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第135話 曇天

こんにちは^ ^

また投稿させていただきました。


暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪

よろしくお願いします!!


 あれだけ芽衣の血を触ったというのに、私は陰性だったらしい。


 しかし『入院』という名目で病院に隔離された私。医者は喜美維吹の検査結果に首を傾げていた。


 勿論、私も不思議だった。

 芽衣と同じ空気を吸ってどうして私だけが感染していない? 


 未だに分からない。

 まるで神の気まぐれに振り回されてしまったかのようだ。

 

 それから幾度にも渡る検査結果でようやく陰性が認められ、私が()()に『退院』できたのはさらにその数日後となる。

 

 『退院』まで『病室』と呼ばれる実験室のような、大きなガラス壁のある部屋でひたすら天井を見つめるだけの毎日。


 それは『病室』という名の隔離室。


 ガラス壁を隔てた隣の隔離室には芽衣が眠っていた。

 

 彼女はずっとベッドに横たわったままだ。

 包丁が刺さっていた血塗れの腕はきちんと手当がされたようで包帯が巻かれている。


 芽衣は重症であれから意識が戻らない。

 このままだといつ呼吸が止まってもおかしくはない状態だった。


 もはや治療は人工呼吸器と本人の免疫に頼るしか方法がないのだと医者は言う。


 人工呼吸器が必要な人間は世界中に大勢いた。

 だからこそ芽衣の状態が危うくなった時、台数の少ない呼吸器を使えるかどうかは約束されていないのだ。


 ガラス壁一枚隔てて芽衣の身を案じながら人工呼吸器が届くのを祈り、ひたすら黙って待つだけの私。


 これは見殺しも同然ではないか?

 悪魔だ……。


 芽衣の言う通り、私は悪魔なのかもしれない。


 弱っていた芽衣の状態にも気が付かず、開催されるかも分からない機会万博に魂を売り悪魔となった。


 そう考えると酷く滑稽に思えた。


 


 ――――ある日。

 味の薄い食事を食べ終えた私に良い知らせが届く。


 「喜美さん、先程連絡があって人工呼吸器が確保できたそうです」


 「本当ですか! ならすぐに芽衣の治療を!?」


 「人工呼吸器を芽衣さんの部屋に準備しておくよう先生に言われました。症状の度合いからして芽衣さんが一番優先されるべきと判断したみたいです。これでひと安心ですね」


 食器を片付けに来た看護師が、防護服越しに笑ったのが分かった。


 「あぁ……、ありがとうございます」


 私は心の底から安堵したのだ。

 芽衣が助かるかもしれない、そんな淡い希望を抱いてーーーー。



 ほどなくして芽衣のいる部屋には大きな機械が運び込まれた。


 防護服を着た看護師が数名、手際良く準備を始めている。


 人工呼吸器だ。

 機械から伸びるホース、その先に取り付けられたマスクが芽衣の口元に当てられた。


 あぁ良かった、本当に。

 これで……芽衣は救われるのだ。


 後は彼女の免疫がウイルスに打ち勝ってくれれば……。


 そう思った矢先だった。


 芽衣の部屋に医者が入ってきたことで事態は急変した。


 医者は看護師たちに何か指示を出し、それを聞いた看護師たちは一瞬、手が止まる。


 ガラスを通してその様子を見ることができても何を話しているのかまでは分からない。


 やがて彼らは動き出した。

 そしてあろうことか芽衣の口元からマスクを外して人工呼吸器を片付け始めたのだ。


 顔からサァと血の気が引く。

 彼らはこの人工呼吸器を芽衣の部屋からどこかへ移動させるつもりだ。


 私はまた……、またそれを、黙って見ていることしかできないのか。

 

 気がつくとガラス壁を拳で叩き、私は声の限り叫んでいた。


 「待ってくれっ!! 芽衣から……芽衣から呼吸器を奪わないでくれ!!」


 この声が聞こえていたのかは分からない。

 

 だが医者は私と目が合うと気まずそうにその目を背け、芽衣の部屋を出て行った。


 覚えている、はっきりと。

 


 「申し訳ありません。急患が出たんです。芽衣さんより症状がひどく、すぐにでも人工呼吸器が必要な方でした。芽衣さんはまだ自発呼吸が出来ています。どうかご理解ください」


 医者の口からそう聞かされたのは翌日のこと。


 優先されるべきは芽衣ではなかったのか。

 やり切れない想いを抱えた私は、喉元まで出かかったその言葉をそっと飲み込んだ。

 

 だがその日の夜に、芽衣の容体は急変する。


 あっという間の出来事だった。


 隣の隔離室には大勢の看護師が出入りし、私は何が起こっているかも聞かされないままガラス越しから芽衣の死を看取ったのだ。


 身体をピクリとも動かさず、うめき声をあげていた様子もない。とても静かな最期だった。



 「芽衣さんの件は非常に残念です。エストの治療方法はまだ確立されていません。喜美さん、お力及ばず申し訳ありませんでした」


 忘れない、私は。

 医者が放ったその言葉を。


 芽衣は身体中をエストに侵され、呼吸が止まって死に至った。


 人工呼吸器を使うことさえできていれば助かったかもしれない。


 芽衣の死後、厄介払いをされるように『退院』を言い渡され、私は隔離室を後にする。

 


 とうとう私はひとりになった。

 もう隣には誰もいない。

 

 さぞ苦しかっただろう。

 あの電話で一瞬、正気に戻った芽衣は私に帰ってくるなと言った。


 おそらくエストに侵された自分から私を遠ざけようとしてくれたのだ。


 芽衣の優しさに胸が抉られるような痛みを覚える。



 そうして病院の前で抜け殻のように突っ立っていた私。


 裏口から外へ出てきた男ふたりが私にぶつかりそうになり、慌てて避けた。


 振り向きざま邪魔だと言わんばかりの冷たい視線を投げかけてきた男は、大声でもうひとりに話しかけるのだ。

 

 「いやぁ良かったですね、先生。この病院は金さえ払えば多少無理を言ってもちゃんと聞いてくれるんですから。軽症のうちから高い薬も、人工呼吸器も使い放題ってね。全く脅威の回復力ですよ。エストなんて目じゃあない!」

 

 下品に笑う男の声がいやに耳に付いた。


いつも読んでいただきありがとうございます!!


曇天、曇り空。

所長室で雨の音を聞いて夢を見る今の喜美。

過去の喜美が段々とその状態に近づいてきている様子を表してみました笑


初めの一粒を降らせた出会いが今ここに!


また続きを書いてきます!!


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