第48話 与えられた愛
おはようございます(*´ω`*)
今日も投稿させていただきました。
また読んでいただけたら嬉しいです!!
「それはどうしてですか?」
ミコトはユキトの目を真っ直ぐに見つめて次の言葉を待っている。
「だってあんた、筋ジストロフィーなんだろう。
治療を受けるためには俺と結婚するしか方法がないぞ」
「何故それを……!」
「思わぬ形で知ってしまってな。
悪く思わないでくれ」
驚いたミコトの反応から察するに、クリオネに話したミコト側のメリットの予想は当たっていたようだった。
ミコトが最高峰の治療を受けるためには、ユキトと結婚することがユーゼンからの条件である。
「そうでしたか。もう知っていたんですね。
今日お伺いしたのはその事をお話ししておきたかったんです」
「なぜわざわざ言う必要がある。
それを知れば俺が結婚を考え直すとでも思ったのか。
おまえがそこまでする理由はなんだ」
「この結婚があなたに何もメリットがないのなら、あなたはただ好きでもない人と結婚することになって自由を奪われてしまう。
わたしは自分のせいであなたに迷惑をかけたくはありません。
だから結婚を断ってください」
「メリットか……」
ユキトはいつもの癖で胸ポケットに手を伸ばそうとするが、一瞬思い直してその手を下ろす。
さて、本当のことを話そうか。
自分の親父は頭のおかしい科学者で、親父の変な研究のせいで白鷺家は金に困っている。だから俺が結婚させられそうになっていると。
そんなことを言ったら彼女はさらに頭を悩ませてしまうだろう。
ユキトは肩をすくめてこう言った。
「実は、俺は残念なくらい縁がなくてな。
そして脳科学者としての知名度も。
おまえと結婚することでその両方を手に入れられるとしたら、それがメリットなんだろう」
ミコトは一瞬、きょとんとしたがやがてクスクスと笑い出した。
「ふふっ。
面白いことを仰るんですね」
「まあな。
もしそれでも嫌だと言うのなら、結婚してからその関係性を解消すれば良い」
「それは離婚、と言うことでしょうか?」
「そういうことだ。
それならお互い自由にも生きられるだろう」
側から見れば酷い言いようだが、ここまで言わなければきっとミコトは結婚、つまり自分の治療には乗り気にならないだろうとユキトは考える。
「ユキトさんはわたしがユーゼンから出された条件を全てご存知ですか?」
ミコトは目を伏せて静かにユキトに問う。
ユキトは怪訝そうに首を傾げて答えた。
「医療クローニング技術を使って治療を行う代わりに俺と結婚すること、じゃないのか」
ユキトの答えにミコトは首を横に振る。
「条件はそれだけではありません。
結婚して子供を作ること、それが一番重要な条件なんです」
「嘘だろ、それは正気か……。
何のためにそこまでしなくちゃならない?」
ユキトは眉を顰めた。
親父からは結婚とだけしか聞かなかった。
しかし子供となると話は変わってくる。
これではまるでユーゼンにこれからの人生を売っているようなものだ。
ユーゼンの条件を飲んだと見せかける為の術、結婚後にミコトとの関係性を解消するという手は難しくなった。
「ユーゼンは遺伝子の実験に協力してほしいと言っていました。
詳しくは教えてもらえませんでしたが……。
今後、命の危機に晒されながら生きるよりはマシだと。
わたしの両親はそれならばと結婚を前向きに考えているようですが、わたしはそうまでして生きていたいとは思いません」
「病状はどうなんだ」
ユキトが尋ねるとミコトは屈託のない笑顔を浮かべた。
「あぁ、それなら薬で進行を遅らせることができているので大丈夫ですよ。
わたしの場合は後天性のものなので、今は症状も軽度で済んでいますし」
「ピアノの方は……」
「いずれ弾けなくなってくるでしょうね。
でも治療を受けなかったからと言って後悔はしません。
自分の思うままに、自由に生きることができればそれでいいんです」
笑顔とは裏腹にテーブルの下に隠されたミコトの手が震えていた。
本当は怖くてたまらないはずだ。
彼女にかける言葉が何も見つからない。
いつも周りに迷惑をかけまいと、そうして気丈に振る舞っているのだろう。
それを感じたユキトは思わずこんなことを口走ってしまった。
「あんたは甲斐航洋という人物を知っているか?」
「甲斐?
甲斐ってあの、カイ博士のことでしょうか?」
「カイ博士……。
とにかく知っているんだな」
ぼんやりとした推測が確信に変わる。
「知ってるも何も、医療クローニング技術の第一人者だった方ですよ。
彼が〈最初で最後の超一流技術師〉と揶揄されたくらい研究も、技術の面でも優れていました。
わたしの父は外科医なのでクローニング技術師とも交流があるんです。
本当はそのツテを頼ってカイ博士に診ていただきたかったのですが……。
もう何年も前にカイ博士は医療業界から突然、姿を消してしまったそうです。
誰も彼の所在が分かりませんでした。
そんな時にユーゼンから紹介されたのがカイ博士に次いで優秀な技術師の方だったんです」
「…………一応聞くが、そのカイ博士が出た大学は知っているか?」
「大学、ですか。
確か大木碕大学だったかと思います。
父がカイ博士のことを話す時に、あの大学を出た人はやっぱり違うな。なんて言っていたような……」
「ありがとう。
それだけ聞ければ充分だ」
ユキトは決意したようにミコトの方をまっすぐ見た。
「俺はあんたが助かるもうひとつの方法を見つけたかも知れない」
ミコトは優しい眼差しで笑った。
「ふふっ。
もしかしてカイ博士を探してくれようとしているんですか。
やっぱり面白いことを仰るんですね。
でも、あなたの温かい気持ちに救われたような気がします。
ありがとう、ユキトさん」
幸いミコトはこの話を真に受けてはいないようだ。
ユキトは安心した。
下手に期待を持たせてガッカリさせてしまうよりかは全然良い。
たった今、たどり着いたひとつの可能性を、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
上手くいく確証は全くもってない。が、カイ博士はもう見つかった。
後はどうやってこちら側に懐柔させるかが悩ましいところだ。
「結婚の話は急ぎませんので、また改めて考え直してみてください。
では、わたしはこの後リハビリなので。
楽しい時間をありがとうございました」
またおかしな帽子を被り直して出て行くミコトをぼんやりと見つめてユキトはひとり、物思いに耽っていたのだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
すっかり外は春の匂いになりましたねヽ(´▽`)/
でもまだマスクが色んな意味で手放せない毎日です笑
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