第114話 精神病質
こんばんは^ ^
今日も投稿させていただきました!
また暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
よろしくお願いします!!
「ひとつ教えてあげる。本当に相手を倒したいのなら顔面ばかり狙ってちゃ倒れないよ」
クリオネが次の一撃をユキトの顎へ、右の脇腹へと連続で叩き込む。
「こういうところとか、こんなところも狙わないとね」
そんなことは百も承知だ。
だがこれ以上、蹴られた足に負担はかけたくない。
ユキトは自分に飛んでくる拳をよく見極め、当たるタイミングに合わせ手のひらでしっかりと受け止めて、流す。
「ふん、分かりきった打撃だな。そんなものは必ず防がれる。その時点でお前は無駄な動きをしたことになる。違うか?」
繰り出した拳を全て捌かれたというのに、クリオネはやはり楽しげに笑ったままだ。
「さぁどうかな。相手のジリ貧を待って、脆くなっていった所からぐちゃぐちゃに壊していくなんて手もある。ふふっ。まるでハッキングみたいだよね!」
クリオネが飛び上がる。
今度は空中から頭部を狙ってくるつもりだ。
ユキトは咄嗟に足を庇いながら後ろへ下がり、腕を頭の横にかまえた。
ところがクリオネはそのまま床に着地した。
ユキトの考えていたタイミングからは一拍遅れ、しかも正面、太ももに強烈な膝蹴りが入ったのだ。
「う、ぐぅっ……!」
立っていられずに膝をついてしまうユキト。
「どう? 同じ足を2回も蹴られた気分は」
「……っ、良いわけないだろう」
「ほら、立てよ。キミのヤヨイサンにカッコいいとこ見せたいんじゃないの?」
完全に読み違えてしまった。これは予測できなかった。
熱を持ち、赤く腫れ上がっているであろうユキトの足はそろそろ限界を迎えている。
少し離れた場所からこちらを心配そうに見つめてくるヤヨイ。
『大丈夫だ。全員、今のうちに逃げろ』
ユキトはそう念じながらヤヨイヘ視線を送る。
「しかし俺も歳だな。こんなに無茶したのは学生の時以来か。お前に付き合ってたら足も痛くなるし疲れる。いつも散々な目に遭うのは決まって俺の方だ」
足を崩して、ユキトはその場にドカッと座り込む。
もう動く気配はなさそうだ。
それを見たクリオネが不満気な様子でユキトに物申した。
「は、もう終わり!? 楽しいのはこれからだってのに?」
ユキトはため息をつく。
「まともにやり合ったら俺が敵いそうにないからな。お前もここでずっと遊んでる時間はないだろう。だから止める。合理的な判断だと思うが?」
「いやいやいや。いや、なにそれ。ちゃんと真面目にやってくれないと困るよ。ここの監視カメラは誰が見てるのか分かったもんじゃないんだからさ。このままだと何故かユキトくんが床に座り込んでるっていう変な映像が残っちゃうじゃん」
「それはお前がなんとかしろ。喜美が言ったんだろう。手の空いていない生天目の代わりに、お前がこいつを解体してこいと」
ユキトはクッと顎でマオを指す。
『このままだとマオさんが生天目に解体される!』
このフロアへ来る道中、アズマがそう言っていた。
今ユキトの脳内は散らばった情報をもとに、クリオネという人間の、行動原理の推測が止められずにいる。
「あぁそうさ。だから困ってるんでしょ。リアルタイムの映像からアズマクンだけ消したりとか、音声だけ誤魔化すとかならすぐに出来たけど……ぶっちゃけこれからユキトくんの映像まですり替えるの、ちょーダルいんだよねぇ」
クリオネはたいして困っていなさそうな声で、面倒くさいと呟きユキトを睨んだ。
間違いない。クリオネの言う『茶番に付き合え』とは、こういうことなのだ。
ユキトはこの言葉を聞いた時、クリオネが自分たちを逃そうとしているのだと分かった。
そもそもクリオネがここへ来なければこんな喧嘩紛いなこと、する必要は無かったのだ。
単純そうに見えるのに本質は複雑で捻くれていて、恐ろしいくらいにまどろっこしい。
言葉を借りれば『奴のことを考えて行動している俺の方がちょーダルいし面倒くさい』と思わずにはいられない。
そんなクリオネにユキトは若干の恨み顔を向ける。
こいつは喜美の依頼でここに来て、そうして俺たちの脱出に居合わせてしまった。そうなったのは仕方がない。だからこうして監視カメラに映る不都合を排除したがっているのだろう。
撃たれて屋上で死んだはずのアズマ。
喜美の依頼に背き、この脱出を止めることもなくただ見送る情報屋の自分。
それらは全てクリオネにとって都合が悪い。
実は喜美の依頼を忠実にこなしてはいませんでした、などと絶対に気づかれてはいけない。
せっかく俺たちを裏切ったフリをし、喜美に取り入ろうと完璧な情報屋を演じている最中なのだろうから。
何の目的があってそんなことを……?
