第34話 優しい親父
おはようございます。
本日も投稿させていただきました!
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宜しくお願いします。
ヨネさんはユキトを連れてリビングへとやって来た。
優吾の書斎とは違い、綺麗に手入れされた植物が置かれ掃除が行き届いている。
「申し訳ありません。
もっと早く連れ出していれば……。
お父様のあのような姿を見るのはお辛いでしょう」
ヨネさんが心配そうにユキトを見る。
「いいや、もう慣れている。
と言っても8年前までの事だがな。
いつもあんな感じなのか?」
ユキトが問うとヨネさんは首を横に振った。
「いいえ、優吾様があのようになられてから長いことバトラーサービスをしていますが……ここまで取り乱したのを見たことがありませんでした。
ましてや普段、人とお会いになる時はきちんとした身なりで平然と振る舞われておりましたから。
きっとユキト様と久々にお会いになられて気持ちが昂ってしまったのでしょう。
時間を置けばきちんとお話できる状態になるかと思いますので少しお待ちください」
「あぁ。すまないがコーヒーを淹れてもらえないだろうか」
ヨネさんがコーヒーをリビングに持ってくるとユキトはそれを一口飲む。
ヨネさんはその場を離れようか離れまいか、少し迷っていたらしく、やがて様子を伺うように口を開いた。
「あの……このような事をお伝えするべきか迷いましたが、ユキト様が家を出て行かれてから優吾様はご自身の財産のほとんどを例の研究費用に費やしておられました。
最近ではそのせいか屋敷の資金繰りも悪化し、このままでは屋敷を売り払うことにもなりかねません。
何とかならないものでしょうか?」
「そうか……。
今までヨネさんには迷惑かけてばかりだったな。すまない」
親父がおかしくなってからは何人か雇っていた家政婦も気味が悪いと言って辞めてしまった。
そんな中でヨネさんだけは根気強く親父に付き添い身の回りの世話をしてくれていたのだろう。
それなのに、こちらの都合で給金を払えず屋敷そのものが無くなった結果、解雇しますなんてことだけは絶対に避けたい。
ユキトはそう考えたのだ。
「この件は俺が何とかする。
悪いがもう少し待っては貰えないだろうか?」
ユキトの言葉を聞いてヨネさんは淋しそうに笑うと言った。
「ユキト様が幼い頃から苦労されているのは分かっています。
そして優吾様もどれだけ辛かったことでしょう。
しかしこのまま放っておくわけにも行かず、かと言ってどう手を差し伸べれば良いのか……。
私には方法が思いつきません。
どうかお父様を真っ暗な中から連れ出してあげてください」
ヨネさんは一礼すると今度こそリビングから立ち去った。
しばらくしてユキトはニ階へ登る階段の前に立って考えていた。
どうすれば親父をあまり刺激せずに話ができるだろう。
ヨネさん曰く、今は薬を飲んで落ち着いているそうだがまたいつ錯乱するか分からない。
親父が最初にかけてきた言葉からすると、俺のことをどうやら親不孝者だと思っているらしい。
まぁ、実際こんなになるまで放っておいたわけだから俺は親不孝者なのだろう。
あの支配人が親父に何と言って伝えたかは分からないが、俺の考えに理解を示していないのなら無理にでも理解させるしかないのだろうか?
考えているうちに、ユキトは知らぬ間に階段を登り切っていた。
書斎の前で止まると扉越しに様子を伺う。
静かだ。落ち着いたのだろうか。
ゆっくりとドアノブを回して部屋の中へ入る。
ユキトはもう一度、優吾と向かい合った。
「ユキト、先程は取り乱してしまってすまない。
お前の気持ちももう少し考えるべきだった」
優吾はユキトを見つめ、とても穏やかに話した。
先程とは違いまるで嵐が過ぎ去ったかのように。
「まず、順を追って話そう。
私がお前に結婚を勧めているのは母さんの為でもあるんだよ」
こうやって、この場面だけを切り取ったら昔の親父そのものなのにな。
まるで母親が死ぬ前の親父が時を超えてきて、今この場にいるような気さえする。
ユキトは複雑な気持ちになった。
「母さんは私の研究が上手くいけばきっと甦る。 また家族皆で笑って過ごせる日が来るんだ!
ただ、困ったことがあってな」
あの時の真っ直ぐで優しい親父はどこへ行ってしまったんだろう。
もう決して戻ることのないあの頃を思うと胸が痛む思いだ。
「母さんを甦らせる研究にはかなりの金がかかる。
私の私財もそろそろ底を尽きるがこの間、喜美さんに私の研究が認められてね。
援助をすると言ってくださったんだよ!」
「は?
喜美……?」
「そう、ユーゼンの喜美所長だ。
以前からクローンボットのことは噂に聞いていたし、好感を持っていた。
だからウチのホテルでお披露目会をしたいと尋ねてきた時には本当に驚いたよ」
「喜美がこの家に来たのか!?」
まさかこんな所でも奴の名前を聞くとは思わなかった。
「ああ、この間だ。
いや、もっと前だったかも知れない。
とにかくウチのホテルを貸すことになって、その時に研究の事を話した。
喜美所長は研究費を援助する代わりにある条件を出してきたんだよ」
「それが俺とあのピアニストとの結婚ってわけか」
優吾は深く頷いた。
「そうだ。
お前とミコトさんが結婚するという条件ただひとつだ、たったそれだけの事だ。
なぁ、ユキト。
これは母さんのお告げなんじゃないのか?
お前もそろそろ結婚して家族を作りなさいと。
母さんが生き返った時、その方が賑やかでお前も幸せになると母さんは思っているんだ。
だってこれはユキトにも悪くない話だろう?」
優吾は相変わらず穏やかに喋っているが、やはり支離滅裂な事を言っている。
しかし、ユキトは気になって仕方がなかった。
なぜ自分の結婚にユーゼンの喜美が関わっているのか。
なぜ相手にミコトが選ばれたのか。
なぜそうまでして自分達を結婚させたがっているのか。
「親父。
喜美は何故、援助の代わりに俺とミコトの結婚を条件に出した?」
ユキトは優吾にそう強く問い詰めたのだった。
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