第85話 mimicry.代替案
今日は!
またお昼に投稿させて頂きました^ ^
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
よろしくお願いします!!
「では、お部屋に同行させる管理ロボットを手配しますので、後はそちらの指示に従ってお進みください」
「管理ロボット?」
ユキトは思わずコンシェルジュに聞き返す。
生まれてこの方、こんなグレードの高いマンションには住んだ事がなかった。
実家は洋館、一戸建て。今はごく普通のアパート暮らし。
管理ロボットがどういう役割のものなのか知る機会が無かったのだ。
「ええ。こういったマンションでは最近よく使われるようになっているんです。
今回の場合も管理ロボットがお部屋の電子キーを解錠して中まで同行しますが、事前に入居者様にはきちんと通知が行きます。
お部屋での様子は録画されてリアルタイムで入居者様に配信されますので、何か誤解を招くような動きはしないようご注意下さいね」
「……つまりこの格好で部屋を掃除してる姿がヤヨイに見られてしまうのか」
ヤヨイが戻ってきてこの動画を見たら、きっと散々笑って俺をコケにするだろう。
ユキトはマーライオンのヘソのイベントを思い出した。
何故、毎度自分がこんな役回りになるのか理解できない。
受付やらコンシェルジュやらに怪しい目で見られるのはもうたくさんだ!
「では準備が出来ましたのでご案内させて頂きます」
何とも言えない表情で遠くを見つめるユキトにコンシェルジュが声をかける。
ユキトの前に現れたのは足の部分が車輪になっている人型のロボットだった。人間ならば顔があるその部分にはカメラがついているのだ。
クローンボットとまでは言わないが、そこそこ精巧な作りをしている。
その管理ロボットが到着したエレベーターの階数ボタンを押し、ユキトが降りる時もずっと『開』のボタンを押して待っているのだから何とも感慨深い。
もうロボットが人間の心遣いまで再現できるような時代になったのか、とユキトは鼻で笑った。
管理ロボットは10階、1002号室の前で止まり、固い鉄でできた手を扉にかざして難なく解錠する。
ピピッ。ユキトが部屋に入ったその時、後ろで音と共にカメラのランプが赤く点灯した。
「なるほど。録画が始まったんだな」
管理ロボットがこの部屋で録画したデータはヤヨイの元へ送られる。
だからここでの出来事はヤヨイしか知り得ないということになるだろう。
玄関の扉が管理ロボットによって閉められた後、ユキトは携帯を取り出し電話をかけた。
「あぁ、ユキトくんか。上手くいったようだな。
前に映画で見た手法を真似てみたんだがこれは意外と使えるという事が今、実証された」
「なにが実証だっ!
何で俺がこんなことして実証しなきゃならないんだよ、クソっ!!」
悪態をつくユキトをテロメアは電話越しで冷静になだめる。
「仕方がない、君が適任だったんだ。
私はコンシェルジュと一度会っているから顔ですぐにバレるだろう」
「一万歩譲って、だ。
俺が適任だったとしても俺の声まで録音に使う必要はあったのか?
そこはテロメアでも良かっただろう」
「いいや、やはりそれも君が適任だった」
「おいおい、ヤヨイは女だぞ。
俺がいくらヤヨイの口調を真似たところで、声だって似ても似つかない」
「ユキトくん、声というのは声帯の形と声道の長さ、口の形、大きさ、あとは骨によっても個体差が出るものだ。発せられた声は骨を振動させる。もちろん声の出し方により、骨への響き方も異なってくる。
年齢、骨格、声帯、どの要素をとってもヤヨイくんの声に近かったのは私より君だ。
だからこそ、より本物に近い声に調整する事ができたと言える」
コンシェルジュと通話していたあのヤヨイの声。
あれはユキトがテロメアの後に続き、顔から火が出るぐらい恥ずかしい思いをしながら発した言葉だ。
だがユキトはテロメアが向けてきたマイクに声を吹き込んだ、ただそれだけである。
ヤヨイが言いそうな言葉をユキトが何パターンか声に出し、テロメアはそれを録音してユキトの声をヤヨイそっくりに仕立て上げたというのだ。
後は外にいるテロメアが録音データを上手く再生すれば、まるでヤヨイと通話しているかのような状況が出来上がる。
「あれでコンシェルジュの信用を得てヤヨイの部屋まで辿り着いたはいいが……何であんたはそんなことができたんだ?」
「あんた、ではない。『テロメア』という名前がある」
ユキトは頭を掻き、ため息をついた。
「ったく、『テロメア』はいちいち細かいな……」
呼び方に満足した様子のテロメアは会話を続ける。
「細かくなければ医療クローニング技術師になんてなれないさ。
カイ博士は以前、喉の火傷を負った患者を医療クローニングで治療したことがあったそうだ。
皮膚や器官、肺の一部をクローニングし患者はすぐに完治した。だがひとつだけ、元通りになるのに時間がかかった箇所がある。
何処だったと思う?」
「……声か」
唐突な質問にユキトは何気なく答える。
ヤヨイの声の話と何か関係があるのだろう。
ユキトの答えにテロメアはコクンと頷いた。
「ああ、そうだ。
クローニングで作られた声帯は元の声帯よりも筋力が足りなかったらしい。
カイ博士はそれに気がつき、患者はそれから時間をかけて声帯の筋力を取り戻していった。すると声も以前と同じく出せるようになったそうだ。
カイ博士はこの話を例題にしてよく言っていたよ。
ただ代わりの声帯をクローニングするだけでは技術師とは呼べない。
患者の口調や声の特徴、声帯筋のつき方や響き方、それらを完璧に再現できる術を知り、それが出来てこその医療クローニング技術師だと」
「カイ所長がそんなことをテロメアに言ったのか?」
医療クローニング技術を極めたことで人生が狂ってしまった人が、そんなふうに志を語るものなのだろうか。
テロメアはカイ所長の脳が完璧に再現されたクローンではない。
それなのに何故、テロメアの脳だけを完璧に再現しなかったのだろう。
ユキトは普段、カイ所長の口からは一言も聞いたことがない話に驚いていた。
「カイ博士は本当は私に……医療クローニング技術なんて学んで欲しくなかったはず。
それでも私の意志を尊重して、自分が持つ知識全てを教えてくれようとしていた。
私はそれに報いなければならない。
今回ヤヨイくんの声を性別も違う、赤の他人からでも再現することができたのはカイ博士の教えあってこそだ。
まぁ……流石に高性能のボイスチェンジアプリを使わせてもらったがな。
あのボイスチェンジアプリは細かな調整が効くから助かったが、ユキトくんの声にあまり感情がこもっていなかったのは誤算だったよ」
フッと口元が緩むテロメアを見てユキトは考える。
これは人としての信念なのだろうか。
カイ所長を純粋に尊敬し、自分もそうありたいと願った結果なのか。
それともカイ所長と同じ道を歩むことで同じ思考を得たい、自分は同じでなくてはならないというクローンとしての執念なのか。
それは考えてもユキトには到底理解できない感情だった。
いつも読んでいただきありがとうございます(*´∀`*)
ユキトがヤヨイの口調を真似て一生懸命マイクに向かって「ごめんなさーい!」とか言う姿を想像して読んでいただけたら嬉しいですwwww
寒くなってきたので皆様、お身体に気をつけて……!!




