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第83話 感情dB値

おはようございます!

今日もまた投稿させていただきました。


ぜひ暇な時に読んで頂けたら嬉しいです^ ^

今回はユキトさんとテロメアチームのお話↓


 マオとイオリがユーゼンの屋上で出会う前のことーー。


 傾きかけた午後の陽光とそよ風を浴びて、一台のバイクが賑やかな街中を走っていた。


 「ユキトくん、あっちの道へ行こう。

 目的地への到着が約2.3秒早くなる」


 「あのなぁ!

 いいか、俺はスタントマンでも何でもないんだぞ。


 たったそれだけの時間の為にさっきからあっちだこっちだのと……」


 「事実だ」


 ユキトのバイクの後ろに乗っていたテロメアが肩をすくめる。


 「あんたの言う道はすれ違うこともままならない細い路地裏か、人様の家の塀の上か?


 ただヤヨイの家へ行くのに何故そんなところを通らなきゃならないんだ」


 「そうか。ユキトくんはそういった道を好まないのか」


 「普通はそんなところ通らない。物好き以外はな」


 「今までこうして誰かと街中に出たことも、バイクに乗るなんてことも経験したことがなかった。


 ありがとう、おかげで良いデータが取れたよ」


 ユキトは一瞬、後ろを振り返って尋ねた。


 「あんたはいったいどんな頭してんだ……。

 本当にカイ所長のクローンなのか?」


 「あの研究記録を見たのだろう。

 私はsideB、確かにカイ博士のクローンだ。


 身体はカイ博士と同じく成体。頭は知識、記憶も、何もない空っぽの状態で生まれた。それをカイ博士がここまで育ててくれたんだ。


 だからずっとカイ博士を見てきた。

 私はカイ博士のことを誰よりも慕っている!」


 「分かった!!

 頼むっ、バイクから絶対手を離さないでくれ。死ぬぞ!!」


 感情の昂りからか、説明に合わせ身振り手振りが出てきそうなテロメア。


 ユキトはそれを強い口調で指摘するとテロメアは慌ててバイクを掴み直した。


 「そうだったな、すまない」


 ユキトはため息をつく。

 

 テロメアにはカイ所長と似たような雰囲気を感じていたが、意外と子供っぽい一面もあるようだ。


 やれやれと言わんばかりの表情になったユキトがテロメアにそれとなく尋ねる。


 「カイ所長をずっと見てきたのなら聞きたいことがある。さっきあんたはカイ所長の脳情報まで複製されたわけじゃないと言ったよな。


 それでもあんた自身、医療クローニングは出来たりするもんなのか?」


 「あんた、ではない。『テロメア』だ」


 後ろからテロメアの真剣な視線を感じたユキトは、なんだか背がむず痒くなるようだった。


 「分かった、分かったよ!

 それで……どうなんだ、テロメア」


 『テロメア』と、名前を呼ばれた彼は少し嬉しそうにしながら話し出す。


 「実践したことは無いが、理論や理屈は心得ている。

 カイ博士は私が医療クローニングを学びたいと言った時、あまり良い顔はしなかったがな。

 まぁ、あんなことがあったんだ。無理もない。


 それでも私はカイ博士と同じになりたかった」

 

 「ようするに独学というわけか。


 今や医療クローニング技術師は医者より希少価値が高いからな。高度な技術を身につけるのにはえらく時間がかかるし、なり手もそんなに多いわけじゃ無い。


 テロメアの努力は認めるが……やはりカイ所長に頼むしかなさそうだ」


 「治療の必要な人間がどこかにいるのか?」


 テロメアの問いにユキトは一瞬、固まる。


 まだテロメアを完全に信じたわけじゃない。

 得た情報をどこまで話して良いものなのか見当がつかないのだ。


 「……俺には婚約者がいる。瀬戸美言(セトミコト)という名前のな。

 聞いたことがあるだろう」


 「美言……? 

 まさかっ……あの天才ピアニスト•ミコトのことか!?」


 「ああ」


 「驚いた、彼女がユキトくんの……。

 大丈夫なのか……ではやはり彼女は筋ジストロフィーを患って……?」


 ユキトは驚いて後ろを振り返るが慌てて前を向く。

 危うく自分がバイクに乗っていることを忘れそうになった。


 「何故それをっ!?

