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第41話 3万分の1の確率の事例

おはようございます^ ^

41話、書けました!


また見ていただけたら嬉しいです。




 「さぁ、とりあえずここがあなたの仕事場よ」


 シノミヤに案内された先は『クローンボット研究室』というドアプレートを掲げたそこそこ広い部屋だった。


 ユーゼンの敷地自体、キーラボより広いのだ。

ひとつひとつの部屋が広く感じて当たり前かとマオは思う。


 「それで、私は何をすれば良いのでしょう」


 マオが尋ねると、シノミヤは言った。


 「クローンボットって当然、あなたならご存知でしょう。


 私たちは今、これまでにクローンボットを動かした人の脳内データを仕分けしてるところなの。


 手伝ってもらえる?」


 クローンボットか。

それならもう耳にタコが出来るくらい聞いた。


 実際にお披露目会で動かしたこともある。

まぁ、上手くはいかなかったが。


 今さらクローンボットに関わる情報を調べたところで大した収穫はないだろう。


 あのクリオネの言っていた『新人類』

人間そっくりの感情を持ったAIロボット。


 誰が何の為に研究し、どうやって作ろうとしているのかは全く見当がつかない。

 

 だが、マオにはあるひとつの考えが生まれていた。これが上手くいけば『新人類』とやらの研究に関わる事ができるかもしれない。


 どうせシノミヤには既に良く思われていないのだ。

なら試してみる価値はある。


 マオはシノミヤの方へ向き直ると、キッと鋭い顔を作って言い放った。


 「お言葉ですがシノミヤさん。

 私がここへ来て最初に与えられる仕事がその程度ですか?


 また随分と舐められたものですね。


 どうせならもっと……最新の研究を進めているチームなんかに入れていただきたいところです。


 ですからそのような仕事はお断りさせていただきます」


 「はぁ?

あなた、何言ってるの」


 やはり、そうですよね。とマオは心の中で思う。

 シノミヤの顔は怒りで歪んでいた。


 入社早々、こんなことを言ってのける新入社員がいたらビックリだろう。


 自分でもこんな不遜な態度を取るのは嫌だが、もしかするとこの会話の流れで『新人類』の話が聞けるかもしれない。


 マオは張り詰めた空気の中でシノミヤの次の言葉を待った。


 「いい、ユーゼンではここが最新の研究を進めているチームなのよ。


 そんなことも知らないでよくこの会社に入って大口を叩けたものね。


 例えあなたが医療クローニングの技術を持っていたとしてもそれがここで役に立つのは10年先、いや20年先になるんじゃない?


 ま、それまでにあなたがここを辞めなければの話だけど。


 あぁ、そう。ひとつ残念なお知らせをするわ。

この研究チームも暇じゃないの。

人手が足りなさ過ぎて馬鹿の手も借りたいくらい。


 仕事に拒否権はないわよ!」


 勝ち誇ったような視線で冷静に捲し立てるシノミヤの様子は、さながら早口言葉を得意気に披露する子供のようだ。


 惜しくもマオの作戦は失敗に終わり、代わりにとてつもなく面倒な新人だと思われたようだったが収穫はあった。


 シノミヤは『新人類』を知らないのだ。


 特に隠しているような感じはないし、私と張り合う為にクローンボットを最新の研究と言っているわけではないことが表情や言動から読み取れる。

 

 つまり『新人類』はユーゼンの中でもごく限られた、一部の人間しか関わることが許されない研究ということ。


 そうなると、その実態を知るのは幹部連中になるのだろうか……。


 幹部とやらの情報がもう少し欲しいところだ。

 マオは自分なりの推測を立てて考え込む。


 「ちょっと、聞いてるの?」

 

 耳元でシノミヤが声を荒らげる。


 「あ、すいません。

聞いてませんでした」


 「何ですって!?」


 まずい、正直に答えてしまった。

シノミヤの瞼がピクピクと動いている。


 別に今のはこちらから喧嘩を売ったわけではない!

言い方にまで気が回っていなかったのだ。


 マオは自分自身を呪った。


 それもこれも『新人類』のせいだ。

早くヤヨイを見つけてキーラボに戻りたい。


 マオはストレートで来るシノミヤの反撃をノーガードで聞き流し続けたのだった。


 その後なんとかデスクに向かい、ほぼ強制的に脳内データを仕分けし始めたのはさらにその数十分後。


 それからどれくらいの時間が経っただろう。


 作業中は皆、しんと静まり返って集中している。


 嫌々ながら始めたこの仕事も要領を得てしまえば、後は流れ作業だ。


 マオはクローンボットを操作した時に出た、脳波の波形が似た人のデータを集めてグループごとに分けていく。


 「シノミヤさん、ちょっといいですか?」


 「なに?」


 男性の研究員がシノミヤに声をかける。


 「昨日、喜美所長に渡すはずだったこのデータはどうしますか?」

 

 「あぁー……。そうだわ、忘れていた」


 シノミヤが頭を抱えていた。

その横から別の研究員がにゅっと顔を覗かせデータを覗き込む。


 「あぁ、それか!

あの時はみんな一瞬、焦ったよな。


 シノミヤさんがまだ同期が済んでないとか何とかって誤魔化したから良かったものの、素直に喜美所長に渡してたら面倒なことになってた」


  「幸い今まで見てきた3万件くらいのデータのうち、この事例はたった1件。つまり3万分の1よ。


 そんな確率までいちいち気にしてたら仕事が回らないわ」


 「あの……皆さん、何かあったんですか?」


 状況が全く読めない。

マオが尋ねると近くにいた気の良さそうな研究員が小声で話してくれた。


 「数日前、クローンボットお披露目会があったんだ。

 その時クローンボットを操作した人の中にどのグループにも分けられない、かなり特殊な脳波の持ち主がいてね。


 しかもその人、会場の中で一人だけクローンボットを上手く動かせなかったらしい。


 これが上にバレたら不具合だ何だと言われて、クローンボットの製品化が遅れる、そうすれば喜美所長もいい顔はしない。


 だから今、どうするか考えてるところ」


 マオの心臓がバクバクと音を立て主張している。


 あのお披露目会で唯一、クローンボットを上手く動かせなかった人。3万分の1の確率の事例。


 それはどう考えても私しかいない。


 そしてあのクローンボットを操作したことにより、断りもなしに脳波のデータを取られていたとは……。


 怒りと、申し訳なさと、驚きとでマオは複雑な心境だった。


 「で、どうしましょう。このデータ」


 「破棄しちゃって」


 「それでは数が合いません。追求されるでしょう」


 「困ったわね。

本当に面倒なことになったわ。


 ユーゼンの全社員の脳波データはとうに取ってあるし……」

 

 

 一同がだんまりと考え込む。


 暫くして、あぁ。と最初に口を開いたのはシノミヤだった。

 

いつも読んでいただきありがとうございます。


さっきムートンで外出したら無事、靴下が水没しました泣


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