第138夜 アバターのえくぼ
多種多様
十人十色
唯我独尊
オンリーワン
周囲がざわつくほどに、私は静謐へと身を運ぶ。諸事を断捨離しミニマルへと向かう。それは物質としての地上の私を離れ、俯瞰で生きようとする行為。止められない、だってそれはあまりにも心地いいのだから。
さっき化粧品を全て捨ててきた。さっぱりした。なんのための塗布行為なのかわからなくなったところで、それは意味を持たなくなった。綺麗に見られることより、ピュアな美しさを目指すことにした。花だって空だって塗布しないのにあんなに綺麗。きっと人間だってそうなれるはず。ありのままが一番綺麗なはず。
欲
邪念
煩悩
器官
鏡を見ることがなくなってから自分がよく見えるようになった。欲求というスイッチが入ることで生きている私がわがままを始める。すべて枯渇を埋めようとする行為。さらに酷い時には満ち足りたいためだけの行為。満ち足りるというのは過分。全て断捨離したはずの自分から不意に分泌して止まない膿。自然治癒を望むべくもなく、その瘡蓋は落ちてはまた固まる。
この鬱陶しい生理現象から解放されたい。湿潤のない無機質の中で静かに浮遊したいけれど、空腹、不安、排泄、眠気…次から次へと私を襲う無意識の喧騒。望まずとも襲ってくる現の性。
メタバース
マルチバース
高次元界
意識界
大悟の末に辿りついた境地。静寂とした場所。意思なく操られる掻痒感すらなく、有無、陰陽、明暗の二項すらなく、私という証すらないところ。形も重さもない無機質なところ。浮遊など概念すらないところ。
そして確かにあるところ。