第57話 取り替えられた器
おはようございます^ ^
本日も投稿させていただきました。
また暇な時に読んで頂ければ嬉しいです!
「とりあえずその……チャックを上げてくれ」
ユキトが気まずそうに言うと、角刈りの男性は素直にあぁと社会の窓を閉じた。
「で、なんか大きな音がしたけど大丈夫なのか?」
「問題ない。
悪いがあんたに一緒に来てもらいたいんだ。
第二の人生について教えてほしいことがある」
「おぉ、おぉ!
もしかしてあんちゃんもそのクチか?
アレで生まれ変わったんだろ?」
「まぁ、そんなところだ。
とにかく早くここから出よう」
ユキトは角刈りの男性の手を引いてぐいぐい進んでゆく。
「おい、なんでそんなに急いでんだ?」
「俺は今、不審者だと勘違いされてる。
大騒ぎになる前にここから出たい」
「ふーん、若いねぇ。
まぁ若い頃は多少の無茶もあるもんだしな。
よし、行こう行こう!」
ガハハと笑いながら角刈りの男性はユキトの肩をボンボン叩いた。
吃音なんて微塵も感じないどころか、中身がなんだか完全におっさんに変わっている。
この男は外見からして20代後半くらいの内気な男性という第一印象だったが……。
本当に別人になったんだろうか。
ユキトは無言で角刈りの男性を連れて出入り口へ向かう。
「見つかると面倒だ。
従業員通用口から出よう」
「あいよ!」
提案を素直に受け入れた角刈りの男性は眉をひょいと上げて後に続く。
「なぁあんた、俺のことは覚えてるか?」
「はぁ?
覚えてるも何もあんちゃんとは初対面だろうさ」
外に出たふたりは緊張の糸が緩んだのか、近くにあった公園のベンチに腰を下ろした。
「じゃあ名前は?」
「リョウイチ。車の塗装屋やってる」
「……一応聞くが歳は?」
「42だけど、何?」
「…………あんたはサカキにどんな人生を生きたいと言った?」
「サカキって誰さ?」
「あの管理人のことだ」
「あぁ、管理人さんのこと!
あの人サカキって言うのか。随分口が達者な奴だよな。
おれは単純に、若返って金に愛される人生を送りたいと言ったわけよ。そしたらあの人が例のアレをおれの頭にぶっ刺した。
んで、気がつくとおれはステージの上で望みは叶いましただかなんだか言われて……。
帰っていいらしいから会場を出てションベンしてたらあんちゃんに会った」
「………………それは本当か?」
例のアレ、とはトレースバースのことだろう。
あり得ない。
この外見で42歳なんて生物学的に無理だ。
彼が言った歳よりもあまりに若すぎる。
「嘘ついてどーすんだよ。
あんちゃんは何を望んだ?
金か、女か?」
「俺はそのどちらでもないな。
ある事を調べてるうちにマーライオンのヘソに辿り着き潜り込んだだけだ」
「そうかい。
まぁ、見るからに怪しげな集まりだよな。
おれも半信半疑でここに来たけど、あそこに来た奴らみんな同じ事思ってたんだろうし。
あ、中には本気で信じてた奴もいるのかな?」
ユキトは暫く黙って考え込んだ。
この様子からして俺と会場で言葉を交わしたこと自体、彼の中では無かったことになっているのだろう。
それは何故か。
リョウイチ、こいつとはそもそも話していないからだ。
俺が話したのは吃音混じりで内気な方の角刈りの男性。
目の前にいるのは自称42歳、車の塗装屋。
でも外見はやはり角刈りであの時の男性だ。
こいつ、二重人格なんだろうか。
「ユキトくん、リョウイチって名前がサカキのPCデータから見つかったよ。その人が42歳で車の塗装屋なのは事実。でも彼が同様のイベントに参加した日付は1週間前だ」
クリオネが言った。
1週間前。
リョウイチが実在していたと言うことは二重人格の線は消える。
あり得ない、やはりサカキはリョウイチの脳情報を丸ごとコピーして角刈りの男性に入れたとでも言うのだろうか。
そういえば……。
ユキトはふとある事に気づいて角刈りの男性に尋ねた。
「あんた、財布か何か持ってないのか?
免許証でも、保険証でも何でもいい」
「おいおい、今度は何かおれのこと疑ってるのか?
刑事さんじゃあるまいし……」
そう言いながらもリョウイチと名乗る目の前の男はポケットを探る。
「ん……?」
「どうした?」
「財布が違う」
「あんたのじゃないのか?」
「あぁ。
んん?? しかもこの財布、なんか札束がめっちゃ入ってるぞ。
よっしゃぁ!!」
大金に興奮しながら財布を弄るリョウイチにため息をつくユキト。
「少し貸してくれ」
「あっ…………」
ユキトはリョウイチの手から素早く財布を取り上げると、中に入っていた免許証を手に取る。
「ヨシダ マサキ。
この名前、知ってるか?」
「知らねぇよ。第一、こんな顔のやつ会ったこともない」
リョウイチは免許証の顔写真を横目で見て答えた。
「あんたさっきトイレに行った時、自分の顔を鏡で確認したか?」
「いいや。そんなこと一々しないけどさ。
言っとくけどおれがこの財布を盗んだわけじゃないぞ。
気がついたらポケットに入ってたんだ」
「それよりも鏡を見てきた方が良い」
ユキトはそれだけ言ってリョウイチに財布ごと返した。
リョウイチは怪訝な顔をして公園の公衆便所に入っていく。
「ユキトくん、やっぱり……」
「あぁ、俺もまさかとは思ったが免許証を見て確信した」
クリオネも薄々勘づいたようだ。
「今日のイベントリストにヨシダマサキって人が載ってた。29歳の男性だ。それは免許証の写真通り、角刈りの男性のことであってリョウイチさんのことじゃない。
でもどちらもサカキが開催したイベントに参加していた。
どうやらマオちゃんの推測が正しかったみたいだね」
「と言うことは、あいつは頭に針を刺されてから1週間後のステージに立っていたわけか。それも違う姿で。
本人からしてみれば記憶の終わりと始まりに空白がないように感じる。だから自分自身に違和感を覚えなかったのかも知れないな」
「何じゃこりゃぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
ユキトが話し終えるのと同時に公衆便所から奇怪な叫びが聞こえてきた。
本人もようやくこの違和感に気がついたみたいだ。
いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)
最近、近所のスーパーに卵が売ってなくてすっかり玉子不足です!
玉子かけご飯、玉子焼き、玉子サラダ、ニラ玉の味噌汁……。
私の好物は思いの外、玉子料理が多かったり笑笑
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