第112話 ミステイク
こんばんは^ ^
また投稿させていただきました!
ぜひ暇な時に読んで頂けたら嬉しいです。
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「喜ぶのはまだ早い。さっさとここを出るぞ。歩けるか?」
ユキトはすくっと立ち上がると、ヤヨイに尋ねる。
「ええ、何とかね」
ヤヨイも服の埃を払ってから、ゆっくりと立って歩き出した。
それに合わせてマオとユキトも歩き始めた時、「あ、待って!」と一言、ヤヨイが一同の歩みを止めたのだ。
「ねぇ、あの子も一緒に連れて行ってあげられないかな? 確か隣の檻に女の子が居たはずなんだけど……」
「女の子ですか?」
マオは空になった鉄格子の隣を覗き込んだ。
隣の鉄格子では10歳……いや8、9歳くらいだろうか。小さな女の子が壁にもたれ掛かり、静かに寝息を立てている。
「この子は?」
マオの問いかけにヤヨイは苦笑いを浮かべた。
「何というか……、その、ここで会ったの。それで話を聞いたんだけどね、マオちゃんのお姉さん……って言えばいいのかな?」
「なんだそれ?」
歯切れの悪いヤヨイの答えにユキトが突っ込む。
「だからっ! マオちゃんよりも先に真央さんの脳の構造を真似て造られたロボット……いえ、クローン……でもないし……」
ヤヨイはマオのいる手前、説明に困ったのだろう。
この少女がここにいるということは、喜美がこの子を不要と判断したからだ。
マオは思わず少女に同情する。
「ヤヨイさん、私はもう大丈夫ですから気を遣わないでください。それで、この子の名前は?」
ヤヨイは首を横に振り、躊躇いがちに言った。
「名前はないそうよ。喜美はこの子のことを『失敗作』と呼んでいたみたいだけど……」
そうか。この子も喜美にとっては『失敗作』だったらしい。
ユーゼンが大企業として世の中に貢献している裏側で、何が起こっているのかを散々見せつけられてきた。
どんな手を使っても天才的で完璧な人間を再現しようとしている会社だ。自分が存在しているのだから、自分より先に造られた存在がいても不思議ではない。
なら一体、自分たちは何者だと言うのか!
真央ではない。AIでも、ロボットでもクローンでもない。
そもそも人間と呼んでいいものなのかすら怪しい。
「それでも……この子を置いては行けませんよね」
どこか遠くを見つめるようにマオが呟いた。
ヤヨイがユキトに声をかけると、ユキトは少女が閉じ込められている鉄格子へ指を伸ばす。
電子キーが解除されたので、マオはその中へと吸い込まれるように歩き出し、それから鉄格子の中で眠る少女をそっと抱きかかえた。
それを見てヤヨイが安心したような表情を浮かべる。
「ありがとうマオちゃん。その子を頼みます。ここを出るならワタシ、カイ所長のことも助けに行かないと!」
フラフラと足元がおぼつかない状態で歩こうとするヤヨイ。
「待て。お前、どうする気だ?」
ユキトがヤヨイの手を取り、強い口調で訊ねた。
「カイ所長が連れて行かれたの。もうここにはいない。でも、カイ所長も今だってきっと助けを待ってる。早く行ってあげないと……」
「駄目だ。その身体で歩き回ったりでもしたら、すぐまた喜美に捕まるぞ。それに俺たちにだってあまり時間は残されていない」
「離してよ、ユキト! これはワタシのせいでもあるの。ワタシが下手に首を突っ込んでいなければ……あの高架下でカイ所長と会わなければっ……こんなことにはなってなかった」
「自分を責めるな。これはお前のせいでも何でもないっ!」
掴んでいるヤヨイの手に、思わず力がこもってしまうユキト。
「いいか、もうすぐこのフロアには警視庁の人間がやって来る。喜美と癒着のある連中だ。そいつらが来る前にここを離れなけば、俺たち全員が捕まってしまうかもしれない。そうなれば誰がエヴァンディール計画を止める? カイ所長やお前がここまで調べてきたことを無駄にしてもいいのか?」
「それは……っ!」
戸惑っているヤヨイを見兼ねたユキトは、お姫様抱っこをするように軽々とヤヨイを横抱きにする。
「とにかく今はユーゼンから離れるぞ」
「ちょっと、ねぇってば!? 降ろしてよ!」
腕の中でジタバタするヤヨイをユキトは無視して歩き出す。
今回ばかりはマオもユキトに何も言わず、素直に従うことにした。
実のところ本当は今すぐにでもカイ所長を助けに行きたい。だが話を聞く限り、そこまでの猶予は残されていないようだ。
眠ったままの少女もいる。
それに一度ラボに戻ってヤヨイを休ませた方が良い。
本人は気丈に振る舞ってはいるが、身体がだいぶ弱っている様子。
