第54話 心理誘導
こんにちは(´∀`)
少し日が空いてしまいましたがまた更新させていただきました。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです!
ひとしきり笑いものにされたユキトはため息をつき、大変面白くなさそうな顔とそのままの服装でホテルの中に入ってゆく。
初めはこの服装でホテルに入ることを躊躇っていたユキト。しかしマーライオンのヘソが主催する最後のイベントだと聞き渋々ホテルに入ることを決意して今に至る訳だが……。
「2階に着いたら受付がいる。
その人に合言葉を伝えて」
「言えるか、あんな合言葉!」
いつにも増して不機嫌な様子である。
おまけにクリオネの言葉でユキトの顔がさらに険しくなった。
プライドの高いユキトのことだ。
この服装であの合言葉を言うのにかなり抵抗があるらしい。
うん、きっと同じ状況なら自分もそうだろうな。
マオはふたりのやりとりを聞いて苦笑した。
「お待ちしておりました。
この度は『コーディネートはこうでnight! 〜服装研究会〜』へお越しいただきありがとうございます。
ところで、今のあなたの服装はどんなコーディネートアドバイスを受けると思いますか?」
ユキトが2階に着くとPOPスタンドにでかでかと書かれたイベント名と顔を隠してユキトに声をかける受付の女性がいた。
すぐにここがイベント会場なのだと分かる。
もちろんユキトも分かっているとは思うが……。
「…………」
当の本人はだんまりだ。
合言葉を求められているのは承知だがどうしても言いたくないのだろう。
「ほらぁ、ユキトくん。
イベント始まっちゃうから早く♪」
「うるさい、黙れ」
「え……?」
面白がってユキトを茶化すクリオネ、クリオネに向かって通信機に話しかけるユキト、ユキトの言葉が自分に向けられたものだと勘違をし聞き返す受付の女性。
まるで三つ巴、大混乱の嵐が吹き荒れている。
「あぁ、いや……その……こちらの話ですので気にしないでください。それよりコーディネートのアドバイスですよね?」
「ええ、そうですけど」
ユキトが尋ねた直後、受付の女性は急にそっけない態度を見せ始める。
声のトーンが先程よりずっと下がりきっていた。顔こそは隠れていて見えないが、どうやら今ので完全に不審者認定されてしまったらしい。
ここまで来て警備員なんて呼ばれたらまずい、早く合言葉を伝えてとりあえず中に入らなくては。
ユキトは短く息を吸って一思いに言った。
「す、スマートなコーディネートをお願いします」
あぁ、屈辱的だ。
こんなダサい服装でこの言葉を言わせないで欲しかった。
顔が真っ赤になるのがユキト自身でも分かる。
時代に乗り遅れた海賊のようなコートが悲しくひらりと揺れた。
「確認が取れました。どうぞ、中へ。
あなたで最後ですよ」
迷惑そうな、いかにも気だるげな声で受付の女性に案内された先はホテルの宴会場として使われる一室。
既にそこには30名ほどの人が集まっており、皆が椅子に座って小さなステージの上を見つめていた。
「おや、これで皆さんお揃いですね。
では始めましょう。
服装研究会を……いえ、第二の人生の祝福を!」
ステージの上にいた男が静かに手を挙げると拍手が巻き起こる。
クローンボットお披露目会の時と同じだ。
仮面をつけており顔が隠れていて分からないが、この話し方、場の作り方からしてステージ上の男がサカキなのは間違いない。
クリオネから送られてくる映像を見てマオはそう確信した。
「よくできました、ユキトくん!
