第130話 all delete 〜初期化〜
こんばんは^ ^
また投稿させて頂きました。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします♪
「テロメアさん……? どうしたの?」
呆然と立ち尽くすテロメアを気遣ってか、少女が声をかける。わなわなと唇を震わせ、テロメアは困った顔をしている少女を見つめた。
「すまない、私は問題ない。真央くんはずっと私たちを心配してくれていたんだな。あんな警告までして。喜美所長の邪魔をした研究員や、計画の被験者はみんな処理場へ送られたそうじゃないか。真央くんは自分の立場が危うくなるとは考えなかったのか?」
首を横に振る少女にテロメアの目線は泳ぐ。
「真央はそんなこと気に留めていなかった。それよりも自分が起こした行動のせいで、喜美所長の計画に巻き込まれる人がいないかをずっと気にしていたんです」
脳内で少女の言葉を反芻しながら、テロメアはその場にうずくまった。
「やっぱり分からないな、真央くんがそこまでする理由が。ヤヨイくんも同じだ。私の存在がヤヨイくんに知られてしまってから、彼女は危険を承知で調査に協力してくれた。だが、なぜあんな目にあってもまだ調査を続けようとするんだ? 分からない、私は人間の感情がよく分からない……」
「テロメアさん……」
少女はテロメアのすぐ横までやってくると背伸びをして、狼狽えるテロメアの頭をそっと撫でた。
そして目を閉じる少女。
その行動はまるで、テロメアの記憶や感情を手から読み取っているようだった。
やがて少女はテロメアに対してキッパリと言い放つのだ。
「あのね、それはあなたが甲斐所長を思うのと同じ。あなたが甲斐所長を慕うようにヤヨイちゃんも真央を慕っていた。このキーラボには今のユーゼンにない、とても素敵なものがあるんです。テロメアさんにはそれが何か分かりますか?」
テロメアが首を横に振る。
「愛ですよ。甲斐所長があなたや部下を思って行動したように、東くんが真央を想って内通者になったように、ヤヨイちゃんは真央の考え方に深く共感していた。だからこそ、それを大切にしたいと思って行動したんです」
「愛、……?」
テロメアはもう一度だけ首を横に振った。
「そうです、愛です。みんなやり方は不器用で滅茶苦茶だったかもしれない。でも人間はこうして愛を行動力に変え、形で示すことができる。この研究所には愛のある人たちが集まった。ユーゼンとは違う。きっとこのラボには、多くの人の幸せを願って研究を続ける科学者が多いのでしょうね」
暗い海底を一筋の静かな光が照らすような、そんな笑みを浮かべて少女はテロメアの頭から手を離す。
「甲斐所長は良い研究所を作りました。羨ましい。できることなら私も……このラボでずっと働きたかった」
少女の笑みは次第に淋しそうなものに変わっていった。
「愛……か。確かにここにいるのはカイ博士の研究や理念に賛同して集まった者たちだ。私はずっと、たったそれだけの関係性だと思っていた。身を挺してまで守るべきものとは少し違う気がすると思った……」
「大丈夫。あなたならいつか分かる時が来ます。私はAI。真央に私のような力はない。でも私が愛の本質を知ることは難しい。愛を学び人間を真似て表面的に行動することはできても、絶対に真央と同じにはなれない。けどあなたは違う。あなたは甲斐所長と同じく人間の脳を持って生まれた。彼と同じ生き方も、違う生き方もできる。どうかそのことを忘れないで」
テロメアの脳内に少女の声が木霊する。
何度も何度も。
「君は……、なんだか本当に真央くんに言われているような気分だ。驚いたな。前にカイ博士の論文をネットに載せたら、喜美所長が訪ねてきたんだ。真央くんの脳を半分だけ持つ、マオという子を連れて。それくらいには驚いた」
「マオ……。もしかして私をずっと抱きかかえながら走ってくれたあの子?」
少女が訊ねると、テロメアは思い出したらしくコクッと頷いた。
「ああ、確かそう言っていたな。彼女の脳は不思議でね、真央くんの脳を持っているのにハイパーサイメシアたる能力を活かしきれていない。それと脳の半分にAIが使われているせいで、君みたく負荷がかかりオーバーヒートを起こしてしまう。何より厄介なのがあのプロテクトだ」
テロメアが少女の方を向きため息をつくと、少女は首を傾げる。
「前にカイ博士があの子の脳内を調べたことがある。でも真央くんの脳にかけられたプロテクトだけは解除方法が分からなかった。あれがあの子の思考を邪魔しているのは明白だよ。君が真央を再現できると言うなら教えてくれ、あのプロテクトの解除方法を」
少しだけ間を置き、少女はポツリと呟いた。
「……テロメアさんはマオのプロテクトを解除してどうするの?」
純粋な問いかけにテロメアはこう答える。
「あの子を過去のしがらみから解き放ってあげたい。真央くんからすればあの子は誕生してはいけない存在だったと思う。だが生まれてきてしまったからには過去に縛られることなく『マオ』という人間として、これからもずっと生きていてほしいと思ったんだ」
「……なんだ、もう分かってるんですね」
「えっ、いま何と……?」
