第72話 執行
こんばんは^ ^
また更新させていただきました。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします!
「なっ……なぜだ!?
ちゃんと鎖で縛ったはずなのに!!」
慌てふためく榊に生天目はゆっくりと近づく。
「何故って?
初めからこの鎖はどこにも繋がれていませんよ。
ただ天井に引っ掛けて繋がれているように見せただけ。
それなのにまんまと私をあの鎖で縛るんですから、見ていて滑稽でした」
手首に巻き付いた鎖を生天目は振り解く。
チャラチャラと金属音が響き、鎖が床へ落ちた。
まるでとぐろを巻いた蛇の抜け殻のようだ。
「ここは処理場。
処理をするよう命じられたのは私。
処理されるのはあなた。
ナイフを遠ざけ私を縛って、それで安心していましたか?
あなたが取る行動、ありとあらゆる可能性を考えてこそ思考の極みに辿り着けるというものです」
榊はその場からジリジリと後ずさる。
「違う、ちがう、ちがうっ!
私は悪くない!!
あのマニュアルは喜美所長が考案したものだ。
それでも私が悪いと言うのなら君はどうなんだ?
拉致に監禁。
本当に悪いのはどっちの方だ?
あぁそうだ、そういえばもみ消しもしているな。
『ムーブエレクトロ』で起こった事件や事故を!」
やけになった榊はケラケラと笑って続けた。
「いやぁ、やはりお坊ちゃんの思考はよくわからない。
喜美所長の信頼を得る?
だからと言って亡くなった兄の復讐だかなんだか知らんが自分が追っていた事柄を自分でもみ消すだなんて。
君のやっている事はまさに喜美所長の忠犬だ」
榊の言葉にピクッと反応した生天目は歩みを止める。
「忠犬……私が?」
そして突然、狂ったように笑い出したのだ。
「そうかもしれませんね。
あぁ、本当に私は何がしたいんでしょう。
自分がもう分からない。
兄の復讐の為にと始めた脳科学では私の研究思想が偏っているという理由で、誰からも評価されることはありませんでした。
悔しかったですよ?
曲がりなりにも脳科学者ですからね。
そんな中、喜美所長だけは私を見てくれた。
私を正当に評価してユーゼンに来ないかと言ってくれた。
喜美所長には恩がある。
それに報いたいとも思います。
ですがあなたを含めユーゼンや喜美所長は私の兄の仇!
狂った思想に塗れた計画、その犠牲者である兄のね。
そしてその計画に加担している私も……とうに狂っているんでしょう。
おそらく次は私が誰かの仇になる番だ」
生天目は憂いた表情で遠くを見つめた。
「いいや。君に次はない。
ここで終わりだ、生天目!!」
榊は生天目に背を向け、蹴り飛ばしたナイフの元へと駆け寄る。
ナイフさえ手に入れてしまえばこちらのもの。
ここでこれから起こる事は正当防衛だったと主張すれば自分に罪はない。
今は生き延びることが先決だ、と。
榊はそう考えていた。
しかし榊が背を向けた途端、予想通りと言わんばかりに生天目が動き出す。
数歩前へ出ると、何かを榊の脳天めがけ勢いよく振り下ろしたのだ。
「あぁぁぁぁ!!」
絶叫が処理場全体に響き渡った。
そのまま時が止まったかのように榊は動かなくなる。
そうしているうちに、榊の脳天に刺さったままのそれが光を帯び始めた。
そう、トレースバースだ。
「アハっ、アハハっ!
やった……やったよ兄さん!!
これで仇が取れた。
でも、まだ足りない……足りないんだ!!」
生天目は狂気的な笑みを浮かべ榊を見つめる。
「そうだ、榊さん。
最期に教えて差し上げましょう。
喜美所長は普段からあなたより私の事を信頼していました。
あなたは弁の立つ人ですが、それは時として信頼を失う。
私はそんなあなたの弱点を時間をかけ、喜美所長に印象付けていったのです」
榊は何も答えず固まったままだったが、そんな事お構いなしに生天目は話し続ける。
「プランAでは多くの人材を集める必要があった。そして不審がられることがないようデータ収集を慎重に行わなければならない。
それにはあなたが最も適任だ。
だから喜美所長は営業部長だったあなたを幹部に抜擢した。
逆に言えばただそれだけのこと。
専門的な脳科学の知識を何も持たないあなたがこれ以上、エヴァンディール計画に関わるのはいただけない。
どちらにせよあなたの役目はここで終わりだったのですよ」
生天目が言い終えるのと同時にトレースバースから光が消えてゆく。
ややあってそれを乱暴に引き抜き崩れ落ちる榊の身体を思い切り蹴り飛ばした。
力なく床を転がり仰向けになった榊は虚ろな瞳で天井を見つめる。
「どうやらこの仕事もすっかり板に付いてきたようだ。
エヴァンディール計画で出た不要な脳情報や肉体を処理していくうちに……その、面白くなってきましてね。
今の私にはこの時間が一番有意義です。
…………と言っても、もう聞こえていないですよね?
榊さん」
生天目の呼びかけに答えるはずもなく、榊はただ黙って天井を見つめ続ける。
「まったく……。
あなたが腹を割って話そうと言うから全てお話ししたのに最期はダンマリですか。
口だけが取り柄のはずでしょう?」
榊の脳情報がコピーされたトレースバースを持ち、生天目は鉄格子の扉を閉める。
それから外へ出ると、扉の横にあるボタンを押した。
するとビーッというブザーが鳴り、鉄格子を隔てた向こう側の床が瞬時に消え大きな空洞が現れる。
それはまるで黒々とした、底の見えない落とし穴。
転がったナイフ、落ちていた鎖、そして榊は悲鳴をあげることもなくただ静かにその落とし穴へと落ちていく。
「さようなら。
どうか兄の為に死んでください。
ふふっ……ふふふふ……あっはっはは!」
笑みを抑えきれない生天目。
榊が落ちたのを確認してもう一度ボタンを押すと、床が元通りになった。
処理場は何事もなかったかのように静寂に包まれる。
生天目はその中をコツコツ靴音を立てながら処理場を出てゆくのだった。
「もしもし喜美所長。
ええ、地下3階にいても聞こえています。
処理場は電波が届きづらいですからね。
聞き取れなかった言葉はAIが音声を聞いて補完してくれるので問題ありません。
この社内携帯も近いうちに商品化してみてはどうでしょう?
あぁ、それよりもたった今終わりました。
はい。すぐに500人目のデータをお持ちしますのでご安心ください。
今回は脳情報をトレードする者もいませんでしたので、余った身体は予定通りこちらで処理させていただきました。
そうですね。
あの身体は特に需要も無さそうですしね。
ところで幹部の席がひとつ空きましたが、後釜はいかがしますか?
……え?
私の方でプランAも進めてよろしいのですか?
任せてくださり、感謝致します。
すぐ引き継ぎに取り掛かりますので、またご報告に伺います。ええ、それでは」
生天目は電話を切ると、普段通りの冷めた表情を浮かべる。
「ご自身の計画は自らの死をもって責任を取ってください、喜美所長……」
皆様、いつも読んでいただきありがとうございます^ ^
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そして榊さんはここで退場です。
(好きな方、いらっしゃったらごめんなさい!)
またお時間ある時にぜひよろしくお願いします。
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