第117話 貴女ひとりに捧げるソワレ
おはようございます^ ^
寝坊しましたがなんとか出勤前に投稿させて頂きました。
また暇な時に読んで頂けると嬉しいです♪
『さて、そろそろこの茶番も大団円といこうじゃないか!』
クリオネが突然、楽しそうな声で続ける。
『警備ロボットは全部で20体。そのうち1体は階段で撒かれて、15体はキミたちの動きを読んだオレがサカキサンゆかりのある商品開発室で待機させてた。簡単な算数だね、残りはあと何体になったと思う?』
「えぇと4体、ですけど……」
マオが普通に答えたのがそんなに面白かったのか、クリオネはまたゲラゲラと笑い出した。
『いいね! やっぱりオレ、マオちゃんのこと嫌いじゃない。素直だし誰かさんと違って扱いやすくてさ』
扱いやすい……か。クリオネは自分を褒めてくれているのか、貶しているのか本当によく分からない。
「サカキさんゆかりのあるって……?」
マオは若干、不満気な顔でスピーカーを睨んだ。
『ふふっ。サカキのことが知りたいなら、後ろでキミと同じ顔してるアズマクンに聞いてみるといい』
どうやらクリオネには自分たちの動きや、表情までもが手に取るように分かるらしい。全くこの人は、何処からどうやって覗いているのだろう。
クリオネの手によって抜け目なく敷かれたレールの上を歩いている気分になり、マオの背には急に寒気が走る。
「もういい、付き合っちゃいられない。早く行くぞ!」
ユキトは不快そうに踵を返し、階段の方へと向かって歩いた。
「ちょっとユキト、階段にはまだ警備ロボットがいるんじゃない!? 戻ったらまた追いかけられちゃう!」
ヤヨイがユキトを引き止めようとするが、ユキトは鼻で笑って構わず進み続ける。
「もう追跡対象者は捕まったことになってるだろう。今さらあのロボットがどうやって動くっていうんだ?」
「それはそうなんだけど……!」
不安そうな声を出すヤヨイ。
クリオネはさらにその不安を煽るような真似をする。
『ふぅん。行くの? まぁ、いいや。キミたちが何処で何してようがオレには分かっちゃうし。せいぜい気をつけて帰りなよ』
――――含み笑いが反響する警備室。マイク越しにマオたちへそう言い残したクリオネは、深く息を吐いた。
室内の椅子には警備員が数人座っている。しかしクリオネ以外はずっと机に突っ伏したまま、安らかな寝息を立ててピクリとも動かない。机には紙コップに入ったコーヒーが人数分、並べられていた。
「しっかし本当によく効くなぁ、この睡眠薬」
呑気にひとりごとを呟き、PCが置かれた机に両足を投げ出すクリオネ。彼は天井を眺めながら椅子にだらしなく腰掛けふんぞり返っている。
もう準備は整った。
喜美を篭絡させること、ヤヨイの救出、ユキトへの嫌がらせ、ユーゼンのシステムの乗っ取り。これら全てを一度に片付けることができたのだから、儲けものだ。
遊びも兼ねた潜入が功を奏した、とでも思っておこう。
『エヴァンディール計画を止める』
せっかくこうして舞い込んできた大きな依頼だ。
ゲームメイクは決して楽ではないが後はあのUSBを世に出すタイミングさえ間違えなければ、この依頼は必ず成功する。
クリオネはそう確信していた。
依頼が成功すれば……センセイに、師匠に褒めてもらえるだろうか。
よくやったと。そうすればまた、自分の元へ帰ってきてくれるだろうか。
いいや、そんなことは万に一つも無い。
クリオネはひとり苦笑いを浮かべた。
きっと師匠は今、この瞬間も何処かで自分を見ている。
国の根幹を揺るがすような依頼に関わっているのだから、いい加減何かしらの連絡をくれてもいいだろうに。
あぁ、もういっそのこと褒めて貰えなくたって構わない。
ほんの少しでもいい。どうにかしてあの人を振り向かせたい。自分の手でそのくらいの刺激は与えてやりたい。
「そうだ、どうせ気を引くならもっと派手にやろう。それがいいっ!」
警備室のモニターに映るマオたちを見て、クリオネは悪戯っぽく笑っていた。
「ねぇ、ユキト。クリオネはこれ以上何もしてこないと思う? ワタシたちを追ってた警備ロボットは16体、ちゃんと数えてみたの。でもあの話だと、まだクリオネが動かしていない警備ロボットが4体は残ってるってことだよね」
ようやく1階の出入り口まで辿り着いたマオたち。
ヤヨイはクリオネが残した意味深な言葉について考えているらしい。
確かにここまで来る途中、警備ロボットに追いかけられることは無かったし、脱出を妨害されることも無かった。
地下2階の階段で撒いた警備ロボットもいつの間にか姿を消していたのだ。
なんだか先程とは様子が違う、静かすぎる。
それはもうクリオネの気が済んだからなのか?