 公にされてる情報ではないはずだろう!」


 テロメアはユキトの質問に淡々と答える。


 「見て、聴けば分かるさ。

 ピアノの鍵盤は本来、50〜70gの力が加われば音が出るものだ。その力加減で演奏の強弱を決める。


 何gでどのくらいの大きさの音が出るのか、前にカイ博士と遊びで試したことがあった。そのせいかピアノの音が聞こえてくるとその音が何gの力で出力された音なのか分かるようになったんだ。


 また面白いことにその日の天候や本人の感情によっても力加減が変わる……あぁ、でも今はその話は置いておこう。


 脱線して長くなりそうだ」


 ユキトはぽかんと口を開ける。


 「もちろん奏者の個人差もあるだろうし、私はテレビでしかミコトの演奏を聴いたことがない。


 テレビのボリュームは決まって30。毎日聴き続けていたよ。好きだった。ピアノの音が、彼女の演奏が。


 初めてミコトの演奏を聴いた時はカイ博士と遊んだ……楽しかった時のことを思い出した。


 何度も聴いているからか、今では実際にその場で出される音とテレビを通して聞く音のデシベルの誤差を脳が自然と修正してくれるよ」


 「そんなことが可能なのか……?」


 「時として医療クローニング技術にはこういった精密な感覚も必要だ。


 ミコトが演奏中に出すデシベルの最高値は110前後。その時、鍵盤にはおおよそ520gの力が加えられている。それが最近の演奏で出るデシベルの最高値は90に満たない。鍵盤に加えられている力は380g程だろうか。


 僅かな違いではあるが、彼女が以前よりも鍵盤に力を加えていないのは明らかだ。


 さらに演奏中の腕のぎこちなさ、筋肉の硬直具合、浅く不規則な呼吸からずっと筋力低下を疑っていた。


 だから今、ユキトくんが医療クローニングの話をしたことでピンときた。


 筋ジストロフィーとは、遺伝子の変異により筋肉が徐々に壊れ、力が衰えていく病気。一方で医療クローニング技術は遺伝子そのものにアプローチをかけることができる治療法。


 ユキトくんはミコトを助けたいんだな」


 「当たり前だ。

 本当は〈最初で最後の超一流技術師〉とやらの腕を借りたかったんだがな」


 ユキトは内心、ユーゼンに腹が立っていた。


 自分達がわざわざユーゼンの遺伝子実験に付き合うだなんて馬鹿げてる!


 ミコトのことを思うとあまりにも不憫だ。


 見ず知らずの男と、つまりは俺のような人間と結婚して子供を授かることが、病を治す為に突きつけられた条件だなんて今どき考えられない。


 しかもミコトの場合、自分の病を治す為ならば仕方がないと受け入れるどころか、どうやら俺自身にまで気を遣っている様子なのだ。


 『この結婚があなたに何もメリットがないのなら、あなたはただ好きでもない人と結婚することになり自由を奪われてしまう。

 わたしは自分のことであなたに迷惑をかけたくはありません。


 だから結婚を断ってください』


 ミコトがキーラボに来たあの日。応接室で言われたことがユキトの心にずっと残っていた。


 なんとかユーゼンの力を借りずに最高峰の治療を受けられる方法を探してあげたいと、心からそう思ったのだ。


 「なるほど、事情は分かった。

 なら尚のこと、カイ博士とヤヨイくんの救出を急がなければならないな。ふたりだって私たちの大事な仲間だ。

 

 カイ博士が戻ってきたら私からミコトのことを話してはみるが……博士が再び医療クローニング技術を使って患者を診るかどうか……」


 カイ所長を誰よりも慕っており、誰よりも彼の気持ちが分かるであろうテロメアに()()()()()を頼むのは酷かもしれない。


 カイ所長が命まで絶とうと考える原因にもなった『医療クローニング技術』をもう一度使ってくれと言っているのだから……。


 街中の景色がどんどんと遠ざかってゆく。


 ユキトはそれから暫くの間、テロメアに声をかけることなく、テロメアもまた無言のままバイクは走り続けた。

 

 


 

 


いつも読んで頂きありがとうございます!!

本当に励みになっております♪


余談ですがdBデシベルとは音などの大きさを表す数値で、数字が大きくなればなるほど「うるさい」と感じる度合いが高くなってくるのだとか( ;∀;)


ちなみにピアノの音量は約100dBだそうで集合住宅の一室で演奏すると一般的な木造住宅では約65dB(小さな排水音くらい)、一般的な鉄筋コンクリート造住宅では約50dB(小声で喋ってる時くらい)で隣の部屋に聞こえてしまうらしい……。


ピアノの練習も色々大変そうです……。


あ、サンシャイン池崎の叫びのdBがどれくらいなのかも気になることろですね笑


ではまた、続きを書いていきたいと思います!!


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