おそらくこれがクリオネにとって最も刺激的で面白い選択だからだ。きっとそこへ至るまでの過程も、彼にとってはとてつもない快楽そのものに繋がるのだとユキトは考えた。
「あ、忘れてたよ。ヤヨイサンの手錠の鍵! あれさ、さっきすれ違った生天目のポケットからスッたんだよね。後で戻しておくから返してくれない?」
クリオネが手のひらを突き出して渡すように促してきたので、ユキトはため息をつきながら先程使った鍵を放り投げる。
「スッたか。足癖だけでなく手癖まで悪いんだな、お前は」
「うわぁ、酷いこと言う。あの後オレがシノミヤさんにお願いしてなければ、ユキトくんはあの手錠の鎖を手で引きちぎるはめになってたよ。オレに感謝してほしいぐらいだ」
「……なら今度キーラボに来い。お前みたいに脳のイカれた奴なら大歓迎だ。最近はそういう研究が俺の専門分野だしな。頭の中を隅々まで調べてやることぐらいならできるぞ」
ユキトの言葉にクリオネは思わず吹き出した。
「あはっ、あっはははは!! それも楽しそうだ。ねぇ、オレってそんなにイカれてる? まさか脳科学者からそんなこと言われるなんて光栄だね!」
「そりゃどうも」
興奮し上擦った声を出すクリオネへ、ユキトは適当に相槌を返してよろよろと立ち上がった。
「じゃあそろそろ整合性を取らないと」
クリオネは目を細めてユキトを見る。
「整合性?」
「そう、整合性だ。例えばこんな筋書きはどうかな。オレが喜美の依頼通りマオちゃんを解体しに向かったら、偶然にもユキトくんが全員を助けていた。オレは何も知らずにその場に居合わせてしまう。ユキトくんが先に掴みかかってきたからオレが応戦して無事、足止めに成功」
ユキトは鼻で笑う。
「随分と嘘が上手いな」
「こういうことには慣れてるからね。で、ここからが重要だ」
クリオネはニヤッと笑ってユキトにこう告げた。
「キミたちはここを離れたい、オレはそれを止めなきゃいけない。両者がぶつかり合った結果、ユキトくんがオレを殴って失神させた。その隙にみぃんなこの場から立ち去った。ねっ、いい筋書きでしょ? 後は喜美にどうやって信じこませるかが問題だけど」
「なるほど。つまり俺はこれからお前を殴って、失神させればいいわけだ」
「いいや、殴るフリだけで充分。茶番に付き合って、って言ったでしょ。ユキトくんが上手く演じてくれたらオレは倒れたフリをするよ。キミたちはその後、ここから逃げるんだ。1階の出入り口に車を待機させてあるから、そこまで頑張れば大丈夫」
「車……? 他に誰か協力者がいるのか?」
「行けばすぐ分かるよ。ちょっとしたサプライズだ」
ユキトの問いにクリオネは笑みを深めて答える。
「あとマオちゃんに伝えておいてーーーー」
彼はそれからユキトの耳元に近づくと、そっと耳打ちを始めた。
ヤヨイも、アズマも、もちろんマオもクリオネの声が聞こえなくなったので、一体何を伝えているのか分からない。
ユキトはただひとりだけ……それを聞いてそうかと一言、頷く。
次の瞬間、矢のように素早く鋭い拳がクリオネの右の脇腹目掛けて飛んでいった。
「……っ!」
予測していなかったユキトのその打撃に、クリオネは息もできず膝をつく。
「……帰ろう、キーラボに」
クリオネを一瞥し、彼には声をかけることなく歩き出したユキト。
一同も黙ってその後に続く。
マオはその時、ユキトがほんの僅かではあるが、クリオネに憐れむような目を向けていたことに気がついたのだった。
「……ってぇ、……痛えなっ!」
通り過ぎたはずの後ろから怒号が聞こえる。
思わず立ち止まって振り返ろうとするマオ。
ユキトがそれを目で制した。
「……っの野郎、本気で殴りやがって!! それでオレに勝ったつもりか。その気色悪りぃ面、二度とオレに向けんじゃねぇ!」
いつもとは違うクリオネの口調に驚き、マオはどうしても振り返って、何か言葉をかけてあげたくなる。
ユキトは横を歩くマオの心配そうな顔を見ると、ため息をついてピタリと立ち止まった。
「お前が俺に教えたんだろう。本当に相手を倒したいのなら顔面ばかり狙うなと」
決して振り返ることはなかったが、ユキトはそう言った。
「……クソったれが!」
ユキトたちが再び歩き出した時、長い廊下の中央からは物音ひとつ聞こえなくなり、そこだけが不気味なくらいにしんと静まりかえっていたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます(´∀`*)
この物語は情緒不安定な人や課題を抱えた人がたくさん出てきますが、その人たちの脳内に重きを置いたお話ということで……どうか生暖かい目で見てもらえたら嬉しいです笑
↑不適切にもほどがあるみたいなテロップwwww
何が言いたいかというとクリオネ、こんな捻くれ者に仕立て上げてしまってごめんよぉ(´;Д;`)
ではまた続きを書いていきたいと思います!