彼は自分たちを驚かせるだけのつもりだったのか。
マオがそう考えていると、ユキトは眉間に皺を寄せ、少し疲れたような声を出す。
「どうだかな。そんなことを言ってまた俺たちを惑わせようとしてるのかもしれない」
「ワタシ……疲れちゃった。ここへ来てから牢屋に入ることになるし、手錠はかけられるし、挙げ句の果てには警備ロボットに追われて……これじゃあホントの犯人みたいじゃない! 何も悪いことしてないのにさ」
口をへの字に曲げてぶうたれるヤヨイにユキトがため息をついた。
「俺だって疲れた。碌に寝てないんだ」
微笑ましいヤヨイとユキトのやり取りを聞きつつ、出入り口から外へ出たマオ。
後からふたりとアズマが続く。
空が、黒い。
上を見上げると、屋上で見た綺麗な月が厚い雲にすっぽりと覆われている。腕時計に目をやれば、日付は気が付かないうちにもうとっくに変わっていて……。ほんの少し地下にいただけなのに、ここがどこか知らない場所のように感じられた。
浦島太郎状態。
マオの頭にはそんな言葉が浮かんでくる。
「でもヤヨイさん、ユキトさん。もう少しの辛抱じゃないですか。確かここで車が待ってるって言ってましたよね? これでやっとキーラボに戻れますよ!」
マオがふたりを励ますと鼻で笑ったユキト。
「ならその車には警備ロボットが仕込まれてるに違いない。わざわざそんなものに乗って帰らなくたっていいだろう」
「ええぇぇ、嫌よ。この汚いカッコで街の中歩いたら恥ずかしいし、早く帰ってお風呂にも入りたいし」
「こんな時に贅沢言うなよ……」
ヤヨイをチラリと見たユキトが冷ややかに答えた。
「あ、それ。私も思いました。もう走りすぎて足も動きませんし、それに腕もそろそろ限界です」
「まったく、お前らふたりして何を言い出すんだ……」
またため息をつくユキトと、今までずっと離さず抱きかかえていた少女をマオは交互に見つめる。
あれだけの大きなサイレンの音に晒されて、走った振動でかなり揺さぶられていたはずの少女はまだ目を覚まさないのだ。
心配そうな顔をするマオの横で、ユキトがボソッと呟く。
「心配ない。帰ったらテロメアに診てもらえばいい。あいつだってカイ所長の知識を少しくらいは受け継いでいるだろう」
腕が限界だと聞いてかマオから少女を取り上げるとユキトは自分の腕の中に少女を抱え、辺りを見渡した。
「クリオネのせいで時間を喰ってしまったが、まだその車とやらは何処かで待機しているのか?」
「あっ、見て。あれじゃない? あの赤い車!」
ヤヨイが嬉しそうに指を差した先。
ユーゼンの出入り口から少し離れた場所に停まっていたのはピカピカに磨かれた真っ赤なワゴン車だ。
「そんな訳ないだろう! いくら何でも目立ち過ぎてる!!」
ユキトが品定めするような目をワゴン車に向けていると、運転席の窓がガタガタと音を立てて開いた。
「あれぇ? もしかしてあんた、この間のあんちゃんか!?」
窓からひょこっと顔を出した角刈りの男性はユキトの顔を見て、そう大声で叫ぶのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます^ ^
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本当に励みになりますっ(´;Д;`)
クリオネにハッキングされて深い部分での行動原理をタイトルにしてしまった……。
彼が充分、暴れ楽しんでくれたようなのでここから先は私のターンですっ!!笑
よしクリオネ、後のことは全部終わってからにしてくれよwwww
ではまた続きを書いてきます!




