第71話 β版クローンボット
おはようございます^ ^
また本日も投稿させて頂きました!
ぜひ暇な時に読んで頂けたら嬉しいです♪
よろしくお願いします!
生天目は少し迷ってからその場に屈んだ。
そして榊の上着に視線を落とす。
両者とも何も言わない。
しかし生天目が手に持っていたナイフは榊に向いたままである。榊が何かしでかすのではないかと考えているのだ。
「いったい、この上着のどこにカメラがついていると?」
生天目が再び榊の顔を見た時にはもう遅かった。
榊は一瞬の隙も見逃さなかったのである。
「うあぁぁぁぁ!!」
力強い地声が地下室に響いた。
その刹那、榊が生天目を突き飛ばして組み敷いたのだ。
カランと音を立て生天目の手からナイフが滑り落ちる。
榊は視線を自分の上着へと誘導し、相手がバランスを崩したところを狙って動きを封じてきたようだ。
あぁ、こんな陳腐な手を使うなんて。
生天目は上に乗る榊を退かそうともがくが、びくともしない。
「ふっ……くっ!!」
「フン。見たか。
毎日靴底と心をすり減らして働いていた私と、温室育ちで人を疑うことを知らないお坊ちゃんとでは体力も経験も違う。
生憎だが私はこんな所で死にたくないのでね」
榊は胸ぐらを掴んで生天目を立ち上がらせると、すぐそばに垂れ下がっていた鎖を生天目の手首に巻き付けた。
「あなたはそうやって今までどれだけの人を騙してきたんですか?
兄もあなたから見ればそのうちのひとり、些細な人間だったのでしょうね」
「そういえば君と腹を割って話したことはまだ一度も無かったな。おそらく今日が最初で最後の機会だ。
せっかくだから私から腹を割って話そう。
悪いが君のお兄さんなんて、全く記憶にない。
いつどこで会った誰のことだ?」
そう言い切った榊は笑っていた。
笑いながらも床に落ちていたナイフを蹴り上げ、自分達から遠ざける。
ナイフが使われることを警戒しての行動か。
ということはまだ観念していない。
つまり先程までの反省したような様子は演技だったのだ。
「兄が19歳の時、家にあなたが訪ねてきました」
明らかに不利な状況となった生天目だが、ひどく落ち着いた様子で榊を観察しながら話しだす。
「生まれつき足が不自由だった兄はどこへ行くのにも車椅子が手放せない。あなたがそんな兄に持ってきたものは『ムーブエレクトロ』だった。
これは流石に覚えていますよね?
体に付けるだけで脳の電気信号を無理矢理に増幅させ、動かなくなった手や足を自由に動かせるようにする器具です」
榊は大袈裟に頷く。
「あぁ、クローンボットを作るための試作品か。いつの間にか販売停止になったアレだ……。
だからこそ参考になるデータがいくつも取れたんだろう。
なにせ不具合が多すぎて売るのに困った。
だがユーゼンの営業部長だったこの私が売れなくてどうする?
あの頃は随分と苦労させられたよ」
「やはり。あなたはご存知だったんですね。
分かっててそれを売っていたと?」
「人聞きが悪いな。
私はきちんとリスクを説明した。
それを理解した方に売っていただけだよ」
「果たして本当にそうでしょうか?
あの日、あなたが兄と契約を交わし帰った後、『ムーブエレクトロ』を足に付けた兄は私と近所を走りに行きました。
嬉しそうでしたよ。
だから普段、自分が通れない細い路地裏になんて行って。
路地裏を抜けて少し大きな通りに出ると、近くに工事現場があって、私はそこで立ち止まりました。
でも兄は止まれなかったんです。
そのまま工事現場まで走り続けて、ダンプに轢かれて……。
兄は自分の足に『止まれ』と何度も叫んでいた。
私はただ、その光景を見て泣くことしかできなかった。
たった11歳の私にはそんな事しか出来なかったんです」
生天目は榊を睨みつけると言い放った。
「でも今は違う!
