第108話 欠乏欲求
こんにちは^ ^
また投稿させて頂きました。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
よろしくお願いします!!
「喜美は思ったより慎重だ。馬鹿じゃない。本当はさっき処理場の場所を聞き出したかったんだけどね。オレが知らないと分かると、彼は自分でマオちゃんを連れて行った」
「やっぱりあなた、さっきはマオたちを裏切ったフリしてたの……?」
イオリがジトッとした視線を投げて首を傾げる。
クリオネはその視線を気にしていない様子。それどころか、ニヤニヤしながらこう言い放ったのだ。
「言ったでしょ。お仕事はゲーム、楽しまなきゃ損だって。今までオレが警備員としてここに潜入してたこと、キミはとっくに分かってるよね。なにせコマイリサの社員証を手に入れようとしたオレが、わざと残した痕跡に気がついたんだから」
「そうね……喜美所長には黙ってたけど」
「ふふっ。やっぱりそうかぁ! キミは幹部のくせにエヴァンディール計画に協力的じゃないみたいだったから」
「それも分かってたのね」
「当たり前。情報のエキスパートであるオレに調べられないことなんてない。キミはちょっぴり賢い人みたいだ、でも……」
クリオネはイオリに近づくと声を潜める。
「オレの邪魔、しないで?」
低めの声。それも柔らかく脅すような話し方だった。
自分が喜美所長に黙っていたのは彼の本意ではなかったのか?
驚いたイオリは口を固く結び、暫く沈黙した後に抑揚のない声で答える。
「ごめんなさい。邪魔をしたつもりはないわ。私はエヴァンディール計画を止めるため、あなたたちがユーゼンに来たということを知った。あなたがPCにわざと名前を残したのは……計画を良く思ってない内部の人間と繋がろうとしたからじゃないの?」
クリオネは肩をすくめると、パッと表情を戻していつもの様子で話しだす。
「まぁ、それもある。けどあれは喜美にオレの存在を気づかせるための罠だった。結果的にオレを知って、コンタクトを取ってくれたから良かったんだけどね。正直、分厚い札束渡されて『今度からこちら側に情報提供してくれ』なんて言われた時には、多少気持ちが揺らいだかな」
「でもあなたは、今も計画を止めるために動いてる」
「あたり」
「それはなぜ? お金が目的なら喜美所長側に付いた方が良いに決まってるはずよ」
「そりゃマオちゃんみたいな素直で可愛い子や、ヤヨイサンのように知的な美人にお願いされたら協力するしかないでしょ」
「……それだけ?」
イオリの目が点になる。
「あぁ、まだあった。喜美に協力するフリしたお陰で、その札束もオレのものになったし、マオちゃんの唇もゲットしちゃった♪」
クリオネがアズマの方を見て含み笑いをする。
「さっきから黙って聞いていれば最低な動機ですね。というかあの……、マオさんの唇とはなんのことです?」
アズマはふぅと息を吐き、顔をしかめてクリオネを追求する。
無理もない。
彼は気絶していた。だから知らないのだ。
クリオネがマオに行ったことの一部始終を。
アズマの反応を見てこれ以上はまずいと思ったのか、クリオネが咄嗟に話をはぐらかそうとする。
「んー、なんのことだろう。自分で考えてみなよ! とにかく、これからオレはオレのやりたいように動く。このゲームはオレが楽しくて、気持ち良くて、興奮できればそれでいい。でもキミたちとの利害関係は一致してるから、何も問題ないでしょ?」
これは……問題大ありだ。
反省する気もなく、むしろ開き直った態度のクリオネに嫌悪感を示すアズマ。計画を止めるため手を組むどころか、このままだと険悪なムードになりかねない。この場でクリオネにペラペラと喋らせるのは良くないだろう。
イオリはそう判断し、慌てて口を挟んだ。
「ちょっと待って。処理場の場所を聞き出せなかったのならどうやってマオたちを助け出すの? 助けようにも、アズマくんやあなたには正確な場所が分からないんでしょう」
「イオリサンは?」
クリオネに尋ねられ、イオリは首を横に振る。
「ごめんなさい、私も詳しくは知らないの。処理場は地下牢みたいな造りになっていて、あの施設は生天目くんが管理してる。鍵は電子キー。解除コードは定期的に変更されてると聞いたことぐらいしか……」
「上出来だね。マオちゃんにはGPSを持たせてある。ヤヨイサンに持たせたGPSには気づかれちゃったけど、喜美ならマオちゃんを碌に調べもせず処理場へ運んだはずだよ。そろそろ着いたかな、確認してみようか」
クリオネはパーカーのポケットから乱暴に携帯を取り出し、位置情報の追跡を始める。
