第89話 science or nature
こんばんは^ ^
ハロウィンに便乗して投稿失礼します。
また暇な時に読んでいただけたら嬉しいです!
よろしくお願いします♪
「おーい、誰かいないのか!
母さん、母さん?」
月城がソファから立ちあがろうとする。
しかし動かない右足に体重をかけたせいだろうか。
月城の身体はバランスを崩しドンと大きな音を立て床に倒れ込んだ。
「先生、どうしました?
大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞きつけた先程の中年男性がリビングへやって来ると、慌てて月城を起こしソファへ座らせる。
「あの、すいません。
そこのスピーカーのボタンを押して!
何か曲をかけてください」
中年男性はクリオネに向かってそう言うと、本棚の上に置かれた薄型スピーカーを指差した。
「えっ、これ?」
訳もわからぬまま本棚の方へ移動するクリオネ。
そしてスピーカーの再生ボタンを押すと、リビングにはまたクラシック音楽が響き渡る。
割れたような、しかし不思議と耳に絡みつくあの音だ。
月城はソファで目を閉じながら、黙って音楽に耳を傾けているようだった。
「何これ。
これでいいの?」
首を傾げるクリオネに中年男性は重く息を吐きながら答えた。
「はい、すいません。
先生の気を悪くするかと思ってあなたには黙っていたんですが、実は……先生は認知症を患ってまして」
「……いつから?」
「大木碕大学の院内で放火騒ぎがあったのはご存知ですか」
「あぁ……なんとなくは」
マオとユキトがテロメアの正体を問い詰めた時、無線通信機から聞こえてきた話をクリオネは思い出した。
「その時、先生はまだ院内に居た生徒たちを庇って、焼け落ちてきた柱に足を挟まれ重症を負ったそうです」
「センセイの右足が動かなくなったのは、その時の後遺症だったんだね」
「ええ。
それで先生は思うように歩けなくなり、教授を退きました。
それからは家に篭ることが多くなって……多分その少し後だったと思います。
段々と物忘れが激しくなったのは。
今ではこの音が無いと、自分が何者で何処にいるのかすらも分からなくなってしまうんです」
「じゃあ、この音楽が認知症の症状を抑えてるってこと?」
「正確には、あのスピーカーから出る音でしょうか。
人間の脳は音や光などの刺激に少なからずとも反応を受けます。
スピーカーから40Hzという周期の音を出し、脳に刺激を与えることで強制的に記憶を思い出させている、と言えばいいんでしょうかね。
とにかく40Hzの音を聞くと、人の脳は特別な脳波を出すんです。ガンマ波という名の。
これが人間の記憶力に左右するわけですが、以前はせいぜい認知症を予防するくらいの効果しか期待できないと言われていました。
しかし先生の為にと、教え子の中にガンマ波をより増幅させるようなスピーカーを作ったやつがいたんです。
早速効果を試したところ、どうやらスピーカーから音が出ている間は先生の認知症もすっかり回復するみたいで……」
「ふぅん。このスピーカーが認知症の薬ってわけだ」
「まぁ、そんなところです。
でも記憶を思い出すという作業は疲れるでしょう。
それは思い出すことが多ければ多いほどに。
あの、先生もかなり脳が疲れている頃だと思います。
少し休ませていただいても良いですか?」
「分かった」
クリオネは肩をすくめる。
さて、これは手強い。
資料の内容を聞くのに、いったいどれだけの時間がかかるだろうか。
クリオネがそう考えた時、それまで閉じていた月城の目がゆっくり開かれた。
「いいや、続けてくれ。
もう大丈夫だ。
今は一刻を争う。
カイ君を救う為にも私がしっかりと伝えなければ。
こんな大事なことまで忘れてたまるか!」
月城は数分前に起こった出来事を思い出してきたのか、クリオネを視界にとらえると苦々しく言った。
「人間、いつかは老いる。
身体も思うように動かなくなり、大切だった思い出すらも忘れてしまう。
これは……戒めだ。
そして私が生きてきたという証拠でもある。
だから治そうとは思わなかった」
月城は自分の右足をポンと叩く。
「抗ってはいけない自然の摂理、喜美所長はそれを分かっていない。
私だって教授であったこと、気にかけてくれる大切な教え子たちがいることを忘れたくなんてないさ。
だが永遠なんてものは絶対に存在しない、してはいけないと思う。
人間の文明が自然の摂理を超えることは許されるのか。
何が正しくて何が愚かなのか。
私はいつも考えてしまうよ」
「先生……」
「悪いな、こんな話。今のは年寄りの戯言だと思ってくれ」
月城は慌てて話題を変えるかのように中年男性に声をかけた。
「いやぁ、どうもさっきより記憶が霞んでしまっているみたいだ。
私は確か君の言う院内の放火騒ぎを調べていたはずなんだが……何が分かったと言った?」
「あぁ。あの放火騒ぎは当初、カイ博士を良く思っていない連中の仕業だとされていましたからね。脅迫状だって送られてきたし。
先生はあの日、院内で変な男とすれ違ったと言っておりましたよ」
月城の想いを汲んでか、中年男性は平常を装って答えた。
「変な男って?」
クリオネが尋ねると中年男性の顔がこわばる。
「一斗缶を手に持ってて、両手両足に変な器具をつけた男がいたそうです。
怪しいでしょう。
でも警察に話しても事故で片付けられて、それっきり碌に調べられもしませんでした」
「あぁ……、そうだ、思い出してきた。
あまりに納得がいかないんで、その男に繋がりそうな手がかりを探していたんだった。
そして……私は男がつけていた器具と同じものをユーゼンで見たと思う」
月城が思い出しながらぽつりと話す言葉に、クリオネは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「それ、ほんと?
確かなの」
「ユーゼンに行った時、喜美所長が見せてくれたはずだ。
試作品だと言っていたが……ユーゼンの商品にしてはあまり有名ではなかった。
名前は……あぁ……そう、ムーブエレクトロだったかな。
放火騒ぎと、そのムーブエレクトロは何か関係がある」
まるでその先の記憶を手繰り寄せるかのように、月城は頭に手を当てた。
いつも読んでいただきありがとうございます^ ^
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今日はハロウィンっ!!!!
あと数時間ですが、皆様の素敵な1日になることを祈っています笑
科学か自然か、タイトルもトリックオアトリートに因んでしまいましたwwww
なんだかお祭り好きな感じになってしまいましたが、また暇な時に読んでいただけたら嬉しいです!!
ハッピーハロウィン♪




