第133話 病める時も、健やかなる時も
こんばんは^ ^
また投稿させていただきました!
引き続き、喜美所長の脳内を覗きに来ていただけたら嬉しいです笑
――――機械万博の準備もいよいよ大詰めとなった頃、嫌なニュースが研究員たちの耳に届いた。
「おい、聞いたか? ついにエストが国内でも出たそうだ。それも一度に、かなりの数」
「みたいだな。万博の関係者も発症したって噂があるらしいけど……本当なのか?」
「分からない。最近テレビも同じことしか言わないし。でも感染力の強いウイルスだから、もう国中に広まっててもおかしくはないだろう」
「それじゃあ……機械万博はどうなるのかしら?」
休憩室に集まった研究員たちが、険しい顔で見つめる先に1台のテレビがある。
ただ粛々と、情報を伝えるアナウンサー。
チャンネルをいくら変えても、変えても……。
変えても……似たような話を辛気臭い面持ちで延々と語る番組ばかり。
どの局もエストの話題でもちきりだった。
『繰り返します。現在国内での感染者数は約一万人にのぼりました。隣国でも感染者が増えているとのことですが、詳しい情報はまだ入ってきておりません。今後も感染者数は大幅に増える見通しです。少しでも感染のリスクを減らすために不要不急の外出は避け、徹底した手指消毒を行ってください』
ここへ来て、機械万博の開催はもはや絶望的なものとなった。
仕方のないことだろう。
神はいつだって気まぐれだ。
どれだけ自分が頑張ったところで運に見放されてしまえば、全てが台無しになることだってあるのだから。
喜美維吹は今日もまた弁当を広げようとしてはたと気づく。
今日は弁当がない。
昨晩、芽衣と喧嘩をしてしまったから……。
芽衣は寝ずに喜美維吹の帰宅を待っていたかと思えば、唐突にこんなことを言い出したのだ。
「維吹さん、もう機械万博は諦めて。万博の開催地は今、大勢の人たちが準備で集まっている。そこであなたがエストに感染したらと思うと……私、怖いの」
分かっていた。充分に分かっていた。
芽衣が私を気にかけてくれていたことも、私が芽衣を不安にさせていることも。
でも諦めきれなかった。
毎日が寝不足で、身体の節々が痛くてとても重かった。だがそうまでしても諦めきれなかったのだ。
機械万博に訪れた人たちへ脳科学の素晴らしさを伝えたい、そして芽衣やたくさんの人をあの場で喜ばせてやりたいという夢を!
これは研究者としての性だったのか。
あの時、芽衣はそれも承知の上で気持ちを伝えてくれたのに。
言い合いになった結果、私は彼女の気持ちを無視してしまった。
だからのうのうとこの場に居るのだ。
彼女の気持ちが形となった弁当を、私が持っていないのは当然だろう?
「あ、いた! 良かった! 喜美くん、ちょっといいかい?」
「えっと、どうしましたか? 所長」
諦めて少し距離のあるコンビニまで弁当を買いに行こうとした矢先、例の所長が喜美維吹に声をかけてきた。
「今ね君の奥さんがいらしてるよ。忘れ物を届けに来たって言ってるけど……」
「芽衣が……!?」
所長の一言を聞いた途端、喜美維吹は慌てて席を立ち芽衣が待つ一室へと走る。
機械万博開催に向けて建てられたこの『万博ホール』、当初は私の作品もここへ展示される予定だった。
しかしエストが国外で流行し始めた頃、万博の運営関係者から企画の変更指示が出されたそうだ。
『感染症対策の為、作品は万博ホールではなく屋外に展示する』
こうして何億もの大金をかけ作られた万博ホールが無駄となった。
いや、無駄とまでは言わない。
私たち研究員が万博に向けて準備をするために使っていたのだから。
それにここは……芽衣と私が最期に言葉を交わした大切な場所だ。
会議室とも呼べそうな小部屋を開けると、芽衣は椅子にちょこんと腰掛けたまま入ってきた青年を睨む。
「維吹さん。これ、忘れ物よ」
彼女がそう言って鞄の中から取り出し、トンと机に置いたのは見慣れた包みに入っている弁当だった。
「芽衣……! どうしてわざわざここに来た!? 危ないだろう。マスクは?」
喜美維吹はすぐさま白衣のポケットから新品のマスクを引っ張り出して芽衣に手渡す。
芽衣はそれを受け取ると立ち上がり、静かに喜美維吹を抱きしめた。
「危ないのはあなただって同じ。維吹さんの覚悟はもう……分かってるから」
優しくて温かい。
そうだ、私はずっとこの温もりを求めてきたんだ。
君の声を……もう一度側で聞きたかった。
「国内ですらこんな状況だ。おそらく万博の開催はもう期待できない」
芽衣は悔しそうな表情を浮かべる喜美維吹をそっと見つめる。
「確かに万博は開催されないのかもしれない。だけどあなたが最後まで諦めずに頑張ってるから。そうまでして夢を叶えようとしてるあなたを応援したくなったから……だから私、ここまで来たの」
「芽衣……」
「妻だもの。病める時も、健やかなる時も、危ない時も一緒。私にもあなたの夢を背負わせて。出来ることはこれくらいしかないけど」
鞄の中からもうひとつ弁当を取り出した芽衣。
その弁当がトンと机に置かれると殺風景な会議室に、ぱっと一輪の向日葵が咲いた。
「今日くらい一緒にご飯食べましょう? 昨日はごめんなさい。言い過ぎました」
「あぁ。僕も言い過ぎた……すまない」
ふたつ並べられた弁当の前に、芽衣と喜美維吹は隣り合って座る。
弁当を広げた喜美維吹は早速、箸で卵焼きを掴むと口の中へ放った。
「ははっ! いつもの卵焼きだ」
もうあの味をはっきりと思い出せない。
忘れたくなかったのに。
「そりゃそうよ。いつも通り作ったもの。今日は遅く起きちゃったけど」
「ありがとう、芽衣」
芽衣は喜美維吹へ向けて言った。
「維吹さん」
「ん?」
「応援してるから」
これが文字通り、私の知る芽衣が……。
私にかけてくれた最期の言葉となったのだ。
いつも読んでいただきありがとうございます^ ^
ブックマークや応援も大変励みになっております!!
お陰様でこの間、無事に36万字を突破したようです。
(あっという間にこんなになってしまった笑)
ハリーポッター1冊分の目安がちょうど36万字なのだとか。(因みに魔道祖師は130万字越え、天官賜福はそれ以上らしいですwwww→コアな情報)
もし本当なら1話から読んでいただいている方々は前回でちょうどハリーポッター1冊分読んだことになってしまいます!!
あぁ、本当にありがたや……(;_;)
流石にハリーポッター2冊分までは行かないかと思いますが、(いや、行くかな……!?)今しばらくお付き合いいただけたら嬉しいです笑
ではまた続きを書いてきますっ!!