兄の死の真相を調べるため、私は脳科学を必死に勉強した。そのお陰で『ムーブエレクトロ』を作った会社の幹部にまでなることができた。
そうすると今まで分からなかったことが、面白いくらいに分かるようになったんです。
あれは器具の不具合や事故で済まされることじゃない。
兄はエヴァンディール計画の為に犠牲になったんだ!!」
榊は怒りを露わにする生天目をあしらうように答えた。
「そうか、生天目君の努力と言いたいことは分かった。
だが話を聞く限り私は無関係じゃないか。
別に『ムーブエレクトロ』を作った訳でもないし、私もその頃は幹部でもない。ただの営業部長に過ぎん。
それに『ムーブエレクトロ』を売る時、私はきちんと説明しているんだぞ。
これは脳の電気信号を強引に増幅させている。
人体に影響はないが、少しでも考えた行動は『ムーブエレクトロ』がすぐ実行に移すから気をつけろ、とね。
もしかすると君のお兄さん自身が本当はそう望んでいたのかもとは考えなかったのか?」
「ええ、ごもっともな意見です。
兄はこれ以上私に迷惑をかけたくなかったし、何より自分自身に嫌気が差していた。だから動いているダンプに飛び込んで全て終わりにしようと。
例え一瞬でもそう考えてしまえば『ムーブエレクトロ』をつけた足は止まりません。
私も初めはそう考えました。でも……」
生天目は榊に冷たい笑みを向けると静かに尋ねた。
「私がなぜ喜美所長に命じられるまま、あなたたちがやらないような汚れ仕事ばかり引き受けてきたか分かりますか?
信用を得て権限が欲しかったからです。
真実を知るための権限が、ね。
『ムーブエレクトロ』の販売は『クローンボット』を普及させる為の、言わば実験です。
実験にはデータがつきものでしょう。
顧客の症状、家族構成、『ムーブエレクトロ』をつけた状態での電気信号の動き、さらには『ムーブエレクトロ』販売員との会話まで、全て記録が残っていました」
「そっ、そんなデータがあるなんて知らないぞ!
それこそハッタリだ!!」
明らかに榊は動揺している。
「あるんですよ、それが。
喜美所長にデータへのアクセス権限をもらっていたんです。
今後、エヴァンディール計画を進めるうえで必要になるかもしれないからと」
生天目はふぅと息をつくと、今までずっと自分の頭の中を支配してきた呪いの言葉を一語一句違えずに吐き出した。
「もし君が少しでも死にたいと考えるなら『ムーブエレクトロ』がそれを実行してくれる。君の足は自由と引き換えに呪いを手に入れたようなものだ。
君が死にたいと考える時はどんな時だ?
身の回りの世話を焼いてくれる弟に罪悪感を感じた時か?
気をつけろ。
『ムーブエレクトロ』の呪いに飲まれないように。
……これがあなたの言う説明ですか?
なぜ兄にわざわざ死を想像させるようなことを言ったんです?
あなたは『ムーブエレクトロ』の危険性をよく分かっていたはずだ」
榊は激しく首を振る。
「私は何も知らない。
ある日突然、『ムーブエレクトロ』を20件売れとノルマが課せられ、販売説明のマニュアルを数種類渡された。
君のお兄さんにはその中のひとつを使って売っただけだ!」
「確かに通常のマニュアルもありましたが、『死』という単語をさり気なく出すことによって被験者たちの行動をその方向性へ誘導する。
サブリミナル効果を応用したマニュアルも確認できました。
そのマニュアルで説明を受けた被験者たちの殆どが『ムーブエレクトロ』を使用して死亡事故や事件を起こしています。
やっぱりあなたには人を死に追いやったという自覚が無いようですね」
生天目が両手をだらんと下ろすと、手首を縛っていた鎖がジャラジャラと音を立てて降りてくる。
手首が縛られた鎖の先に繋がれているものが……何もなかったのだ。
いつも読んでいただきありがとうございます(*´ω`*)
サブリミナル効果って昔流行りましたよね笑
映画館の広告に一瞬、『ポップコーンを食べろ!』なんて文字を入れて潜在意識に刷り込ませるアレです!
広告を見た人はその文字に気づいていても気づかなくてもポップコーンを買ったのだとか……。
もしかするとこれを読みに来てくれた方の端末にも『エヴァンディールを読め!』って気がつかないうちに表示されていたりして……笑
暑い夏に涼しくなるような後書きでした(^^)
ブックマーク•感想•評価などもいつもありがとうございます!!
ではまた続きを書いてきます。




