第78話 正常性バイアス
こんにちは!
また続きを更新させていただきます。
少しボリューミーになってしまいましたが暇な時にまた読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします^ ^
「賢明な判断ですね。
よろしくお願い致します」
それからナバタメは相変わらず机で試験管を見つめ続ける研究員たちに声をかける。
「では皆さん、今から本日の報告を」
号令のようなその言葉は、研究員たちの視線を一斉に試験管からナバタメへと集めさせた。
「はい。
まず被験者NO.347ですが……両者共にAランク。
シュミレーションを使った結果…………生まれてくる子はBランクと判定されました。
遺伝の関係を含め……再度調査を……」
「必要ありません。
その被験者たちの脳情報は残し、婚約は破棄させてください」
「……分かりました。
では被験者NO.385ですが……」
「両者共に特Aランクの脳ですね。如何ですか」
「はい……生まれてくる子はSランク。
脳、遺伝子共に異常はないかと」
「早急に子を為すよう指示してください。
優秀な脳が早く集まればその分、計画を進めることができますので」
「…………分かりました」
「シラサキ氏のご子息はあれからどうなりましたか?
ユキトさんの脳はSランク、セトミコトの脳は特Aだ。
他に良い組み合わせの女性はいましたか?」
「いいえ、今のところは……」
「そうですか、彼女の持病は仕方がない。プランAでどうとでもなります。
それにしても生まれてくる子がSSランクですか。
行く末が楽しみですね。最高級の脳を持つ新人類ができるかもしれない。
ではこのまま進めましょう」
「………………はい」
研究員の報告にナバタメが手際よく指示を出してゆく。
「どうしました、皆さん。
なんだか覇気が感じられないように思いますが?」
「いつものことでしょう。疲れているのよ。
誰もろくに眠っていない」
すぐそばで報告を聞いていたイオリが口を挟んだ。
「では計画に支障が出ない程度で休んでください。
皆さんご存知かとは思いますが、残念ながらサカキさんの退職が急に決定しました。
プランAは私が引き継ぐことになります。
皆さんには辞めてほしくないと思っていますので一丸となって計画を遂行させましょう」
ナバタメの言葉に場の空気が凍りつく。
中には顔を引き攣らせ頷く者も見えた。
「本日の報告は以上でよろしいですね?」
しんと静まりかえった中、イオリが答える。
「ええ、以上」
「では私はサカキさんのPCから消えたプランAの詳細情報を直接聞いてくるとしましょう」
「……誰に?」
「5人目の幹部、とでも言いましょうか。
サカキさんの信頼できる元部下だったのなら大体の事情は把握しているはずですから」
「そう……。早く行ってきた方が良いわよ」
「ええ、それでは失礼します」
ナバタメは不愉快そうにイオリを睨みプランBルームから出ていったのだった。
マオはこの一連のやり取りに動揺していた。
プランBはノアの方舟だ。
大洪水が起こる前に、ここにいる研究員が方舟に乗せる者を選ぶ。
「それってつまり、被験者やその生まれてくる子供の脳をランク付けして意図的に優秀な人物だけを残すつもりでいる……?」
ユキトとミコト。
ナバタメの口から今日、このふたりの名前を聞くとは想像もしていなかった。
ユキトはああ見えて頭が良いのはマオもよく分かっている。もちろん、天才ピアニストと称されるミコトも優秀な人物なのだろう。
ふたりの間にもし子供ができたとすると、それはナバタメも満足がいくくらい優秀な子になるというわけだ。
そしてナバタメはその子の脳や、親の脳を使って新人類を作ろうとしている。
だからユーゼンはわざわざお互いを結婚で結びつけようとしていたのか。
マオは両隣と前に積み上げられた資料を適当に1枚、引き抜く。
薄っぺらい紙で作られた資料にはこう書かれてあった。
被験者NO.222/パターン別シュミレーション結果
ランク S>特A>A>B
※但し、ランクC以下は含まれないようにする。
※A以上のランクであっても子供が基準に満たない場合、切り捨てとする。
男性A 女性B 子供B
男性A 女性A 子供B
男性A 女性S 子供B
……
