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第124話 パブロフの犬

またまた投稿させていただきます!!

ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いします♪



 「僕は元々ユーゼンの人間です。そこへ真央さんがやってきて、喜美所長から依頼されたトレースバースを易々と作ってしまった。でもそれは、作ってはいけないものだった。今になって分かる。あんなに素晴らしいものを作ったはずなのに何故、真央さんはそれを恐れ作ったことさえも後悔したのか。何故、自分の脳や命すら顧みずトレースバースを隠そうとしたのか。真央さんの最期は、自分の脳にかけたプロテクトが作用したせいで屋上から……」


 途中で口ごもったアズマは首を左右に振って続ける。


 「真央さんは何も知らないこの国の……いえ、世界中の人々を守ろうとした。なら誰がその真央(マオ)さんを守れるんだ? そんなの死に際までずっと真央さんを見てきた、僕とイオリだけだ!」


 「……真央が今まで守ってきた奴らを犠牲にしてもか?」


 ユキトがそう訊ねると、アズマは何かを言おうとして口を開ける。しかしその口はすぐに閉じられた。


 一瞬の沈黙の後、アズマは答える。


 「分かりません。でも正しいことをしたとは思っていない。マオさんを側で守る為には、あなた方の監視も必要だった。それが出来なければ、僕は実験の見届け役に選ばれてはいなかったでしょう。喜美所長にヤヨイさんとカイ所長が何かを調べていると報告をしてすぐ、ふたりはユーゼンヘ連れて行かれました。けれど翌朝、カイ所長が平然とキーラボにいたんです。これには流石に驚きましたが……」


 アズマはそう言ってテロメアを見つめた。


 「喜美所長は僕に言いました。カイ所長とヤヨイさんがどこまでユーゼンのことを知ってしまったのか、調べてこいと。テロメアはヤヨイさんの代わりに僕が見学講師をすることを許してくれましたよね? 管理センターに申請して、僕がヤヨイさんのPCにログインできるようにしてくれた」


 マオは思わず目を見開いた。

 

 『見学会講師、お引き受け致します。今日も講義内容は昨日と同じだったかと思いますが、一応ヤヨイさんのPC内のデータを参考にしてもよろしいでしょうか?』


 アズマの言葉をはっきりと覚えている。ヤヨイが行方不明だと分かってすぐのことだ。

 

 「ヤヨイさんのPCを見れば、ユーゼンのことをどこまで調べているのかが分かると思ったんです。でもそう上手くはいなかった。ヤヨイさんのPC内のフォルダを確認したけど何も見つからない。そうしているうち、管理センターのAIに『僕が見学会講師で使うものとは関係のない情報を閲覧している』と判断されましてね。そのせいかキーラボのデータを全て飛ばしてしまいました」


 「あれはあんたの仕業だったのか! そうか……。それで管理センターのセキュリティが働いたんだな。じゃなきゃあんな事は普通、起きない」


 ユキトの言葉に対し、目を伏せて謝罪を述べるアズマ。


 「申し訳ありません。キーラボの中でこんなに大事になるとは思わなかった。でも……何があっても喜美所長の命令は絶対に遂行しなければいけない。僕は次にテロメアの行動を監視する事にしたんです」


 「私の行動?」


 テロメアが表情を変えずに訊ねると、アズマはゆっくりと頷く。


 「僕はテロメアがヤヨイさんの家に行き、管理ロボットに部屋へ案内される様子を見ていた。テロメアはヤヨイさんの安否確認に行ったんですよね? その時、僕は思ったんです。ヤヨイさんの部屋に入れば、ユーゼンについて何を調べているのか分かるんじゃないかと。この機会を逃せば、喜美所長には何も分からなかったと言うしかない。それだけは避けたかった。使えないと思われ監視役はおろか、実験の見届け役まで降ろされてしまっては、彼女を守ることができなくなる。僕の頭にはもうそれしか思い浮かばなかったんです」


