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第61話 引き出しの中で笑う者

こんばんは^ ^


また投稿させていただきました。

ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです!




 ヤヨイのデスクに置いてある資料はどれも取り留めのないものばかりだ。


 『誰でも分かる心理誘導について』


 『ドッペルゲンガーは幻覚の一種』


 『身体と記憶の関係性』


 あまりに纏まりがなさすぎてヤヨイの研究に関わりがある資料なのかどうかも分からない。


 何故、ヤヨイはこんな大量の資料をかき集めたのだろう。


 マオは何気なく近くにあった資料を手に取って眺める。


 『身体と記憶の関係性


 これはある脳科学者に対して取材をし、その証言をもとに作成した備忘録である。


 我々は禁断の実験を行った。

 それは遺体を使用した実験である。


 ある記憶喪失のA(名前は記載せず)の脳を特殊な方法で 脳死した遺体 Bに移植させ、その人物像そっくりになるよう学習させていくといった内容だ。


 脳を移植するとそれまで活動を停止していた遺体 BはAとして正常に作動した。身体はB、脳はA。そのようなあべこべが生じた人間に様々な行動パターンを学習させることによって Bが生前の時のような振る舞いを行ったのである。


 さらに観測、実験を続けていくとAは自分は元から Bという人間だったと思い込むようになり、それまで存在したAの人格は消滅してBの複製が出来上がった。


 また驚くことに、この頃からAは全く教えていないはずの Bの仕草をするようになる。


 これは無意識によるもので身体が覚えていた仕草と言っても過言ではない。


 このように身体と記憶には密接なつながりがあるようだ』


 資料に書かれている物騒な実験内容にマオは顔を歪めた。

 これは……この実験内容はトレースバースとよく似ている。


 上手くは言い表せないが、そう直感したのだ。


 それと同時にヤヨイが自分のデスクに招き、あの日言った言葉を思い出した。


 『資料室から過去の資料、色々引っ張り出してきたらこんなになっちゃった!


 PCのデータにも打ち込まれていないくらい古い情報だけどどうしても必要で……』


 本当にこれが必要な資料だったのか?

 デスクやその周辺にはまるで書類の山ができている。


 あの時は深く考えなかったが、もしこれらが全て必要だったとすると、ヤヨイはエヴァンディール計画に関係するヒントを既に見つけているのかもしれない。


 先程まで取り留めのないものだと思っていた資料のひとつひとつが急に意味を持ち出したように感じた。

 

 ただ、ここにある全ての資料を読むには時間が足りなさすぎる。


 せめてデスクの引き出しが開くまで触った分だけでもと思い、マオは書類の山を片付けながら横へ退かした資料に目を通していく。


 じっくり読んでいる時間もあまりないので、冒頭だけ読んでは横へ退かしての繰り返しだ。


 やがてその作業も終盤に近づく頃、また奇妙なことが書かれた資料を見つけてマオの手が止まった。


 『人間の遺伝子交配実験


 優秀な親の遺伝子同士を掛け合わせてより優秀な子供を作ることは競走馬や作物にはよくあることだ。


 それは人間とて例外ではない。

 理論上は可能だと考えられている。


 倫理観を取り払えば、そうして作られた人間たちで文明を繋いでいく方がよほど効率が良いと言えるだろう』


 こちらも物騒なことが書かれた研究資料だった。

 マオは思わず著者を確認したくなる。


 しかしヤヨイの言う通り、古い研究資料の為かあちこちにシミができていたり文字が霞んでいたりで著者が誰なのかも分からない。


 マオは諦めのため息をついた。


 ユーゼンの資料室にもし同じものがあるとすれば、著者を割り出すことができるかもしれないが……。


 もう少し良い状態で保管されていることを祈るばかりだ。


 無造作に資料を閉じて、そこでようやくデスクの引き出しが開くまで片付いたことに気がつきマオは妙な達成感を覚える。


 デスクの引き出しに手をかけ、横に積み重なった資料を崩してしまわぬよう慎重に引き出しを開けた。

 