少女の声がよく聞こえなかったのかテロメアは聞き返した。少女はそんなテロメアをじっと見つめるのだ。
「あなたはあの子と自分を重ねている」
テロメアの眉がピクリと動く。
「そうかも、しれない。今の考えだって私の自分勝手な意見だ。あの子にとって何が最善なのか……。私は迷っている」
ふふッと微かな声を出し少女は笑った。
「それでいいんですよ、テロメアさん。だって最初に会った時よりもずっと人間らしくなってるもの」
「人間らしく? 良かった、これで私もまたカイ博士に近づけたのかな」
表情の緩むテロメアを見て、少女は柔らかな声色で語りかける。
「真央のプロテクト。実はあれ、もうとっくに解除はされているんですよ。あの子に触れていたからか、私の脳に記憶が流れ込んできました。これをAI同士の同期、と呼んで良いのかは分かりませんが」
「同期? つまり君は記憶を覗けるのか!?」
「全てではありません。さっきみたく触れている間、その人物についての記憶が断片的に……です。真央の記憶は、眠っている時に夢でぼんやり見たというのが正しいのかも。あの子はちょうど24時間前にユーゼンで真央の記憶を入れられている。その時、既に解除は成功してたんです。後はトレースバースと真央に関わる全ての記憶を取り戻せるかどうか……。それはあの子次第」
「なんということだ。まさかプロテクトを解除できる人物が真央くん以外にいたとは」
「衣織さんは努力家ですからね。私にはプロテクトの解除方法なんて検討もつかなかった。もし考えついたとしても、すぐに眠ってしまうでしょうし」
少女が肩をすくめる。
「衣織さん……。彼女もまた、真央くんの大切な人だった?」
「そう。衣織さんは優しい先輩で、大切な友人でした」
パチパチと瞬きをするテロメア。
彼は今、『愛』や『大切』という感情を理解しようとしているのだろう。
「これからテロメアさんはひとりで甲斐所長を助けに行くつもりですか?」
「そうだ。これは私とカイ博士の問題。もしカイ博士が私と同じ行動を取るとしたら、これ以上ラボのみんなを巻き込みたくないと言うだろうからな」
テロメアの返事を聞いた少女は複雑な顔をした。
「ヤヨイちゃんとユキトくんはあなたまで居なくなったら心配するはずですよ。あの子も……。もっとみんなを頼っても良いんじゃないですか?」
「ありがとう、君も心配してくれてるのか。みんなには即席で書いた研究記録だけ残して行くことにしたよ。もし私に何かあった時、あれがみんなの助けにでもなれば良い」
テロメアはそう言って優しく笑うと、先程の真似をするようにそっと少女の頭を撫でる。
「大丈夫、心配はいらないさ。私は必ずカイ博士とこのラボに戻ってくる。ユーゼンの計画を止めるために」
テロメアから伝わる温かい手の感触。
嫌がる素振りを見せることなく少女は暫くの間、目を細め心地良さそうにしていた。
「あなたはきっと、このラボの良い所長になりますね」
「ははっ! 私は所長補佐で充分だ」
苦笑いをしたテロメアは少女にそう伝えるのだった。
人の温もり、愛、大切……。
テロメアには分からないことばかり。
しかし確かにそれは存在している。
まずは理解することから始めればいい。
「テロメアさん、お願いがあるんです」
少女は真剣な眼差しでテロメアを見つめた。
「どうしたんだ、急に?」
それまで少女を撫でていた手を止め、テロメアは答える。
「真央の記憶を……組まれたプログラムごと、私の脳内から消してくれませんか?」
「記憶を?」
少女はゆっくりと頷く。
「私はAI。真央の気持ちは分からないけど、今は経験則に従ってお願いをしています。真央ならきっと……そうするだろうから。そして私もそれを望んでいます」
しばらく沈黙が続いた後、ついにテロメアが立ち上がった。
「そうか。分かった、ついてきてくれ。真央くんの記憶を消すのは……これで2度目になるな」
「よろしくお願いします」
大きな影と小さな影が所長室から消えてなくなる。
テロメアと少女は実験室へ向かったのだった。
そしてその翌日――――。
マオたちがいくら待っても、テロメアがキーラボに姿を見せることはなかった。
いつも読んで頂きありがとうございます。゜(゜´Д`゜)゜。
そして読み返していただき大変感謝です!!
テロメアの人間らしさを少しずつ出してくのが難しい……笑
この間、「テロメアはなんで記憶力がいいのか」という話題?が挙がったので小ネタコーナーを失礼しますww
●小ネタコーナー●
テロメアが記憶力結構いい方なのは真央の脳をスキャンした時、ハイパーサイメシアの脳を見たからです!
※ハイパーサイメシアは完全に解明されていませんが、右脳と左脳の成長や使い方のバランスに違いが生じて起こりうると考えられているようです。
テロメアはその脳の形や真央の記憶の仕方を毎晩こっそり研究して記憶術を身につけたのかも……しれません!!
そういうことにしておきたいと思いますwwww
今回はAIとクローンの会話でした。
AIは情報を繋げて天気予報や未来まで予測できてしまう優れもの。
そんなもの使って喜美所長はどこに行き着くのか……笑
また続きを書いていきたいと思います!!