 「そっか。アズマくんもワタシの部屋に勝手に入ったんだもんね」


 ヤヨイのジトっとした目がアズマへ向けられる。


 「本当に申し訳ありません、ヤヨイさん。あの時の僕は……どうかしていた」


 項垂れるアズマにマオがおそるおそる訊ねた。


 「でも……アズマさんはどうやってヤヨイさんの部屋に入ったんですか。テロメアは段ボールに入れられた資料のことを知っていました。部屋からあの資料を運び出す為には、アズマさんがテロメアの後に部屋へ入らないと出来ませんよね?」


 一瞬、マオを見たアズマの表情が少しずつ歪んでゆく。


 「すみません……あなたに訊かれると……、なんだか少し堪えますね。やっぱりこんなこと……するべきじゃなかった」


 ミルクティー色の髪をかき上げ、アズマはゆっくりと息を吐き出すように答えた。


 「テロメアがヤヨイさんの住むマンションから出て行った後、コンシェルジュに声をかけたんです。『僕はあの安否確認に来た者の部下で、部屋に忘れ物をしたあの人の代わりに取りに来た。もう一度、部屋に入れてくれないか』と。僕も白衣を着ていたので、コンシェルジュは疑うことなく部屋に通してくれました。管理ロボットと一緒に」


 「私は後をつけられていたのか? 気が付かなかった」


 口をぽかんと開けたまま立ち尽くすテロメアにアズマは深々と頭を下げ、本日4度目の謝罪を行う。


 「申し訳ありませんでした。あの資料は喜美所長からの命令で全て破棄してしまったのも事実です。ですがプランAのことについてなら、サカキ部長から伺っていたので多少の内容は把握しています。今さら罪滅ぼし、というわけにもいかないとは思いますが……」

 

 アズマの独白を聞き、テロメアは眉間に皺を寄せて深いため息をついた。


 「……分かった。確か昨夜のマオくんの話だと、カイ博士はプランAルームに連れて行かれた可能性が高いと言っていたな。エヴァンディール計画やプランAについて、後で君から話を聞こう」


 「ありがとうございます」


 アズマは礼を言い、ばつが悪そうにマオ、テロメア、ヤヨイ、ユキトと順に視線を送る。


 「あの……、皆さんはどうして僕が内通者だと……?」


 「最初はカイ所長を疑った。だがカイ所長はユーゼンに捕まっていて、代わりにテロメアなんてのが俺たちの前に現れた。俺はテロメアのことも疑ってたんだがな、資料を持ち去ったお前を管理ロボットがしっかり見ていたそうだ」


 それまで黙って話を聞いていたユキトが、アズマの問いにぶっきらぼうに答えた。


 「なぜ管理ロボットの映像をあなたが……」


 そこまで言いかけて、すぐ思い出したようにアズマの目が大きく開かれる。


 「あぁ、あの情報屋……。屋上で僕を撃つ直前、管理会社のデータは全て消したって言っていたのに。あなたに話していたのか。ちゃっかりしてますね、彼」


 「お前はヤヨイの部屋を出る時、電気を消して出て行っただろう。俺にはそれが引っかかっていた。段ボールに入った資料を持ち去ったのはどちらか。電気を消して出て行ったのは……テロメアか、その後に入って来た内通者か。この2択しかあり得ないからな。それがきっかけで、管理ロボットの映像を確認しようと考えたんだ」


 「そうでしたか。そしてあなたは情報屋を頼って知った。管理ロボットが誰をその目に映していたのか」


 「それだけじゃない」


 ユキトは胸ポケットからタバコを取り出し、火をつける。


 「テロメアはこだわりが強くてな。こうであるべきだと思ったらその通りに動かないと気が済まない、一種の強迫観念のようなものを感じた。だがコイツには高い記憶能力がある。グラム数やデシベル、数字に関することには特にな。そんな奴が『そのまま部屋を出たような気もする』と言ったんだ。コイツなら例え気が動転していたとしても、電気を消したかそのまま部屋を出たかくらいの記憶なら頭の片隅に残してる。だから俺は、コイツの脳を信じることにした」


