第37話 社員証デリバリー
おはようございます(^^)
今日も投稿させていただきましたのでまたよろしくお願いします!!
ヤヨイ失踪から三度目の夜が来た。
マオはユキトに連れられて今、第4埠頭倉庫にいる。
ユキトから連絡があったのが夕方頃。
今から出てこいと唐突に言われバイクの後ろに乗せられたかと思うと、あれこれ話しているうちにここへ着いてしまったのだ。
夜の埠頭倉庫はなんとなく雰囲気が怖いので、できれば二度と長居はしたくない。
だが自分がここにいるいうことはクリオネが私たちを呼んだからだ。
ついに潜入の準備が整ったということなんだろうか。
マオは不安と緊張が混ざった面持ちでユキトと共に『アクアリウム』への階段を下る。
ユキトはあれから何も言わない。
自分の家のこと、婚約者のこと。
ここへ来る時にバイクの後ろで何となくは聞かされた。
それは必要だからこそ話してくれたものの、普段なら絶対に聞くことはなかった話だろう。
マオが想像していたよりも、それはずっと重たい話だった。
ああ見えて意外と苦労人なのだ、ユキトは。
「いらっしゃーい。ふたりとも待ってたよ」
入り口の前で突然、緊張感のない声に出迎えられる。
彼の右耳には今日もゴツゴツした銀のリングピアスが3つもぶら下がっており、手首に刻まれた十字の刺青が主張していた。
怪しい、控えめに言って怪しい。やはりそのひと言に尽きる。
「クリオネさん。
急に私たちをここへ集めてどうしたんですか?」
マオの問いかけにクリオネはニッコリ笑って言った。
「早速だけど、これからのことについて話したいんだ。マオちゃんにはもれなくプレゼントもあるしね。
さぁ、入って入って!」
たくさんの熱帯魚に囲まれた幻想的な空間の中、マオとユキトは相変わらずコンテナボックスを椅子の代わりにして座る。もちろんテーブルはそこら辺にある段ボールだ。
やはりそれは何ともおかしな光景だった。
「はい」
そう言ってクリオネはコンテナボックスに座ったばかりのマオに紙袋を手渡す。
「なんですか、これ?」
紙袋の中を覗き込んだマオは驚く。
「え、こんなものいつの間に用意したんですか!?」
中に入っていたのは無線通信機。
耳にイヤホンのようにつけて、小さなマイクを服などにクリップで留めて使うタイプのものだ。
もちろんワイヤレスなので潜入にはおあつらえ向きだが、マオはこれに驚いたのではない。
紙袋に入っていたもうひとつの方、社員証にだ。
それもユーゼンの研究室へ出入りが許されている研究者のものだった。
『U-zen株式会社
機械研究課 研究員
駒井 蠡傻』
「ユーゼンの社員は腐るほどいるけど、研究員となれば話は別だからね。これ手に入れるのに相当苦労したよ」
クリオネは涼しい顔をしてそんなことを言ってのける。
「コマイ……?
あの、これなんて読むんでしょう?」
マオは社員証の中に名前と思われる不思議な文字を見つけて首を傾げる。
「あぁ、コマイリサね。
マオちゃんにはこの人になりきって潜入してもらう。
彼女はね、偶然にも、ほんっとぉに偶然にも、タイミングよくユーゼンに新入社員として雇われるところだったから、オレがユーゼンになりすましてお祈りメール出しておいた」
クリオネはぺろっと舌を出して笑っている。
「え!?
クリオネさん、それは流石にダメですよ!」
お祈りメール。
この場合、ユーゼンの不採用通知とも取れるメールだ。
それはつまり、コマイさんは悪戯にも不採用にされてしまったということになる。それもユーゼンとは全く無関係の人間に。
「なるほどな。
そのコマイって奴にはユーゼンを装って不採用通知を出し、ユーゼンにはコマイと名乗り社員証を手に入れたのか。
どうやったんだ?」
今まで黙っていたユキトがかなり感心した様子で口を開いた。
「ユキトさんまで……。
感心してる場合じゃないですよ、これ。
コマイさん本当は採用だったんじゃないんですか?
今頃、不採用になったと思って凄く落ち込んでますよ!
一体どうするんですか」
「大丈夫だよ、マオちゃん。
ちゃんと詳しく説明するから、ね?」
慌てているマオをクリオネはまぁまぁ、となだめる。
「えーと……。何から話そうか。
まずユーゼンに潜入する為にオレは足がかりを探していた。それが新入社員として紛れ込むっていう作戦さ」
「他に方法はなかったんですか?」
訝しげにマオが尋ねる。
潜入と聞いた以上、それなりのリスクを覚悟していたがまさか新入社員として堂々と潜入することになるとは……。
できれば他の方法を取りたかったが、クリオネは首を横に振った。
「前に偽造IDを使ってヤヨイサンとユーゼンに潜入するつもりでいたんだけど、ヤヨイサンがユーゼンに拉致られた後、施設内のPCを起動させていた事が分かったんだよ。
事前に渡していた偽造IDを使ってね。
どうやらそこからユキトくんに例の隠しファイルのパスワードをメールしてたみたいだ」
クリオネが言っているのはズィファイルのことだろう。
机の片付けの暗号、あれはユーゼンのPCから送ったメールだったようだ。
「それならきっと偽造IDの存在は喜美にはもう、さすがにバレてるでしょ?
やっぱ何かしらの対策ぐらいは取るよね。
向こうも馬鹿じゃないもの。
だから今回は正攻法で潜入することにしたのさ」
「正攻法……ですか」
一体これのどこが正攻法と呼べるのだろうか。
非常事態とはいえ、未来ある若者の可能性をひとつ潰してしまったのだ。
「そう、正攻法。
ユーゼンではAIが面接してるって知ってた?
受け答えや話の内容、簡単な知能テストの結果をAIが数値化してユーゼンの会社に適性があるかを見てるんだって。
それで合格者には後日、通知と共にその時のAIが撮った写真付きの社員証が送られてくるらしい」
「ふん、馬鹿な話だ。
人間が機械に品定めされるなんてな。
それで業務を効率化したつもりか」
ユキトは鼻で笑う。
「いやぁ、そのおかげでこんな事ができたんだから感謝しなくちゃ。
だって誰もコマイサンの顔は直接見てないんだもの。
履歴書だって管理してるのもデータ上だから見放題!
写真のデータさえすり替える事ができれば成りすましなんて余裕だし?
後は適当にどこかマンションの空き家を探して、社員証の送付先をそこに指定すれば、あら不思議!
そこのポストにコマイサンの社員証をデリバリーしてくれるってワケ」
「もはや犯罪集団ですよ、私たち」
この人には無駄だと知りながらもマオは突っ込まずにはいられなかった。
昨日はブレイキングダウン、無事に見れました( ´ ▽ ` )
やっぱり何か大きな目標に向かって取り組んでる人は素敵です!!
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