第3話 カイ応用脳科学心理研究所
こんにちは( ´ ▽ ` )
今日は早朝からの更新になってしまいましたが、ぜひ読んで頂けたら嬉しいです。
「はーい。カイ所長、今行きます」
大きな声で所長に返事をした後、ヤヨイは茶色い封筒をマオに手渡した。
「ごめんね。所長に呼ばれちゃったから行かないと! はい、これ。この中に招待券が2枚入ってます。当日マオちゃんがこなかったらワタシ、行けなくなるんだから!! いい? ワタシとあなたは運命共同体よ! 土曜日は休みでしょ? だからちゃんとこれ持って9時に駅前に来てね。たまにはワタシのわがままに付き合ってほしいわ。ということだから、お願いします!」
早口でそう言い残してヤヨイは部屋から飛び出ていく。事務所は嵐が過ぎ去った後のように静かになった。グオーンという空調の音、散乱した紙の束、そしてマオだけが部屋に取り残される。
「忙しい人……。これ私がその日、予定あったらどうしてたんだろう」
突然、話が勝手にまとまっていつの間にか終わっていた。ビックリだ。まぁ、この研究所のトップに呼ばれたのなら仕方がないということにしておこう。
ヤヨイのこの破天荒な性格も私が受け入れているからこそ、そのままなんだろうな。
苦笑いをしながら茶色い封筒をポケットにしまい、マオも研究室へと戻った。
カイ応用脳科学心理研究所――――。
通称、Xラボ。脳科学者であるマオやヤヨイ、ユキトはここで脳科学を応用した研究を行っている。彼らは研究から生み出した技術を世界中に広めるという役割を担っているのだ。
「つまりここでは脳とAIの融合、脳や心について実験を重ねて分かったことをAIやロボットにも取り入れることができないかをみんなで考えている施設です。もし実験の結果、分かったことが増えてAIやロボットが今よりも人間を助けてくれるようになればQOLの向上……えーっと………、生活の質がぐんっと上がって生きやすい世の中になるはずです。って言って分かったかな?」
「はーい、先生しつもん!」
その場で話を聞いていた何十人かのうちの1人の中学生が元気よく手を挙げた。
「はい、なんでしょう?」
今日は中学生たちの社会科見学の日。1日講師役を務めるマオは笑顔で質問に答えようとする。
「生きやすい世の中って何? 世の中ビンボーだし、いい事ないし全然生きやすくないって母ちゃん言ってたよ」
マオの笑顔が引き攣り始めた。まだ15にも満たない子供の口からそんな言葉が出て来るとは。正直言って反応に困る。
「うーん……。それは私にも分かりません。ただ脳科学者として言うのであれば、例えば五体不満足の方が自分の意思で動かせる手や足があったらとても便利になるし、それをAIロボットが担うことでより細かい作業もできるようになると思います。あと、キッチンにAIを搭載して脳と連動させれば自分が作りたいとイメージしたものをキッチンでAIがお料理してくれたりとか……どう、便利でしょ?」
「んー、難しくてよくわかんないや! でもそういうのって高いだろうしウチでは間違いなくいらないって言われると思う!」
ウチも!!という声の後に続き、一斉に笑い声が中学生たちから聞こえてくる。
生徒たちは途端に賑やかになった。
担任の先生はその様子をオロオロしながら黙って見ている。
全く。これだから中学生ときたら……。
すぐはしゃいでうるさくなる。
黙って見ているわけにもいかず、マオは大きな声で次の質問を促した。
「そうね、ちょっと難しかったね。はい、じゃあ次の質問は?」
私が先生まがいな事をするなんて柄にも無い。
マオは自分を講師に推薦した所長を、後でボコボコにしてやろうと企む。
「はぁい」
ニヤニヤした中学生が賑やかな様子に触発されたのか、とんでもない質問を投げかけてきた。
「先生ってカレシとかいるの?」
「えっと……それは、今の時間と関係あることかな? はい、次の質問は?」
咄嗟に動揺を隠そうとして話を逸らしたが、そういうことに敏感な年頃の中学生が逃してくれるわけがなかった。
本人たちはヒソヒソ話しているつもりだろうが、雰囲気いなさそうだの、怖そうだの、服がダサいだの色々な言葉がマオに思い切り聞こえてくる。
挙げ句の果てには近くにいた女子中学生と目が合うとクスクスと笑われる始末。
あぁ、情けない………。
穴があったら入りたいくらいだ。
生徒たちは収集がつかないくらいに騒ぎ始めていたが、担任の先生は相変わらずオロオロするばかりで誰からも助け船は出てこないように思えた。
その時、利発そうな男の子が
「質問、いいですか?」 と手を挙げてマオをまっすぐ見たのだ。
これは事態を収集するチャンスと見て「どうぞ」 と促すと男の子は、冷静にハキハキと喋り始める。
とてもそんな雰囲気ではなかったのだが、もしかするとこの子はあの賑やかな猿山のボスなのかもしれない。それくらい妙な貫禄があった。
だって男の子が話し始めたのを聞いた他の生徒は一瞬にしてそちらの方へ耳を傾け、静かになるのだから。
「先生は脳とAIがつながることで人間が人間じゃなくなってしまう日が来ると思いますか? 便利になったら……いや、 便利になりすぎたら、人はただのロボットみたいになって自分が考えて行動してるのか、AIの考えで自分が動かされているのか分からなくなっちゃいそうです。もしそうなったら……それは人って呼べる存在なんでしょうか?」
流石にその質問は中学生が考えたもんじゃないだろう!とツッコミたいところだったが、それはマオ自身も同じくずっと考えていたことだった。
それだけにまだ見つけていない答えを今、必死に探してもすぐには出てこない。
一難去ってまた一難とはこの事だ。
ここで答えをはぐらかすようなことをすれば、この男の子にはすぐ見透かされてガッカリされてしまいそう。かと言ってこのまま私が何も言わずに黙っていても、周りの生徒が黙ってはいないだろう。
そんなのはごめんだ。
とにかく何か言わなければいけない。
その思いでマオは平然を装い、言葉を慎重に選んで繋げてゆく。
「うーん……。難しい質問だなぁ。このクラスは随分と個性派な人が多いんですね。そうやって興味を持つことはとても大切なことだと思います。何かに興味を持ってとことん学び、知りたいことを知っていることに変えていくこと。それができる人がこの答えにいつか辿り着けると、私は信じています。実は私もまだその答えには辿り着けていません。だから答えはいつかやって来る未来に預けておきたいと思います。では先生、そろそろお時間ですので今日はこのぐらいで……」
マオは担任の先生の方を向き、やんわりと退室を勧める。
担任の先生は始め、ボーっとして立ったまま動かなかったがしばらくしてあぁ、と思い出したように生徒に声をかけた。
読んでくださりありがとうございました。
また次回の更新もよろしくお願いします♪
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