 開いた、鍵はかかっていないようだ。

 中に入っているものをおそるおそる確認するマオ。


 まず目に飛び込んだのは可愛らしい動物柄の大判ハンカチ。それが引き出し一面に敷かれていた。


 その上には使い古されぐちゃぐちゃに置かれた文房具。引き出しの隅に陶器製の小さな猫のペンスタンドがちょこんと体育座りをしている。


 可愛いらしくも乱雑な引き出しの中はヤヨイらしいと言えばそうなのだが、こんなにも散らかっていては探しているUSBメモリが見つからない。


 「もう、ヤヨイさん!」


 ついにマオの口から嘆きの一言が漏れた。


 そんなマオの気持ちを知ってか知らずか猫のペンスタンドはニコニコと笑っている。


 指先を伸ばしマオはペンスタンドを軽くつついた。


 コツンッという中低音、囁き声のような音がする。

 それは陶器に触れた時に反響して聞こえる澄んだ音ではなく、くぐもっていて鈍い音だった。


 下にハンカチが敷いてあるからだろうか。

 気になったマオはペンスタンドを優しく持ち上げる。


 するとどうだろう。


 ペンスタンドが引き出しの底ごと持ち上がったのだ。


 驚いたマオが手を離すと、すぐに引き出しの底は元の位置に収まり上にあった文房具がガチャガチャと音を立てる。


 もしかして二重底……!?


 もう一度ペンスタンドを持ち上げるとやはり引き出しの底も一緒に持ち上がり、本来の底が現れた。


 どうやらペンスタンドが取っ手になっていたらしい。


 なるほど。敷かれてあったハンカチも乱雑に置かれた傷だらけの文房具もこれを隠すためのダミーだったということだ。


 なにせここまで散らかっていれば引き出しの中を誰もじっくり見ようとは思わないだろう。


 そして引き出しの前に山積みになっていた書類もこの仕掛けを隠す為のものだったのなら……。


 マオはデスクの上にペンスタンドが張り付いていた底を置き、本来の底を覗き込む。


 特に何も入っているように思えない。


 それでも手探りで引き出しの奥を調べているとツルツルとした冷たい感触が手に当たった。


 何かがテープでとめられている。


 テープを剥がし、その何かを手元へ持ってきたマオはあっと声をあげた。


 引き出しの奥から見つかったそれは白いケースに入ったUSBメモリだったのだ。


 これがクリオネの言う『切り札』なのだろう。

 そうでなければこんなに厳重に隠したりはしないはず。


 そう考えてマオはUSBメモリをポケットにしまい込み、急いで引き出しやその周りの書類をもとに戻す。


 なんだか悪いことをしているようで心臓が早鐘のように脈を打った。


 すぐその場を立ち去ろうとマオがヤヨイのデスクから離れた瞬間、通信機からユキトの興奮した声が聞こえてくる。


 「すぐに戻ってきてくれ、カイ所長が使っていたUSBメモリのデータ復元が終わった。


 管理センターのCPUコア数を上げて復元を並列処理させたらスーパーコンピュータかそれ以上の情報処理速度になったらしい。


 これは一大事だぞ!」


 「すいません、何を言ってるかよく分からないんですけど……」

 

 まるで新しいおもちゃを見つけて早速遊んでいる子供のようだ。


 それくらいユキトがはしゃいでいるのだけはマオにも分かった。

 

 

いつも読んでいただきありがとうございます。

宣伝や応援、大変感謝しています!!


今日は初めてあのウワサの行者ニンニクを食べてみました。


あれは美味しいけどキョーレツですね……。

ハァ〜(*´Д`*)


晩御飯で食べてからだいぶ時間が経ったのにまだ口の中に味が残ってて胸いっぱいになりそう笑


評価•感想•ブックマークなどありましたら励みになります。何卒よろしくお願いします!

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