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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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第24夜 大路勅旨の夏

 古い家屋が代替わりで新しい家になっていく中で、鎌倉の個性がどんどんなくって行くことを危惧した人々がSNSなどで発信し始めたことで、古都の佇まいへ回帰していく声がうねるように高まっていった。ずっと跡地としてその基礎構造のみを公開していた永福寺の建物全てが現代に蘇った。ただしVRの中ではあるが、細部まで再現された左右均衡のとれた鳳凰の姿に人々は時代を超えたロマンを味わうことができた。さて、これに気をよくした人々は次の対象を求めた。目をつけられたのは執権の世に構想したと言われる石畳計画。ぬかるみの多い幹線道路を整備する目的だった。情勢により頓挫したが、それがなければ勅旨となり鎌倉の様相は一変していたはずだ。石畳は寺社の参道にはよく見られるが道路は今やアスファルトばかりなので確かに新鮮だ。初めはネット上の小さなチャット交換レベルだったが、ある時から歴史学者がその場に参加したことにより議論がヒートアップし、やがてVRに留まらずリアルの再現(というより実現)に向けたクラウドファンディングが立ち上がり、外国をも巻き込んで億単位のビッグプロジェクトとして条例が可決された。

 そこからは早かった。施工業者、交通規制に積極的な協力があり、電線の地中化も合わせ半年ちょっとで極楽寺から十二所、名越に至る範囲の公道はすべて石畳に生まれ変わり、電線が消え空が大きく広がった。プロジェクトは環境保全にも発展しこのエリアの走行許可車両は電気自動車のみとなった。さらに住民は指定された時間のみに走行が限定され、鎌倉住民はこの土地の番人であることを背負い環境維持を課せられた。海岸線の国道134号線は江の島の交差点から材木座のトンネルまで自動車帯が茶色、自転車帯が青色、歩行者帯は緑に塗られ、この管理された鎌倉エリアに入ったことを意識づけられれた。

 このエリア内の移動は専用ビークル『KAGO』で行う。KAGOはゴルフ場にあるような4人乗りの電動カートで、最高時速20Kmでの自動運転。好きな場所で乗り捨てることができる。客を降ろした車両は掃除機ロボットのルンバが充電に戻るように指定の待機場所へ向かい充電しながら次の乗車客を待つ。客は乗車のバッティングがないよう、必ずアプリで予約する。もちろん住民も対象だ。市中では各商店が競う様に往時の空気を独自に表現することで、自然食メニュー、伝統技法のインテリア、雅楽のBGMなどが急速に取り入れられ、日本文化の再発見につながっていた。 観光はもはやガイドブック頼りではなく、KAGOのマイクがリクエストを聞きチャットGPTによりその時の気分でルートを作る。あとは勝手に運んでくれるのだ。乗車中もどんどん話しかけることで季節に合わせた花の開花場所や、席が空いた飲食店の案内をして予約もしてくれる。出店は事前申請により指定の場所で行うことができるので、路上は思い思いのポップアップショップやマルシェで賑わった。専用アプリで出店場所とショップの詳細がわかるのでKAGOで自由に行き来でき、買ったものはショップに託すと、ポーターKAGOが管理鎌倉エリア外に設けられたパーキングセンターに届けておくので、帰りに自分の車に乗せて帰るだけだ。パーキングセンターでは調湿の整った管理庫で野菜も鮮度を保ってくれるので鎌倉ブランド野菜は大人気で需要が大幅に伸びたことで拡大した計画栽培が可能になり不法投棄地などがどんどんみずみずしい農地に変わっていった。朝比奈インター併設のパーキングセンターでは、復路のドライブ需要を狙ったフードカウンターが軒を連ねる。チェーンのカフェはもちろん起業家たちがオリジナリティを競い、サービスエリアグルメのメッカとなった。

 さて鎌倉石畳、初年度の夏は物珍しさと海水浴客が相まって多くの人々が訪れたが、秋風が吹くころになると人も減り、エリア内の走行可能時間には石畳に揺さぶられた地元住人や配達の乗用車がスピードを上げられずにノロノロ走る様子が目立つようになった。その姿はあまりに牧歌的でさしずめ中世の牛車のよう。それがさらに往時を思わせ現代的解釈の古都鎌倉が出来上がった。

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