第67話 若い頃の過ち
おはようございます^ ^
また本日も更新させて頂きました。
(カイ所長、若かりし頃のお話)
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです!
男はユキトを真っ直ぐ見て答えた。
「素晴らしい、ユキトくんの推理力には目を見張るものがあるな」
これにはマオも激しく同意する。
先程から黙って聞いていたが、良く限られた情報量でここまで分かったものだと感心していたところだ。
椅子に深く腰掛け直した男が重い口を開く。
「まだカイ所長が『カイ博士』と呼ばれていた頃に、密かに作られたのが私だ。カイ博士はまるで自分に弟ができたみたいだと喜んで私に色々なことを教えてくれたよ。
彼もまた、医療クローニングに希望を託していたんだろう。
だがカイ博士のしたことは所詮、違法行為。
私を作った時点で彼は犯罪者だ。
当然世の中が彼を放っておくなんてことはあり得なかった。
あの論文が初めて世に出された時、読んだ者は私とカイ博士が並んで歩く姿を見てこう思ったはずだ。
『カイ博士はタブーをおかしてしまったのだ』と。
確かにカイ博士の技術はみんなが認めていた。
おそらく人間そのものをクローニングしたのは彼が初めてだったと思う。
だからいくら私を一卵性の双子の弟だと公言して周りを欺いたところで無理があったんだ。歳や遺伝子どころか、指紋まで同じ人間なのだから。
毎日、カイ博士の元へ医療関係者や研究団体が押し寄せて好き勝手言いにきたよ。
『警察に出頭しろ、身の程知らず!
人でなし、犯罪者!
こんなことすぐ止めてさっさとクローンを殺してしまえ!
博士の管理には問題があるからクローンをこちらへ渡せ!
博士はいくら出せばこのクローンを譲ってくれる?』
彼はそれでも自分で決めて進んだ道だからと、どんな罵詈雑言も受け止めた」
「カイ所、その……カイ博士はなぜそこまでしてクローンを作ったんですか?」
カイ所長と呼ぶべきか、カイ博士と呼ぶべきか。
マオは少し戸惑いながらも気になっていたことを尋ねた。
「大学の医学部を卒業してから4年間、カイ博士は海外留学をしたらしい。当時、その国の界隈では有名な医療クローニング技術師に出会って教えを受けていたそうだ。
ただそこは思いの外、内戦が激しい国だった。
戦いの末に千切れた手足をクローニング技術で再生しながら戦っていた兵士も多かったと聞く。
カイ博士はその技術師の元で助手として働いていたが、その時の経験が私を作ったきっかけにもなったんだろうな。
つい数時間前まで隣で笑っていた仲間たちが気がつくと血を流しながら冷たい身体で横たわっている。
彼らはもう笑いかけてはくれない。
それを見た腕のない兵士は泣き叫び、もう戦いたくないと訴えた。
その訴えを聞きながらカイ博士と技術師は兵士の腕を治療し続ける。
それしか方法が無かった。
欠損した体の治療はできたとしても、兵士の訴えを聞き入れて戦いをやめさせられるような権限は博士たちにない。
その上で腕の治療をするということは、またその兵士に戦いに行けと言っているのも同然。
でも自分たちに出来ることはそれしか無かった。
まるで地獄絵図のようだったと博士は私に言っていたよ」
男は再びコーヒーカップに口をつけ、甘い中身を飲み干す。
「カイ博士はやがてこの状況に疑問を持つようになった。
なぜ嫌がる兵士たちがゾンビのようになってまで戦うしかないのか。
なぜ罪もない人が当たり前のように死んでいくのか。
なぜ自分はそれをただ煽るような行動しか出来ないのか――。
もし体の全てを複製することができれば、こんな苦しい思いをしなくて済むのではないか。
誰も死なない、誰も傷つかない、自分のコピーが苦しみを引き受けてくれればそれでいい、と。
最初はそう思って必死にクローニング技術を磨いたそうだ。
だが〈最初で最後の超一流技術師〉となり、私を作り上げたことで過ちに気がついた。
『これは物ではない。
クローンだとしてもやはり自分と同じ人間なのだ。
一方的に自分の苦しみを押し付けて良いはずがない』
それからの博士は私にいつも謝ってばかりだった。
『私は結局、誰かに嫌なことの肩代わりをさせる手段として医療クローニングを見ていたわけだな。
君はこんな私を恨んでいるだろうか。
本当に申し訳ないことをした』
カイ博士の言葉を聞いて内心、私も複雑な心境だったよ」
「そうか……。
それでカイ所長は医療業界から姿を消したのか」
ユキトは複雑な表情を浮かべる。
目の前の男にかける言葉を慎重に選んでいるようだった。
「いや、それだけじゃない。
当時カイ博士を糾弾する者は多かった。
そいつらの大半はカイ博士の研究成果を、クローンである私を手に入れて悪用しようという目論みがあったんだ。
カイ博士を失墜させれば研究成果を横取り出来ると考えたんだろう。
大人しくそいつらに私を渡して、素直に罪を認め、自首してまえばまだ医療業界に残る術もあったかもしれない。
たが博士はそうはしなかった。
自分が警察に捕まってしまうと身動きが取れなくなって、私を守ることが出来なくなる」
「だから所長は……。
あなたを弟だと、ずっとそう言い続けていたんですね」
マオの言葉に男はゆっくり頷いた。
「そうだ。
あるのは私という状況証拠だけ。
人を作ってはいけないという法律があっても、それを破った前例はない。
例え私とカイ博士の指紋が同じだったとしても、どれだけ周りが有罪だと言っても、カイ博士本人が自白しなければ警察は手が出せない状態だった。
それをよく思っていない研究団体もいたのだろう。
ある時カイ博士の大学院へ脅迫状が送られた。
『いい加減、罪を認めろ。クローンを手放さなければこの大学院ごと燃やして消す』
といった内容で送り主は不明。
大学院側もただの悪戯だと気に留めていなかった。
しかしその1週間後に院内で放火騒ぎがあり、建物の一部が焼け落ちたんだ。犯人は今も分かっていない。
あの時にはもう、カイ博士の心はとうに限界を迎えていたのだろうな。
自分の理想を追い求めたが故に大勢の者を苦しめる事になった。その罪を償わなければならない。だがクローンを邪な感情を持つ者たちの手に渡してはならない。
それならばいっそ自分たちが消えてなくなってしまえば全て解決するのではないかと、そう考えたんだ。無理もないだろう。
その夜、カイ博士は私を殺して自分も死のうとした。
結果はこの通り未遂に終わったが博士は本来、人の命を救う立場の人間だ。
自分のクローンと言えど、人殺しに手を染めようとした罪悪感から逃げるように博士は医療業界を去った。
私が博士について知っているのはこれくらいだろうか。
残念ながら医療クローニングは脳の情報まで複製できるわけじゃないからな。
お陰でPCの文字打ちには随分苦労した。
今でも手元を見ながら打っているよ」
男はカイ博士と過ごした日々を思い出し、寂しそうに笑った。
「君たちは心配しなくていい。
カイ博士もヤヨイくんも、私が必ず見つけ出す。
博士が守ろうとしたものを私も守ってみたくなったんだ。
私は君たちの味方、そう思ってくれて構わない」
自分のことをクローンだと認めたその男は、まるでカイ所長がそうするかのようにマオとユキトを優しく見つめた。
いつも読んでいただき本当にありがとうございます!
この間、朝起きたらブックマークやレビューがあってすごく嬉しくなりました♪ わーい٩( ᐛ )و
また頑張って続きを更新したいと思いますのでよろしくお願いします。
では今日もお休みなさい。




