137/139
第137夜 木陰のレクイエム
一陣の風は夕顔の蔦をすり抜け
滑川の川面を僅かに波立たせる
一瞬の衣張山の気まぐれに
息を呑んだ蝉たちも直ぐに我に帰る
正午の陽射しは真俯瞰のシルエットを地に描き
輪郭に沿って蟻たちが行進を続ける
太い幹の西側が夜明けからの影となっていることを知る愛犬は
全身を弛緩させ寝息を立てる
私といえば浜辺用のリクライニングに身を預け
寝返りすることなくSFの宇宙旅行に没頭するが
いつしか木陰の輪郭は形を変えており
足先の暑さに我に帰ると愛犬はすでに場所を変えていた
しおりのページは数千光年離れた惑星着陸の件
荒凉たる大地には水の気配もなく
躊躇しつつも船体を着陸させると同時に
地面から無数の蛇に似た生物が出現し
窓の視界は一瞬で消えあらゆる穴も塞がれた
空想の旅は最終ページで終わりを告げる
私も新たな地に着いたかのように
いつしか周囲はひぐらしの時雨に変わっている
それ以外は何も変わることなく
こんなにも穏やかな地上の裏には
焼き尽くされた校舎
激しい鼓動で天を仰ぎ地に額着く人々
それも同じ惑星