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第126話 自分勝手なエゴ

いつも読んでいただきありがとうございます!!

今回は真央の脳の仕組みに迫ってみました。


また暇な時に読んで頂けたら嬉しいです♪


 真っ白い部屋。家具も壁も天井も全て真っ白。

 その中で上から吊るされた照明の灯りだけが淡い黄色を放っていた。


 そういえば、ここはキーラボの実験室とよく似ている。


 部屋にはいつの間にかふたりの人物が現れる。


 カイ所長と、テロメア……?

 どちらも同じ顔で……いや、片方の顔は頬が赤く腫れ上がっている。きっとこちらがカイ所長だ。


 彼らはふたり並んで、寝台に横たわる女性を見下ろしていたのだ。


 あれは真央……? それともマオ……?


 同じ顔をしたふたりが真央(マオ)を間にして真剣な表情で口を動かしているのだが、そんなに怖い顔をして何を話しているんだろう。


 意識をふたりへ向けると声が聞こえてきた。


 「間違いない、真央くんはハイパーサイメシアだ」

 

 「ハイパー…… あぁ、超記憶症候群のことか。主に自叙伝的な記憶であれば過去の些細な出来事まで覚えていると聞く。その超人的な記憶力のせいで、経験したことをいつまでも忘れることができない」


 「空想と没頭。物事の細部までのめり込み、そして空で思い出すことを繰り返す。記憶はより確かなものとなって、次第に脳に染み付いてゆく」


 カイ所長が顔を顰めながらPCで脳スキャンの画像を確認している。その横からテロメアはおずおずと顔を覗かせた。


 「この脳の形を覚えておくといい」


 振り返ったカイ所長がため息をつき、しかしどうしたものかと呟く。


 「テロメア、この脳には脳梁(のうりょう)がない。分かるか?」


 テロメアはコクっと首を動かした。


 「分かるとも。左右の脳を繋ぐ神経の束のことだ。でもこれだと繋ぎようが無い。だってこの子の脳は半分がAIで、半分が超記憶症候群の脳だ。AIも似たようなものだが、そもそも形や作りが違う。繋げるのは厳しい」


 「そう、だいぶ分かるようになってきたな。なら何故、さっきこの子は泣き喚いて気絶したと思う?」


 カイ所長は子供を見るような目つきでテロメアを見つめている。


 「それは……、私が思うに嫌な記憶……、感情……」


 「構わない、続けてくれ」


 しどろもどろになるテロメアにカイ所長が頷いた。


 「……真央がハイパーサイメシアなら、きっと過去に体験した嫌な記憶も忘れることができずにいる。この子にその脳が引き継がれたのなら、カイ博士が殴られたことで何か嫌な記憶が蘇ったのだろうか?」


 考えながら懸命に答えるテロメア。

 カイ所長はふっと微笑むと、表情ひとつ変えぬテロメアの頭を撫でる。


 「いい読みだ。私が思うに、彼女の脳は自分のせいで誰かが傷ついたことを覚えていた。だから私が殴られた時にその記憶が蘇ったんだ。感情が昂り、AIでは処理しきれなくなったのだろう」


 突然、テロメアが寝台に横たわる真央(マオ)の額に触れつつ自身の額にも手を当てた。


 「脳が熱を持っている。これが原因で彼女は気絶したのか。だからカイ博士は嫌な記憶を取り除いて治療しようと……?」


 澄んだ瞳で真っ直ぐにカイ所長を見つめたテロメアだったが、カイ所長の顔には覇気が宿っていない。


 「治療なんて大層なものじゃ無い。彼女の脳が半分AIだったのが幸いした。こうしてオーバーヒートの原因を探るうちに分かったが、彼女は短期記憶をAIの脳で保存している。だから記憶を消すんだったら……今ならまだ間に合う」


 「記憶を消す……?」


 テロメアは再び考えた後、すぐに眉を顰める。


 「今の科学では、まだ特定の記憶だけをどうこうしようなんて無理だろう。AIならデータとして削除はできても……つまりカイ博士はAIに保存された短期記憶……、ようするに数十分前に自分が殴られたことだけを消そうとしているのか? それじゃあ根本的な解決にはなっていない」

 

 「まったくもってその通り、だな」


 カイ所長は目を瞑ると、皺の寄った眉間に手を当てて続けた。


 「これは自分のエゴだ。真央(マオ)くんにはもう辛い思いなんてして欲しくない。この脳はユーゼンで起こったことや、自分が亡くなった時の記憶まではっきりと覚えている。忘れることができないのは辛いものだ。だからこれ以上、何も思い出さない方がこの子の幸せなんじゃないかと思ってしまうんだよ」


 「カイ博士は記憶を呼び戻すきっかけとなる記憶を消そうとしている? 今後、オーバーヒートが起こる度にそれをやるのか?」


 テロメアの問いにカイ所長がそのままの姿勢で首を振る。


 「分からない……。だが、喜美所長は言った。月に2度の定期報告を行えばしばらくこちらで様子を見て良いと。私がそうすることで、少しでもこの子を辛い記憶から遠ざけることができるのなら……」


