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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
40/164

第40夜 すべては雑誌が教えてくれた

 巻頭16ページぶち抜きグラビア

 青空ことり『かりんの気持ち』

 "生まれ育った町の商店街を数年ぶりに

  歩いて気づいたんです、

  果物屋さんのおばさんの

 「ありがとね」の声も

  魚屋さんのおじさんの

  「まいど」の声も

  みんな心の声なんだって。

  感謝の気持ちがこもってる…"


 成長途上の日本。街角ラジオに流れる歌い手の立ち居振る舞い、素顔がそこにはあった。憐憫や非情、恋慕や憎悪が紡がれた物語がそこにはあった。一過するナラティブではない。いつもそばにあり、心動の糧となっていた。それが雑誌だ。


 センター中綴じ32ページ

 『オール、ザッツUSA!』

"僕らの渇きの旅はここに終着したんだ。

  カルチャーもウェアもロックも

  昨夜のむず痒さを開放してくれた。

  さあ今日からまた新たな旅に出よう!"


 こんな田舎町では民放2局のみを映すテレビだけが唯一のエンタメ。若い血はどうしたって温まりもしない。2ストの二輪を駅前に停め商店街をぶらついていたら、小さな本屋の表のスタンドに見慣れない表紙の雑誌が目に入ってきた。手にしてみると新しいジャンルの男性向け創刊誌。"僕らは好奇心でできている"なるキャッチフレーズらしい。めくってみると確かに男の好奇心のすべてが詰まっている。これでもかと市井のアニキたちの声がテキストに変換され列記される。趣味を突き詰め生涯の仕事にした業師、コレクター、エンスー、バガボンド…、生き方なんて人の数だけあると知った。


 表1 フレンチゲート

 グランサンクの最高峰

 新デザイナー就任記念特集号

 『génieの審美眼』

 "いつだって触れていたい。

  どこまでも寄り添っていたい。

  天才による仕業たち"


 フォトグラフィ、アートワーク、プリンティング、ファインペーパー、ソフィスティケイテッドテキスト…。美の表現に妥協はない。たとえひと月で消える誌面でも、そこは厳選され尽くした30日間のギャラリー。試行錯誤された印刷技法による写真の再現は、静止画というひたすら無二な瞬間を追い求め得た奇跡へのオマージュ。緻密かつ感性で配されたレイアウトが与えるネーム数に合わせ凝縮されたテキストは、見開きA3サイズに出現する一見寡黙だが実は饒舌なプロムナードなのだ。


 それは慎重かつ大胆であった。何人もの職人たちの手といくつもの工程の日々を経るから、慎重になるのは当然であった。仕上がった世界観を支持する人々の期待を裏切ることなく、常に想定域を脱するためには発想を大胆にせざるを得なかった。各誌独自の手法で世界を創る。編集部総出でロケバス数台に分乗し都内のカレーをくまなく追い求め、もれなく紹介する。そんなことまでやってのける。他メディアがおよそ考えもしない、むしろ非効率で避けたがる取材を競い合うことで、書店やコンビニのマガジンスタンドは百花繚乱の賑わい、だった。


 フィルターバブル、エコーチェンバー、地球上を網羅するデジタルネットワークによるパーソナライズの結果、皮肉なことに世界が狭小化していく。既視感と想定内のレコメンドにずっぽり浸り続け、好奇心は発芽のきっかけすら失っていく。次ページの期待、次号までの待望、その間に膨らみ続ける妄想。この1冊200ページは生き甲斐すら創り出すはずなのに。ファイト!

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