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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
132/139

第132夜 ゼンリャク カアサン

ディア マム もしくは ゼンリャク カアサン


 今朝の座禅会で不思議な体験をしました。鳥と会話をしたんです。写真では見ていた結跏趺坐というのを実際やってみたら、初めはキツかったけど体が柔らかかったおかげですぐに慣れて次第に瞑想に集中できました。改めてこういう体に産んでくれてありがとう、マム。瞑想は普段から落ち着く手段として心掛けていましたが、本物の空間でやると集中度合いが違います。瞼は硬く閉じず半眼にして水面の揺らぎみたいなものを感じながら、次は呼吸をいつもの数倍かけて体に覚え込ませていくと、線香の匂いや僧侶の畳を歩く音が薄らいでいくんです。

 どのくらいの時間が経過したのかは分からなくなっているし、それもどうでもいいことになってるんだけど、そんな時空気の端っこを持って上下に揺さぶっているような気配を感じたんです。それはもちろん私の耳に入ってきた音なんだと思うけど、これは少し違う。それは音楽でも言葉でもないから。僕はもう少しそれに意識を傾け続けたんだ。そうしたら分かってきた、それが鳥の発するものだと。でもいつもの鳴き声じゃあないんだ。僕の鼓膜を震わせているんじゃなくて、空気である僕が震えている感じ。だからだと思う、その鳥がはぐれた我が子を探していることだというのを知ったんだ。僕はその子の消息が心配だけどこんなふうにしか言ってあげれなかった、"竹林なら地面は柔らかいから落ちたとしても平気だよ"、と。そうしたら鳥は探してみると言って飛んで行ったよ。

 マム、僕の頭がおかしくしたなんて思わないでね。至って普通だから。いや、大学で学んできたことが体現できているからとても充実してるし、ものすごく早いテンポで自分が変わっていることを実感してます。それは何につけ物事の根本を見ようとするようになったこと。何故こんなにも夏が暑くなったのか。何故国ごとに価値観や貧富の差が生まれるのか。何故完全な平和は実現しないのか。もちろんそこには簡単な答えなんてないけど、僕なりの納得できる解は求めたいんだ。

 家を離れて3ヶ月になるけど、今は無性にマムのレモンメレンゲパイが食べたい。日本には世界中の食べ物は何でもあるけど、あれはどこに行っても無いの。きっとうちのレモンじゃなきゃあの味は出ないんだと思う。あの甘酸っぱさはね。でも毎日ちゃんとご飯は食べてる。探せば安いものがいっぱいあるからね。暖簾をくぐって立ったまま食べるヌードルのお店は楽しいよ。美味しそうな天ぷらをリクエストして上に乗せてもらえるんだからね。ベジタブルだって、どこに行っても必ず出てくる。甘じょっぱく煮たものやボイルして醤油をかけるだけのものなど、いろんな食感に変化してるから飽きることがないよ。

 もう少し日本を見ていきます。禅に身を置いてみたらお茶やら能やらも知りたくなったの。マム、沼って言葉を知ってる? ハマるとなかなか出てこれないくらい魅力的な世界のことを日本のスラングでそういうんだ。茶道はまさに沼だよ。お茶を入れて飲むだけじゃなくて、その所作から飲んでもらう人のお迎えの仕方、そして飲んでもらう場所の設え方まで気を配ることが山のようにある世界なんだ。生半可な気持ちじゃ身につけられないから時間がかかるかも。でも帰ったらマムにお茶を作ってあげるね。その時はレモンメレンゲパイをよろしくお願いします。


お元気で


ティム

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