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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第52夜 花を創る

「父さん、僕のお菓子が賞を取ったよ。それもフランスで最高のやつ」

息子が作っているのは和菓子だ。何の経緯でフランスなんだ?

「お客さんが言うには、茶席であちらの人がすごく興味を持ってくれて、フランスに持ち帰ったものが審査メンバーの目に留まったそうなんだ」

コンクールを待たずに全会一致。そんなのは前代未聞だが、どうやら息子の菓子は文句なしだったようだ。練切、こなし、外郎、雪平、鹿子、上用、姜、求肥、金団、葛…、いくつかの加工法の中から再現性の高いものを繰り出し具現化するのが和菓子。

春、隠元餡に僅かの抹茶粉。陽光で輝く新緑。

夏、食卓にはあり得ない青の紫陽花寒天。

秋、白餡は鋏が入るごとに花びらが一枚また一枚と重なっていき、まあるい白菊が咲く。

冬、漆黒の漆塗りに真っ赤な椿が佇む。漆黒は闇夜の雪だ。

いわば和菓子作りは視覚の味覚化だが、息子はいったいどんな菓子を作ったんだ? 

「圏太瓜。そう、地球みたいな星と言われてるアルファケンタウリに咲く花をイメージしたんだ。だから味も含めて地球上の発想から一番遠いものにしてみたんだよ」 

 確かに茶菓子に宇宙を持ってきた人などいなかっただろう。しかも荒涼とした星ではなく咲いていることがあり得えそうな星の花。なんと花が緑色で葉が紅だそうだ。その違和感は毒気にはならず、禁断の身を摘むような厳かな気分にさせられると言われたらしい。いつの間にそんな発想を持てるようになったんだろう。

 しかも花の味? 菊以外は食べたことはないが…。息子は見た目だけでなく味も常軌を逸した。和菓子は餡や寒天などほぼ同じ材料で色や形を駆使して作るので、目で愛でた後の味はほぼ同じだ。しかしフランスなど外国では例えばブームになっている抹茶粉を材料として菓子を作るときは、四季の食材を材料に取り入れ変化を出す。木の実、果実、酒、スパイス。それらは抹粉茶の個性を損なうことなく引き立てる。息子は星の生命感を既存の和菓子手法から逸脱しない中で表現した。まずは花。砂糖は使わず干し柿を緑のきな粉に練り込み生地を作る。紅の葉は葛にビーツで色付けした。圏太瓜は地球とは違い葉の上から花が湧き出すように咲くイメージだそうだ。息子はテロンとした葉でアザミのように炎上するように咲く緑の花を包んだのだ。

「僕はこの花の他にも、想像したものをすべてノートに書いていて、アルファケンタウリが地球くらいの大きさだとしても、全土がまんべんなく花で包まれているイメージをしているんだ。だって地球みたいに乾燥していたり凍っていたりするところがあるから、争いが生まれるんじゃない。そんなのもうよしたらいいのに。嫉妬 焦燥 嫌悪 詮索欺瞞 詭弁 反駁 疎外悪戯 敵意 難色 醜聞 不快 背徳 復讐…、みんな心の底から湧き上がるんじゃなく、頭で考えてやっていることだと思うんだ。そんなのはみんな過去の繰り返しでしょ。だから僕は全く違う環境から物事を考えてみることにしたんだ」

 私は半年前に還暦を経て毎日を読書に費やしているが、息子のこの言葉で古今にわたり心の機微に一喜一憂してきたことがもどかしくなってきた。そう、みぞおちあたりにボウッと緑の花が咲いた感じで。

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