「ははっ! ほらね、これで処理場の場所が特定できた。後でユキトくんにも位置情報、共有しなきゃ」
笑いながら自分の携帯画面をイオリとアズマに見せるクリオネ。
画面にはユーゼンのEフロアまで詳細に描かれている図面と、その中で一箇所、赤い丸印がずっと点滅を繰り返している場所が表示されていた。
「この図面、警備システムの奥深くまで入り込んで手に入れたのね。それにミュー粒子のGPS……」
「そう。マオちゃんに持たせる時に少し改良したの。ここへ来る前マオちゃんの通信が一度途絶えたから、もしかするとこのフロアは電波が届きづらいのかなって思ってた。そうじゃなくても潜入におあつらえ向きなのはやっぱり、こういうGPSだからね」
ミュー粒子。
透過性が高く建物や大きな山ですら、光に近い速度で貫通できる素粒子だ。電波の届かない処理場でもこのミュー粒子を使ったGPSがあれば、位置情報を詳しく特定できる。
だがミュー粒子のGPSはまだ研究段階。
今はごくほんの一部の企業や機関でしか使われていないはず。
彼は一体、どうやってこのGPSを手に入れて改良したというのか。いいや、元々得体の知れない人物。これ以上入り込むのはよそう。
頭の中でそんなことを考えていたアズマ。クリオネに聞きたいことが山のようにあった。
その中でもひとつだけ、クリオネの言動で気になっていたことを質問する。
「でもどうして……、喜美所長がマオさんの持つGPSに気がつかないと思ったんです?」
クリオネの答えは、アズマの頭をますます混乱させるものとなった。
「確かに喜美所長は慎重だ。普段の彼にこんな安っぽい仕掛けなんて通用しないだろう。でもさっきは動揺していた……いや、正しくはオレが動揺するように仕向けた。だから上手くいったのさ」
「どういうことなの?」
イオリの脳内もアズマと同じ状況だったのだろう。
ふたりが理解に苦しむ様子を見て、ううーんと唸ったクリオネは自分の顎に手を当てる。
それから人差し指で唇をそっと撫でる仕草をした。
「…………あぁ、そう。そういうこと」
その仕草で何となく察しがついたイオリ。
「どういうことなんですか。ねぇイオリ、何か知ってますよね!?」
イオリはアズマの前でそれ以上、何も言おうとはしなかった。
クリオネはため息をつき、アズマの肩を軽く叩く。
「ああでもしないと、所長サンの注意はキミにだって向けられていたかもしれない。キミが死んでいないと気づかれたら、本当にキミを殺さなきゃダメだったかもよ。マオちゃんに感謝しないと」
「……あんた僕が撃たれた後、マオさんに何したんですか?」
クリオネは答えない。
そして屋上の出入り口を見て、彼は何事もなかったかのように話を続けた。
「あぁ、それと月城センセイの話も効いてるはずだ。だって喜美は少なからずセンセイに劣等感を持ってたんじゃない? あの顔、自分がセンセイに勝ったと思って油断してる」
「……分かったの?」
「薄々、かな」
今度はイオリへ向き直ったクリオネ。その瞳からは、同情が伺える。
「まるでメンタリストね」
「そう? いつも人の心を読んで生きてれば、これくらい簡単に分かるようになるよ」
再び屋上の出入り口を見ながら、クリオネは静かに言った。
「よし、そろそろ所長サンが戻って来る頃だ。アズマクンはEフロアの入り方、知ってる?」
「一応、元幹部ですからね。Eフロアには僕の社員証で入れますよ」
聞かれた本人は思わず苦笑して、ユーゼンで使っている社員証を掲げた。
「それは頼もしい。ならこの下の資料室でユキトくんが来るのを待ってて。彼と合流したらキミがEフロアまで案内するんだ。位置情報はちゃんとユキトくんに送っておく」
「マオさんたちを助け出した後はどうすれば?」
「それはキミ自身の好きにすればいい」
クリオネはフッと笑う。
「さぁ行って。健闘を祈るよ。平常心を掻き乱された今の喜美なら、王子様ふたりが少しくらいミスしても多めに見てくれるだろうからね」
アズマはクリオネを横目で見ると、まだ痛む腹部を押さえ黙って屋上を離れたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます♪( ´θ`)
ミュー粒子、実在するらしいです!!
このまま深掘り書くとなんだか仕事してる時の頭の使い方で書いてしまいそうなので……辞めておきます笑
(今、気が付いたら仕事増えてて行きたくない病www)
一気に寒くなって来たので皆様もお身体にお気をつけてっ!!
また楽しんで続きを書いてきたいと思います^ ^




