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第33話 白鷺優吾

おはようございます。


最近、ペンギンベーカリーのシナモンロールとカレーパンにハマりました。

今日のお昼はちょっとだけ豪華(^O^)


お陰様でまた投稿できました笑

本日も宜しくお願いします。



 風が心地良い朝だった。

緑の山々に囲まれた畑、行手には山道へと真っ直ぐに続く道。


 バイクのスピードを少し上げるとひやっとした風がライダースを伝って肌を撫でてゆく。


 そんな爽やかな雰囲気とは全く正反対の顔でユキトはバイクを走らせていた。


 せっかくの休日だ。

なのに何故、こんな片田舎の実家に帰らなければならないんだ。


 おまけに昨日はあまり寝ていない。

寝不足のうえ、不満が溜まりに溜まったユキトは


 「クソが」


 と呟きながら実家の白鷺(しらさき)家へと急ぐ。


 支配人との駆け引きの結果、実家へ帰らなければならなくなったものの、そんなことは早く終わらせてヤヨイの救出に専念したいのだ。


 ユキトがバイクを走らせると丘の小高いところにドンとそびえ立つ大きな屋敷が見えてきた。


 西洋の洋館を彷彿とさせるその姿は誰の目から見てもお金持ちが住んでいる、ということは明白だ。


 ユキトはその洋館の門の前まで来ると取り付けられているチャイムを2回鳴らした。


 「どうぞ、お待ちしておりました」


 男の声と共に門とその先にある扉が開く。


 扉の前にはメガネをかけてスーツを着た年配の男性が立っている。

 整った白髪で手や顔のあちこちにシワがあるが、ピシッとした身のこなしは以前と変わらない。


 「元気そうだな、ヨネさん」


 ヨネさんと呼ばれた老人は穏やかに笑うと少し掠れた声で答えた。


 「お久しぶりです、ユキト様。

私はもうご覧の通り、歳ですよ。


 お迎えが来る前にもう一度あなたとお会いできて良かった。


 もうお帰りにならないかと思っていましたので」


 「事情があってな。

帰ってくることになった。


 あまり気は進まないが親父と話をしたらすぐ出ていくつもりだ」


 ユキトがそう言うと、ヨネさんはなんとも言い難い複雑な顔をする。


 「左様でしたか。

ではお父様の元へ参りましょう」


 ヨネさんはユキトに中へ入るよう促し、屋敷の二階へと案内した。


 8年前ぶりくらいだろうか?

 この屋敷の中へ入るのは。


 親父はもともと花や植物を研究する学者だった。

当時、無名の画家だった母親と出会い結婚をしてお互いの仕事の為にこんな片田舎に屋敷を構えたのだ。


 母親の死後、親父の研究テーマは『死者と交流する方法』などというものに変わった。


 俺には目もくれず、毎日ひたすら研究を続けてずっと部屋に籠りきりだった気がする。


 時々、屋敷中に得体の知れない嫌な臭いや動物やらの死骸が撒き散らされていたことはよく覚えているが。


 母親が死んでから親父はおかしくなってしまったのだ。


 俺はこの家が苦手だ。


 逃げるように屋敷を去ってから、親父とは一度も会っていない。


 場所も場所なら親父も親父だ。


 こんな家、帰ってこなくて当然だろう。


 ユキトはこれまでの事を思い出しながら階段を登っていく。

 

 そして久しぶりに再会する親父にどんな文句を言ってやろうかと考えていたのだった。

 

 「優吾様、ユキト様がいらっしゃいましたよ。

入ってもよろしいでしょうか?」


 ヨネさんがドアをノックするとあぁ、というくぐもった声が部屋の中から聞こえる。


 ギィという扉が軋む音と共にユキトの目に映ったのは、髭や髪がボサボサで目つきの鋭い長身の男性だった。


 自分の父親の変わり果てた姿を見てユキトはなんとも言い難い気持ちになる。


 かつて書斎として使われたその部屋はカーペットに何かのシミがついていたり、あちこちにホコリが溜まって天井には蜘蛛の巣が張り巡らされている始末。


 おそらく長いこと誰も中に入れていないのだろう。

 

 床に写真立てのガラスが飛び散っている。

ガラスの下には母親が生きていた頃の写真がしわくちゃになり息をひそめていた。


 『白鷺 優吾 殿


貴殿は植物の光合成が人間にもたらす利益を研究し、極めて優秀な成果を出した事をここに表彰する』



 随分埃を被ってしまってはいるが、変わっていないのは額縁に飾られた賞状くらいだろうか。


 当の本人はあれからすっかり変わってしまっているのだが。


 ユキトは優吾をしばらく見つめた後、冷たく言い放った。


 「ホテルの支配人に言われて来てみれば……まだこんな研究を続けていたのか」


 足元に落ちていた本の表紙が見える。


 『死者との交霊、黒魔術を科学的に解説するとどうなるか』


 ユキトは顔をしかめて続けた。


 「まさか支配人に会うときもその格好で会ってたんじゃないだろうな?」


 優吾はギロリとユキトを睨むとものすごい勢いでまくし立てる。


 「親に向かってその態度はなんだ、久しぶりに会うのだからまずは挨拶からだろう、親不孝者め!


 そんなお前に結婚相手のひとりでも見つけてやったのだから感謝くらいされてもいいだろう。


 それなのにお前ときたら……結婚する気はないと、まして私の研究も手伝う気はない、とんだ親不孝者だ!」

 

 「なぜ俺が結婚しなきゃならない?

なぜあんたの研究を手伝わなくちゃならない?


 俺は間違っても黒魔術だの交霊だのそんなものに関わりたくもない!


 それだけ伝えに来た、もう帰る」


 ユキトが踵を返そうとすると優吾は手元にあった分厚い本を投げた。


 「待て!」


 本がドスッと音を立てて壁に激突する。


 『死者の魂とは何か』


 開いた本の見出しが見えた。


 もし本が俺に当たっていたとして、当たりどころが悪ければ死者の魂とは何かを考える前に俺が死んでいたかもしれない。


 ユキトはよくぞこんな時にも皮肉が思いつくものだと自分の頭に感心する。


 「まだ何か用か」


 優吾の方へ向き直り、そう尋ねると今度は泣き声に近いような声で優吾が叫ぶ。


 「すまない、すまない……すまない、ユキト。

お願いだ、実の父親を助けると思って結婚してくれ!


 じゃないとアカリは……お前の母親はぁ!

もう一生会えないかも知れないんだぞ!?」


 「落ち着いてくれ親父。

もう母親はいないんだ、死んだんだから」


 「いいや、まだ諦めない、死んでない、死んでない、諦めないぞ、私は!

この研究が上手くいけば……上手くいけばきっとまたアカリは!!」


 「ユキト様、これ以上ここに居ては危険です。

優吾様が落ち着くまで一旦ここから離れましょう」


 後ろに控えていたヨネさんがそっと扉の向こうからユキトの服の袖を掴んだ。


 なるほど。

ヨネさんがその場を立ち去らず、ずっと後ろで控えていたのはこういう時のためかと納得する。


 「あぁ、これじゃ話にならない」


 ユキトはヨネさんに従って錯乱する優吾に気づかれぬよう書斎を後にした。


いつも読んで頂きありがとうございます。

今回はユキトさんメインのお話でした。


評価•感想•ブックマークなどありましたら何卒よろしくお願いします!!

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