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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第63夜 ベランダ方丈記

 浮かぶ雲は次から次へと北へ運ばれ、椎の最頂部の枝葉を揺らす風は、日光浴に微睡む私の火照った肌を優しく癒す。ベランダは洗濯物を干すだけの場所にあらず。とくに二階の角に設えられたここは3×3mの方丈空間。プランターのスナップエンドウのツルや、まだ収穫には程遠いミニトマトの苗の隙間にビーチリクライニングチェアを置き、屋根に真っ直ぐ切り取られた空と半年以上ぶりに対面すると、お互い少しはにかみ瞳を逸らす。

 紫外線は私を劣化させようと差すが、若かりし夏の日とはこちらの知恵が違う。夏を待たず盛春の柔光で、まるで遠火で渓魚を炙るが如くゆっくりと、そしてSPF値の高いサンオイルというタレを乾いては塗りじっくり仕上げるのだ。夜の輩のような黒光りではなく、あくまで飴色。そう、フィンカビヒアで思惑するヘミングウェイの肌の色だ。

 老犬ベティが私の周りを訝しげに彷徨く。コパトーンのココナッツフレーバーが気になるのだろうが、私以外に何もない。諦めて方丈端の日陰にフテ寝する。呼び寄せ耳裏を撫でてあげると機嫌を直して私の足の甲に腹を乗せ満足そうに寝そべる。

 太陽の下ではいつだって全てが平等だ。だがその日差しが激化する時、逆にうんともすんとも言わない時、物理的差異が不平等を生み出す。細工が出来る知恵や指先、移動出来る機能や熱力。しかしそれらも、太陽系という都合のいいゾーンの均衡の中のみのことで、ひとたび圏外に出たならば全て素粒子に帰す。ある意味平等に帰す。

 5月の方丈は思惑に寛大だ。暑さに居た堪れず水に飛び込みたくなることもなく、喉が疲労するほど水を飲みたくなることもなく、ただただ空との対面が叶う。生まれたままの姿と心で。

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