つい十数秒前までカイ所長を助けに行くとユキトの腕の中で暴れていたヤヨイは、借りてきた猫のように大人しくなっていた。
「そういえばユキトさん、シノミヤさんと会ったんですか?」
少女から片手を離して一瞬、マオは自分の首元を触る。そして歩きながら少女を抱き直しユキトに訊ねるのだ。
「ああ、吊り目の研究員か。アリシマからあの鍵を預かって、俺に届けるように言われていたらしい」
「クリオネさんですね……」
「そうだ」
「シノミヤさんはEフロアの研究員じゃありません。だからシークレットゲートのことを知らないはずです。それなのにどうやって届けてくれたんですか?」
この薄暗い中、うっかりつまずきでもして少女を落としてしまっては大変だ。足元に注意を向けつつも、マオはそれがずっと気になって仕方がなかったのである。
「いや、ゲートを潜った後でクリオネから連絡が来てな、俺が受け取りに行ったんだ。そうか。だからシノミヤは地下の階段で俺を待っていたのか」
やはりシノミヤはシークレットゲートを潜れなかったようだ。
だとしたら……。
「でもユキトはアズマ君より遅れてここへ来たじゃない。受け取りに行ったなら、アズマ君も居ないのにどうやってまたゲートを抜けてEフロアに戻ったのよ?」
どうやらヤヨイもマオと同じことを考えていたらしく、不思議そうな顔をしている。
ユキトが再びシークレットゲートを潜る時、アズマが事前に社員証を渡していたのなら問題はない。でももし違う答えがユキトの口から発せられたら……。
マオはごくりと生唾を飲み込んだ。
「シノミヤは鍵の他に社員証を渡してきたんだ。俺はそれを使ってここに戻って来た。クリオネがもう少し早く連絡をくれていれば、こんな手間はかからなかったんだがな」
ユキトはため息をつき、吐き捨てるように言う。
「その社員証って……誰のでしたか?」
顔面蒼白。まさに今のマオに相応しい言葉だった。
「水乃だ。確かそんな名前の幹部がいたな。そいつが持ってるはずの社員証だと思うが」
「あぁ……、やっぱり……」
「どういうカラクリかは知らんが、これもクリオネの仕業だと思うとなんか腹が立つな」
ユキトの言葉が頭に入ってこない。
やってしまった、とマオは自責の念に駆られていた。
イオリから渡された社員証。
あれはずっと首にかけ、服の内側にしまい込んでいたはずだったのに。
ここで目が覚めた時にどうしてすぐ気がつかなかったのか。自分の首から社員証が消えていると。
確かに、屋上にいた時まではあったのだ。
記憶を細部までほじくり返し、屋上での出来事を思い出すがどうしても胸騒ぎは消えてくれない。
『なら良い。私が運ぶ』
あの時、喜美はそう言っていた。
おそらく自分を処理場へ運んだのは喜美。
そしてイオリの社員証をシノミヤに渡したのはクリオネ。
屋上にいた時にクリオネが社員証を持ち去っていないのだとすれば、社員証を奪ったのは喜美だということになる。
マオは深いため息をついた。
『マオがイオリの社員証を持っていた』
それはイオリがユーゼンに反発し、マオたちと共にエヴァンディール計画を止めようとしている証拠になってしまう。喜美ならこの状況を喜んで利用するだろう。
イオリを処理場へ送る理由、マオはそれをわざわざ喜美に与えてしまったようなものだ。
喜美が証拠に気が付き、マオから奪う。それがどういうわけか喜美からクリオネの手に渡り、クリオネからシノミヤへ、シノミヤからユキトへ。
……あぁ、あり得なくもない話だ。
「イオリさん、無事でいてください」
マオの心配をよそに、ユキトはヤヨイを抱きかかえたまま扉を開ける。
ギィィと鳴く扉を片足で押しながらユキトが言った。
「ここから暫く生天目の管轄が続く。長い廊下の一本道で俺たちはこの人数だし、ユーゼンでは見慣れない顔のはずだ。これで誰かとすれ違いでもしたら即アウトだな。そうだろう、アズマ?」
「ええ」
それまで黙ってマオたちの後ろから、まるで距離を取るようにして歩いていたアズマが短く答える。
気まずい……のかもしれないな。
マオにはなんとなくそう感じる。
「よし、慎重に行くぞ」
こうしてユキトの声と共に一同は人知れず処理場から抜け出したのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )
仕事帰りに雪まつりを見に行ったらゴールデンカムイの雪像が……っ!!
埋蔵金、欲しい……。
雪像の中に埋まってないかな笑
とりあえず写真だけ撮って帰ってきましたヽ(*´∀`)
では、また続きを書いてきます!




