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第88話 霞む月

こんにちは!

また今日も投稿させていただきました。


ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪

よろしくお願いします!!


 「十数年前、大学院で医学や脳科学を教えていた私の元に現れたのがカイ君だった。


 大学を卒業してから期間がだいぶ空いていたようだったが、院に来るまで彼が何処で何をしていたのかは知らない。何故かそれだけは話してくれようとしなかった。


 しかし彼は他の生徒と比べ物にならないくらい優秀でね。

医療クローニングには最も繊細な技術が求められる。

 カイ君の作り上げたクローンを見る限り、かなりの経験を積んだのだろうな。


 本物と言っても良い、より完璧なクローン。

 本物の熱意が込められた生徒の研究成果。


 違法だとは知りながらもその技術を非難することは私にはできなかった」


 昔を懐かしく思うかのような表情を浮かべた月城は、しゃがれ声で話を続ける。


 「実はその頃から喜美所長が私の元へ訪ねてくるようになった。


 『カイ君をぜひユーゼンの医療クローニング技術師として招き入れたい』と申し出があり、初めはやんわりと断っていたと思う。


 カイ君は確かあの頃、自分のクローンを作ったことで世間から非難を受け続けそれどころではなかったから」


 「喜美はカイ所長サンの存在を、この時から知っていたのか……」


 そう呟くクリオネに月城はゆっくりと頷いた。


 「そうだ。

 喜美所長はそれ以来、来る日も来る日も毎日のように院に通い続け、カイ君をユーゼンに誘おうとした。


 私はついに彼のひたむきな姿に負け、ある日尋ねたのだ。

 『どうしてそんなにカイ君にこだわるのか』と。


 彼は言った。

 『あのクローニング技術で完璧に再現してもらいたい人物がいる。私は今は亡きその人物に再び出会うためユーゼンを造ったんだ』


 それだけ熱心な研究者なのだろうとも思ったが、同時に彼が心配にもなった。


 カイ君と同じような思いをするのではないか。

 何となくそう感じてね。

 

 『失った希望をクローンに縋ってはいけない。縋るだけ自分が空っぽになってゆく。論文には大層なことを書いてしまったが結局、私の中に残ったのは後悔と虚しさだけだった』


 いつかカイ君が研究室で私にそう言ったことを今でも覚えている。


 忠告も兼ねて喜美所長にその話をしたんだが……彼はそれを聞くと寧ろ笑って言った。

 『では一度、あなたの目で見て確かめてください。私は自分の行いに少しの後悔も虚しさも感じていません』と」


 「難しい話だなぁ。

 オレはそんなもの作ったこともないし、熱心に何かに取り組んだこともないからよく分かんないけど。


 でも、喜美はカイ所長サンが欲しかった。

 だからカイ所長サンを動かす為にはあなたに接触を図るのが1番だと考えたんじゃない?」


 肩をすくめるクリオネに月城はまたもや頷く。


 「私もそう考えていた。

 カイ君とは実際に話す機会も多かったし、彼もそれを分かっていたんだろうな。


 その後、私は1週間限りの外部オブザーバーとしてユーゼンに呼ばれた。


 つまり、とやかく言うような決定権は与えないが、自分たちの辿ってきた軌跡を見たうえでカイ君をユーゼンに寄越してほしい。


 これにはそういった意味合いがあったのだろう」


 「なるほど。それでセンセイはユーゼンに行ったの?」


 「勿論。

 そして、そこで私は見たんだ!

 喜美所長は……脳科学に対して世のため、人のためと思って取り組んではいない。


 あれは……自分自身のエゴだ。

 その為なら人の命などどうなっても良い、そう考えた奴のもとに大切な教え子を渡せるか?


 いいや、渡せない!

 本当なら金輪際、関わらせたくもなかった。


 だから風間さんとカイ所長がユーゼンを調べていると聞いた時は正直、あの資料を渡すべきか迷ったんだよ。


 だがな、ユーゼンには良い研究員も沢山いる。

 彼らだって喜美所長に振り回されて良いはずがない!


 そう思い『エヴァンディール計画』の詳細を資料に纏めて送ったんだが……私は間違っていたのだろうか。


 教え子をわざわざ危険に晒してしまったんだ」


 うなだれ、大きくため息をつく月城。

 自分のせいでカイ所長とヤヨイがユーゼンに連れて行かれてしまったと罪悪感を感じているのだろう。


 「さぁね。

 間違ってたかどうかはあのふたりが決めることだ。


 カイ所長サンはいつまでもあなたの生徒で子供なわけじゃない。


 師弟関係に一生縛られて生きるのは……辛いよ。

 

 あのふたりがセンセイやオレを頼ってきたのだって自分達が考えて出した答えだ。


 オレたちにできる事はその期待に寄り添ってただ、仕事をこなすだけ。


 別に導こうとキバんなくたっていい……ってね」


 月城は顔を上げ、目をパチパチさせながらクリオネを見つめた。


 「……君は若いのに相当苦労しているんだな」


 「いいや、そうでもない。

 今のはある人からの受け売り」


 クリオネはふっと笑う。


 「ところで、『エヴァンディール計画』の詳細な資料って具体的には?」


 「計画の目的、内容、その計画を行う為にユーゼンが何をしてきたか……。

 手記に残していた当時の出来事を、教え子たちがPCに残してくれたんだ。


 コピーした資料は風間さんに送った分しか用意していなかったから君にも伝えておこう。


 …………君は聖書の内容をご存知かな?」




 ――――なるほど、そういう事だったのか。


 月城の話を聞いたクリオネは、頭をすっきりさせようと紅茶を飲み干す。


 これだけ大きな計画が裏で動いていたとなると、やはりユーゼンは絶対にその事実を隠したがるだろう。


 「へぇ。プランAとプランBね。

 作るのと壊すの……。


 センセイはどう思う」


 「というと?」


 「このふたつのプランを実行することがエヴァンディール計画みたいだけど……。


 ようはプランBで優秀な遺伝子を持つ人物は世界が滅んでもユーゼンの手によって生かされる。


 そしてプランA。本物の脳ミソとAIを融合させ、医療クローニングでその脳に合った最適な身体を作る。

 その結果、誕生するのが新人類。


 でも喜美がユーゼンを作った目的は亡くなった人物を完璧に再現する事。その人が誰かは知らないし興味もないけどさぁ、それにしたっておかしい。


 目的は人物の再現だけなのに、計画が飛躍し過ぎているよね。


 『エヴァンディール計画』は本当に喜美だけで考えたのかな」


 珍しくクリオネの眉間に皺が寄る。


 スピーカーから流れるクラシック音楽が段々と大きくなり最後の盛り上がりを見せていた。


 「いいや、これは私の推測なんだがおそらく喜美所長の背後には……」


 月城が言いかけると同時にスピーカーから流れる音楽が止まった。


 まるで月城もそれに合わせているかのように推測を言いかけたまま固まっている。

 

 「……センセイ?」


 クリオネの呼びかけにも反応すらしない。


 「おーい、聞こえてる?」


 音楽が止んだ静かなリビングで、しばらくして月城はクリオネにこう告げたのだった。

 

 「君は誰だ?

 何故、ここにいる?」



 どういうこと……? 

 何が起こったんだ?


 クリオネは呆気にとられ、何も言うことができないでいた。


 

いつも読んでいただきありがとうございます^ ^

月城先生、突然どうした……!?


また続きを書いていきたいと思います……。


私はお昼ご飯の準備をしにキッチンへいざ行かん!!笑

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