 吐き出した煙を目で追うように、ユキトは天を仰いだ。


 「だがあの時……、管理ロボットの映像を見る前にふと思ったんだ。テロメアが内通者ではないのなら、考えられるのはアズマしかいないんじゃないかとな」


 「どうしてそう思ったんです?」


 アズマは意外そうな顔をしてユキトに訊ねた。


 「どうしてってお前、やたらとこいつに執着していただろう」


 ユキトはちらりとマオを見る。


 「こいつは真央としてキーラボに来た。でも俺だって、こいつが本当に真央なのか疑ったことはある。アズマはここへ来てからずっと、毎日こいつを気にかけていたじゃないか。こいつに何かある度に俺に突っかかって来たり、初めから真央の知り合いだったのに初対面のフリまでして」


 「実際、マオさんとは初対面でしたから」


 ユキトに口をつけられたタバコの火が赤く灯る。

 その火をぼうっと見つめているアズマは、どこか遠い場所へ思いを馳せているようだ。


 「こいつが真央ではないと分かった時、お前が何かこの一件に関わっている可能性も考えた。俺の頭の中では真央(マオ)のことを考えれば考えるほど、お前の姿が連想されるようになったんだ。真央はキーラボで契約を終えた後、いくつかの研究所を転々としてユーゼンへ行ったと聞いている。ユーゼン、内通者、真央、アズマ……ほらな。まるで思考の条件反射、パブロフの犬だ」


 「パブロフの犬、ですか」


 そう言って微笑を浮かべるアズマの眉毛は八の字に下がり、困り眉のようになっている。


 パブロフの犬。

 条件反射の実験のひとつだ。


 ベルを鳴らしてから犬に餌を与える。これを繰り返すと、ベルを鳴らすだけで犬がよだれを垂らすようになる。


 ユキトが言いたいのはおそらく、自分とアズマが一緒にいるところを繰り返し見たことで、真央に関する情報を思い浮かべればアズマが出てくるようになってしまった。そういうことなのだろう。


 やはりユキトも真央のことを知っていたのだと、マオは改めて痛感させられる。


 「ヤヨイが変なことに首を突っ込んでいるのは俺も薄々勘付いていた。まぁ、首を突っ込んでくれたお陰でこいつが真央ではないと分かったんだが」


 不満を言いたそうな顔で、ユキトはヤヨイを睨んだ。


 「まさかこの一件がここまで根の深いものだったとは考えもしなかったぞ。何故すぐに相談しなかった? 知っていたら俺は即、お前を止めていた」


 ヤヨイは肩をすくめる。


 「止められると思ったから言わなかったのよ。結局、ワタシひとりじゃ無理だったけどさ」


 「でもこれをアズマさんが? 本当に全部ひとりで? キーラボのデータが飛んで私とユキトさんが管理センターに入ることになったのも、テロメアをつけてヤヨイさんの部屋から資料を持ち去ったのも全部……、私……真央を守るためにしたことだった…………」

 

 動揺しているマオを見たアズマの顔に、後ろ暗い影が浮かぶ。

 

 「ええ。全て僕がやりました」


 アズマは目を閉じると、静かに自分の拳を握りしめるのだった。



いつも読んで頂きありがとうございます^ ^


条件反射の実験、パブロフの犬は生理学者イワン・パブロフさんが名付け親らしいです笑


レモンを食べていないのに思い出しただけで口の中が酸っぱくなるのも条件反射のひとつなのだとか。


人間の思考は条件反射の連続なのかもしれませんね(ノД`)


切りどころが分からず……長々と申し訳ありません。

(アズマと共に謝罪wwww)


ではまた続きを書きにいってきます!!



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