第4話 大人たちの苦悩
こんにちは( ´ ▽ ` )
今日は投稿までしっかり起きていられました。
また読んで頂けたら嬉しいです。
「えー、では学校に着いたら今日の授業はお終いです。迎えのバスがすぐ来るので、えー……立ち入り禁止区域には行かないで……。各自、研究員の方にお礼を言ってから退室してください」
先生のその言葉を合図に生徒たちは蜘蛛の子のように散っていく。
お礼を言ってから立ち去る子がほとんどだが、何も言わずにそのまま立ち去る子もいる。
この年代の子供は本当に憎たらしい、と言うより苦手だ。
最後の1人が退室し、残すところ先生1人だけとなったとき、
「今日はありがとうございます。生徒たちが本当に失礼しました」
先生がマオの方へ向かって頭を下げた。
「いいんですよ。気にしてませんから! 大変ですよね、先生も」
本当は癪に触っている。子供相手にだが……。
でも、ここは大人として笑顔で社交辞令を述べておこう。
「ははは。まぁ、なんというか……」
先生は少し苦笑い気味で話を濁す。
おそらく今の学校では先生はあまり強く生徒を叱れないのだろう。それは以前からもその風潮があったのだが、ここ最近では段々とエスカレートしているようだ。
私立の学校なら特に、わざわざ生徒やその家族がお金を出して通っているということで完全に生徒の方が先生より立場が上になってしまうのだろう。
生徒を少しでも怒鳴れば先生は家族にバッシングを受けて懲戒解雇、注意をしても「お金を払って来てやってるのは俺たちだから!」と聞く耳を持たない。
生徒たちのために、周りのためにと怒りたくても強く言えないのが今の先生の現状らしい。
まるで生徒から教師へのハラスメントのようだ。
マオは以前テレビで見たそんなニュースの内容を思い出していた。
「そういえばこの私立翼蘭中学校ってかなり有名ですよね? あの『科学の名門校』と言われている……。今日の講義で脳科学に興味を持ってくれる生徒さんがいれば良いんですけどね」
マオの言葉に先生は大きく頷く。
「それはもう、多分いると思いますよ! 生徒たちもとても講義の内容に興味を持っていたようですので。特に先生にも。なんというか、社会性は低いですが知能のポテンシャルだけは高い子ばかりですから」
と、先生は肩をすくめてシーと人差し指を口元に持っていく。
思わず笑みが溢れた。
「そうですか。興味を持ってくれたのであれば良かったです。このキーラボでは月に2回、これからの未来を担う学生さんたちのために今日みたいな見学会と講演を行っています。次は来月にまた別の内容で行う予定ですので。もしよろしければお待ちしています」
「わかりました。また機会があれば是非、伺わせていただきます。ここだけの話、今度はもうちょっと大人しめの子達を引率して行きたいところですけどね。ご丁寧にどうもありがとうございました。では、迎えのバスが来たようなのでこれで失礼します」
先生は礼儀正しくお辞儀をして退室し、窓の外から見えているバスへ急ぐ。
「お気をつけて! ふぅ……。よし、片付けるか」
先生を見送ったマオは窓の外からバスが見えなくなるまで近くにあった椅子に腰掛けていた。そして一息ついた後、すぐに片付け始める。
「お疲れ様です、マオさん。僕、今ちょうど手が空いたので良かったら手伝いますよ」
ふっと声のする方を見ると眼鏡をかけたミルクティー色の髪の好青年がニコニコして立っていた。
見るからに優しそうな顔にいつも妙な安心感を覚える。
「アズマさん。もう終わったんですか? ちょっと申し訳ないんですけど、これを一緒に運んでもらっても……」
重たいカゴが2つテーブルの上に並んでいる。
たった今まで見学会で使っていたものだ。
力に自信のあるマオでも一度には運んでいけないだろう。
アズマと呼ばれた好青年はそのカゴを見ると、白衣の袖を少し捲ってよし、と呟く。
「わかりました。どちらまで運びますか?」
「倉庫の方までお願いします」
2人はカゴを持ち上げて倉庫へ進み始める。
「それにしても子供たちに振り回されているマオさんだなんて珍しいものを見ました。うまくあしらってましたけどね」
アズマが悪戯っぽく笑いかけた。
「えぇ、どこから見てたんですか! それなら助けてくださいよ、アズマさん。まったく、学生のための見学説明会をやろうなんて誰が考えたんだか。私、ただでさえ子供嫌いなのに講師なんてとてもじゃないけれど務まりません」
「はははっ。講師は当番制ですよ。いずれ僕もやる日が来るんですから、頑張ってください! それになかなか似合ってましたよ、マオ先生!」
「えぇ!? そ、そうですか?」
まんざらでもなさそうにマオがはにかむ。
「そうですよ。それにマオさんはまだ良い方です。この間のユキトさんが講師をした見学説明会のときなんて散々だった、って聞きましたから」
「あのユキトさんも子供たちに振り回されていたんですね」
いつもは自分が周りを振り回しているような子供っぽい人なのに。柄にもなく先生として講義し、手こずっているユキトの姿を想像すると笑えてくる。
間もなくして倉庫に着いたマオとアズマは、荷物を降ろしその重みから解放された。緩んだかの如く、ふうっと息をつくようにアズマは言った。
「どうやら聞いたところによると、立ち入り禁止区域に入ろうとしてた子供がいたらしくて。企業秘密もあるし関係者以外入っちゃいけないってことをユキトさんが子供に伝えたそうなんですが、かなり屁理屈を言われたみたいです。そうしたらユキトさんもあの性格だから、ガキに喧嘩売られたとか言って子供相手に屁理屈で対抗していたってヤヨイさんが言ってましたよ」
「ほんと、ユキトさんらしいですね」
「あ、これユキトさんには絶対に秘密ですから。僕が言ってたとは口が裂けても言わないでくださいね」
アズマは肩をすくめてシーと人差し指を口元に持っていく。
その姿にマオは既視感があった。
本日2度目に見るその仕草には、大人には複雑な事情があるのだという事を合図しているかのようだった。
読んでくださってありがとうございます。
破天荒な同僚たちに振り回されるマオをどうか暖かく見守ってあげてください。
それではまた明日!
おやすみなさい!!