 今度はテロメアが激しく首を横に振り、カイ所長の話を遮ったのだ。


 「定期報告……。そんなもの、カイ博士が殴られてまですることなのか。ここで過ごす真央の脳に何か変化が見られたかどうかを報告するなんて……。これではユーゼンの実験に協力するようなものだ。あの子は喜美所長に引き渡そう? その方が良い」


 テロメアはそう言うと、真央(マオ)を抱えて寝台から下ろそうとする。


 「待ってくれっ!!」


 カイ所長がテロメアの腕を掴んだ。


 「君は月城先生を覚えているか? 私の恩師だ」


 その名前を聞き、テロメアの腕はピタリと止まる。


 「大木碕(おおきさき)大学の先生。それがなんだって言うんだ」


 「大学の放火騒ぎ……。あれは私のせいで起こってしまった。先生は他の生徒を庇って足を……」


 テロメアの腕からカイ所長の手が離される。

 カイ所長は離したその手をきつく握りしめ、身体を震わせて言った。


 「本当は知っていたんだ。月城先生は私を欲しがったユーゼンの研究員からずっと守ってくれていた。一度、研究室の窓から顔を見たことがある。あの研究員は……喜美所長だった!」


 声を荒げるカイ所長にテロメアは返す言葉が見つからない様子。


 マオはただ呆然とその光景を眺めている。

 もう意識のどこかで理解していたのかもしれない。


 今見ているのは……夢じゃない、これは真央の記憶の断片なのだ。


 「私が世間から非難された時だってそう、脅迫状の件だってそうだ。先生は私に何も言わなかった。ずっと黙って、守ってくれていた。ずっとひとりで……守るために戦ってくれた」


 カイ所長は殴られた頬に手を当て、込み上げてくるものを押し殺すかのような表情を浮かべた。


 「だから今度は私が守る番だ。月城先生がそうしたように、私もこの子やラボのみんなを守りたい。月城先生から受け取った優しさを、次はみんなに返していきたいんだ」


 「博士……」


 テロメアはそっと真央(マオ)を寝台の上に戻す。


 「喜美所長との取り決めのこと、ヤヨイくんには黙っておこう。ユキトくんにも……」


 「分かった、カイ博士がそう望むのなら」



 カイ所長は……自分と真央を重ねていたのだろうか。

 マオがテロメアと自分を重ねたように。


 「違う、アズマくんは私を助けようとしてくれたの! 違う、違う、ちがう、チガウッ!!」


 どこからかマオの耳にはあの時と同じ声が聞こえた。屋上から落ちた時、真央がずっと言いたがっていた言葉だ。

 

 「…………もう誰かが傷つくのを見るのは嫌。誰か……喜美所長の復讐を止めて……っ!」


 あぁ、そうだ。

 真央はずっと、自分の中にいたのだった。

 

 再びカイ所長とテロメアへ意識を集中させたマオは寝台の上で横たわる真央(マオ)の頭部に、電極が付けられている様子を目にする。



 「テロメア、今から私はこの子の記憶を消す。自分でも非道なことをしている自覚はある」


 「大丈夫、私も一緒にやる。いつまでも喜美所長の思い通りにさせてはいけない」


 テロメアは深く頷き、真央(マオ)の身体をしっかりと押さえた。



 「必ずこの実験から手を引くと約束する。そしてユーゼンが何を隠しているのか、明らかにする!」


 PCの前に座り、カイ所長は意識の無い真央(マオ)に向かってそう告げる。


 「それまでは……我慢だ。所長として、私たちがみんなを守らなければ……!」


 カイ所長の指がそっとPCのキーボードに触れると、ヴゥゥゥンという機械の唸る音が鳴り響く。



 その瞬間マオの視界は真っ黒に染まった。

 そう、文字通り何も見えなくなってしまったのだった。


 


 

〜突然ごめんなさい、脳のマメ知識〜

( ´∀`)教えて、Google先生( ´∀`)


●短期記憶って?

数分から数時間といった期間しか保持されず、その情報量はどんな人でも5~9個が限度といわれているのだそうです。


●じゃあ長期記憶って?

奴らは数時間、数日、数年分の経験値!

覚えようと意識的に努力したもの、空間、匂い、音楽などの記憶も含まれます。スポーツや料理・自転車に乗ることも長期記憶に含まれるのだとか……。


だからカイ所長は記憶が染み付いてしまう前に急いで消そうとしたのかもしれません笑


そして真央マオの頭の中は嫌な記憶を無意識のうちにAIの脳へ……。真央本体の脳を傷つけないように……。

(嫌なことは短期記憶としてさっさと忘れちゃいましょう by真央)なんてことが起こっていたのかもしれません笑


そんな空想的なことを考えたお話でしたっ!!


ではまた続きを書きにいきたいと思います♪







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