表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
105/165

第105夜 101回目のプロローグ

 駅近い書店の自動ドアを抜ける時はいつも決まって深呼吸をする。普段はそんな風に気持ちを改めることはないのに、まるで走り高跳びの助走直前のような身体の準備を意思に関わらず反射的に行うようだ。なぜこんな状況にあるかというと、他でもない、それは選考通過者発表号発売当日の朝だからだ。だが決してこういう朝は初めてではない、むしろ数えきれないほど迎えてきた。しかし、その度ごとに2分後には肩を落としてきた。

 小説を読むごとに作者の苦労が身に沁みる。展開の仕掛けに感心する。それでも常に物足りなさを感じ本を閉じ自らの書きかけ原稿に向かう。足りなさは読む側の期待感が上回る状態をいうのだろうが、わたしについていえば期待というよりは痒さなのかもしれない。掻きむしって欲しいのに撫でられることでもどかしさが募り、それを消すべくぶっ叩いて欲しいのに見向きもされない。つまり、衝撃的なストーリーでも、唸るようなテクニックでもないのに、他人の作品は明らかに自作より優れているのだ。

 正直萎える。わたしはそれほどまでにつまらない人間なのだろうか? 自分なりにストーリーの起伏をつけているのだが、そんなつまらないわたしからアウトプットされる作品だからドラマ性のかけらもないのだろうか? 振り返ればこれまでの毎日は確かに淡々としたもので、拳銃の入った紙袋を拾ったり、異国の荒野を彷徨ったりしたことはない。ただただ身の丈の妄想を順番にならべ、そして入れ替え、架空のストーリーに仕上げることがわたしの執筆の全てだ。となると真価はその妄想の優劣、強弱、緩急、深残、濃薄ということなのか? 

 選考からはもれていたので、気を取り直して新たな作品へ向かう。パソコンでワードを開きタイトルを打ち込む。カーソルが一行目の一文字目で点滅する。

「打て、打つんだ、字を!」

萎えながらも原稿へ向かうわたしは明日のジョー。だが『刹那』などとつけた漠としたタイトルから発想は湧いてこない。そして砂漠にオアシスは現れない。カラカラの脳が空っ風に撫でられたその時、一瞬だけ閃きがよぎる。こぼすことなきよう、すかさずキーボードに第一番目の文字を打ち込む。

 いつの間にかこれが101作目か。またあの数ヶ月間の妄想旅が始まるのだ。それは自ら望んだものではあるが、あまりに苦しくそれでも止めることのできない片道放浪なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