――――――――――――――――――――
これは……。
Aランクの男性を軸に相手の女性をいくつか選んで、生まれてくる子をシュミレーションした結果だ。
子供はどのパターンでもB。
先程のナバタメからはBランクと聞くと、あまり良い返答が返って来なかったように思える。
マオは急いで別の資料も手に取って確認する。
やがて推測が確信へと変わっていった。
やはり間違いない。
自分を覆い隠すこの資料の山は、大勢の『選ばれなかった』人たちなのだ。
ユーゼンで決められた基準に満たない者たちは『方舟』に乗ることができない。
『方舟』に乗ることができなければ……彼らは……。
あまりにも悲惨な結末をこれ以上想像したくはなかった。
マオは震える手で書類を戻すと、深呼吸をした。
狂ってる。
ヨシミ所長も、ナバタメも、平然とこんなことを実験している彼らも……イオリも。
計画を良く思っていないのなら何故、疲れきった顔をしてまでこんなところにいるのか。
彼らは最早、この異常事態を正常だと認識することで心を保っているのかもしれない。
マオの身体から冷や汗が出てくる。
心臓の鼓動がやけに強く感じられた。
「もう出てきても大丈夫」
目の前にあった資料がどかされイオリの姿が見えても、マオはその場から動けずにいる。
イオリはため息をつくと、マオを机の下から引っ張り出して椅子に座らせた。
「異常なのは私たちも分かってる」
「分かっていてこんなことを……?」
イオリは少し俯きながら答えた。
「昔、イクシナ騒動のすぐ後にユーゼンでは社内会議があったそうよ。
当時の幹部と呼ばれた人たちとヨシミ所長、他に主力の研究員が数名。
これは人づてに聞いた話だけど……そこでヨシミ所長はこう言った。
『もし優秀な遺伝子や脳を持った人間たちだけで文明を作ることができたら、君たちはそれを実行に移すか?』と。
思えば、ヨシミ所長はこの頃からエヴァンディール計画を進めようとしていたのかもしれない」
イオリの言葉にマオは驚く。
「ちょっと待ってください。イクシナ騒動って、30年も前の話ですよ!
そんなに前から今の今まで、よくこの大掛かりな計画が公にならずに……」
ここにいる研究員だってロボットではない。
れっきとした人間なのだ。
事情を知りこの計画に反対するものも出たはず。
週刊誌、テレビ、ネット……様々なメディアに情報を渡して告発することができただろう。
だがそんな情報、一度も世に出回ったことはなかった。
だとすると考えられるのは誰も告発することができない状況下に置かれていたか、告発してもすぐもみ消されていたか。
「今まで散々聞いてきたんでしょう。
ユーゼンの七不思議だの、黒い噂だのを。
噂が出るのには理由がある。
そう思われてもおかしくない行動をユーゼンがとっているから。
……みんな怖いのよ。
自分たちを守る事に必死、私もそう。
判断をひとつでも誤ればそれは死と同義。
考えて慎重に行動しなければすぐに消されるか、処理場行き。
あなたにこの意味が分かる?」
もし、告発がもみ消されていたのだとしたら噂やカイ所長たちの研究記録通り、ユーゼンは相当な有力者と繋がっている事になる。
いくらヨシミが所長といえども、ひとりでここまで手を回すことは不可能だ。
ということはバックにいるのはやはり大物政治家か。
だとすれば今、彼女たちはこのエヴァンディール計画を糾弾すらできない状況なのだろうか。
マオはイオリの言葉の意味を考える。
「あなた方が恐れているものは何ですか。
ユーゼンと繋がっている人物は……誰なんですか?」
「……いい国は鏡に映して見える理想の世界」
「えっ?」
「これ以上は何も言えない。
でも、覚えておいて」
イオリの真剣な眼差しにマオはこれ以上、彼女を責めることはできなかった。
いつも読んでいただいきありがとうございます♪
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米や肉……?のように実は人間も密かにランク付けされているのかもしれません。
信じるか信じないかはあなた次第です笑笑
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また続きを書きに行ってきますっ♪