後はそこに座ってお行儀良くしててね」
楽しそうなクリオネへの返事をユキトは小さく舌打ちで返す。
「どうも、こんにちは。
私はマーライオンのヘソの管理人です。
突然ですがこの世界には嫌なことばかりだ。
貧困、社会的なカースト、愛する者との死別、裏切り、嫉妬……でも皆さんが一番嫌だと思っているのはそれに抗うことのできない自分自身なのでしょう。
そうでなければ第二の人生を始めたいとも思わないはずですから。
さぁ、今回はそんな皆さん全員に"生まれ変わり"を体験してもらいたい」
サカキが指をパチンと鳴らすと先程、受付にいた女性が何か黒いものを手に持って現れる。
ユキトが目を凝らしてステージを見ると、それはUSBメモリに似た道具だった。
本来ならばPCに差し込む端子部分のところに小さな針がついている。肝心の端子部分はどこにも見当たらない。
「これはトレースバースと言って、ある科学者の血と涙で出来上がった道具です。
記憶媒体、例えるならUSBメモリ。
簡単に言うとココの情報をコピー&ペーストできてしまうんです」
サカキは自分の頭を小突いて自信たっぷりに言った。
「皆さん、どうか恐れないで。
トレースバースがあれば人生は望みのままに生きていけます。
自分が羨望の眼差しで見ていた他人の記憶や知識、それらが全部自分のものになるんですから。
どうです? 魅力的でしょう。
最初に"生まれ変わり"たい方は手を挙げてください」
すると真っ先に前列の女性が手を挙げた。
「どうぞ、ステージへ。
まずは簡単にあなたのことを教えていただけますか?」
サカキに促されるまま、女性はステージに上る。
「はい、私はある病に犯されています。
もう長くはありません。
あの掲示板を見て、どうせ死ぬのなら第二の人生を体験してからにしようとここへ来ました」
躊躇もせず明るく自分の身の上を話す女性の姿に一瞬、ミコトの面影が重なった。
アイツなら第二の人生という選択肢があったとしても、今のまま生きることを選びそうな気がするな。
ユキトはぼんやりとミコトのことを考える。
「えー第二の人生、あなたはどのように生きたいですか?」
サカキからの問いに女性はこう答えた。
「病気のことを忘れて余生を大切に過ごしたいと思います」
「余生を大切に、ですか。
分かりました。
では彼女にお望みの人生を!」
サカキはそう言った直後、トレースバースの針を女性の脳天めがけて勢いよく振り下ろした。
コスッという音と共にトレースバースが光りだす。
女性は遠くを見つめており、針を刺されたことに何も反応しない。
あまりにも突然すぎる出来事に周囲がざわついているが、サカキはそれを収めるべく大きく手を振り言った。
「皆さん、大丈夫です。
彼女の脳に保存されていた記憶、知識、体験を今ここにコピーしています。
コピーの保存期間は半永久的。
つまり光が消えた時、彼女はこの中で半永久的に生き続けることができるのです」
サカキは女性の頭に刺さっているトレースバースを見つめた。
「ご覧のようにコピーの間は脳が一時的に思考停止します。
ですがコピーが終われば脳の活動は正常に戻りますのでご安心ください!」
やはりこの男は人を操るのが上手い。
巧みな話術と大げさなパフォーマンスで皆に安心感と興味を与えているのだ。
マオが画面の映像をじっと見つめる中、サカキは次に別のトレースバースを取り出す。
「ほら、もうすぐでコピーが終わりますよ。
次はもうひとつのトレースバースを使って彼女の脳に別の脳の情報をペーストしてみましょう。
皆さん、ここからはよく見ていてください!」
サカキの言葉に群衆の目がステージに釘付けになった。
女性に刺さったトレースバースから次第に光が消えてく。
サカキはその針を慎重に抜くと、もうひとつのトレースバースをまた女性の頭に刺し込んだ。
一連の作業が終わった時、遠くを見つめていた女性はふと我に返ったように動き出す。
「私は……何を……?」
いつも読んでいただきありがとうございます(´∀`)
最近、サカキの声が半沢直樹の時の香川照之で再生されています笑
そのうち、おしまいDETH!なんて言う日が来るかもしれないし来ないかもしれませんね。(たぶん来ない)
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ではまた次回!




