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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第62夜  鶴を折る女(ひと)

地下鉄丸の内線のドア脇に寄りかかりながら手を動かす女性が何故か気になり、しばらく横目で観察した。飴の包みでも小さくしているのかと思った。しかしその人はマニキュアの施された長い爪で2センチ四方ほどの小さな紙を丁寧に折り続けている。私が少し目を離した間にその紙は仕舞われたようで手には無かったが、女性が手首に掛けていた小さな紙袋を開いたところで状況が掴めた。同じサイズの紙が幾つものジップロックに色とりどりたくさん詰まっていたのだ。


これで856羽目。往復2時間の通勤で40羽が折れる。家で頑張れば明日には千羽を終えられるはず。間に合って、いや絶対に間に合う。そしてまた一緒に毎日を過ごすの、絶対。


赤いマニキュアは千羽鶴にどこかそぐわない。何故か? それはマニキュアを塗る時間は人生の中でいちばん不要不急な気がするからだ。まあ私がマニキュアに縁のない男だからかもしれない。だがどう考えても後回しでいい行為だ。


この爪の長さじゃないとこの小さい鶴は折れないの。もっと大きなのを折れたらいいんだけど、集中治療室では許されない。マニキュアだって不似合いなのは分かってるけど、長いだけの爪って切り残しみたいでだらしない。というより、あの子が私のマニキュアをいつも「ママの爪かわいいね」って言ってくれてたから。


あれ,一つ足元に落ちている。「あのー、すみません…」拾うのは避け声をかけて知らせた。スカートだったからだ。女性は丁寧に御礼を返し、拾った黄色の鶴を紙袋にしまった。疲労を感じさせる表情に、私は鶴の意図について聞くことは出来なかった。


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