬の散歩のごとく引き歩く。

 これらの種は自身の周囲スペースを占拠するという特徴を持つ。満員電車では河童の背後に謎の無人空間が生まれ、駅コンコースではカートの持ち主とともに周囲のドッグランが移動する。もちろんそうしたトランスフォームは自由だが、それにより苦虫が発生していることを忘れてはいけない。関節に痛みを持つシニアは少なくない。見た目にはわかりづらいが、一歩ずつ痛みを堪えながら歩いていたりする。もちろんとっさの反復跳びのような動作は不可能だ。ぎゅうぎゅう詰めの車内で立ち続けるのは許された足底だけのスペースでは至難、人混みのコンコースで前の人に遅れまいと痛みを堪えて歩速を上げた時に限って、フロア近くに仔犬のようなカートが左右に揺れながら着いていて足を取られそうになる。

 甲羅リュックを車内では前に抱える優良種もいるが、お構いなしの在来種ほど生命感に欠けて見える。ストレートネックをそれでも不自然に傾けながらスマホに見入る。怠惰な空気感の中で右親指だけが忙しなく動く。何かと思えば色玉を仕切に移動させているらしい。どうやら在来種河童の仕事はゲームのようだ。生産性のない仕事に嬉々として取り組み、空いた時間に労働窟へ吸い込まれていくのだ。新橋が近づく。規則正しい市松模様のように背後が空いた車内の各所からフワ〜という大きなあくびが呼応する。忘れていたが在来種は耳に栓がされているのも特徴だ。

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