第106話 悪戯
あけましておめでとうございました!
遅くなりましたが新年の初投稿、失礼します。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
「落ち着いた、マオちゃん?」
ヤヨイに声をかけられたのはだいぶ後になってからだった。
マオはこくりと頷く。
涙が枯れるくらい泣いたせいか、頭の中にかかったもやがスッと取り払われたみたいだ。どこかすっきりとしていた。
「さっきの話の続きなんだけど……アズマ君がワタシの家にあった資料を持ち去ったのなら、内通者はアズマ君ってことになるわよね?」
彼女はマオの気が収まるまで何も聞くことなく、黙って待っていてくれた。マオはヤヨイが今、どんな顔でこちらを見ているのかよく分からない。
だが、全てを把握しているようなヤヨイの反応。
ヤヨイはマオが作られた存在だということを知っているのだろう。
マオは再び頷くと、静かに言った。
「アズマさんは喜美所長の命令に逆らえなかった。おそらくイオリさんか私が人質になっていたのかもしれません。その結果、内通者という立場になってしまったんです。だって、『記憶』で見たアズマさんはエヴァンディール計画に進んで協力するような人じゃなかったから……」
「『記憶』……やっぱりマオちゃんは思い出してたんだ。自分に関わる大切なこと」
「ここに来て、ようやく知ることができました。私の周りにいる人たちと交流のあった、真央という天才脳科学者を。ヤヨイさんは私のことも、真央のことも知っていたんですよね?」
マオはヤヨイに尋ねる。
「うん。全部知ってたよ」
ため息混じりに答えるヤヨイ。
「本当は黙っておこうって、カイ所長やユキトとも話していたの」
「ユキトさんも!? 私が……何者なのか知っていた?」
驚くマオ。ヤヨイが言いにくそうに続けた。
「真央さんはキーラボにも来てくれたことがあるから。その時まだラボに居なかったアズマ君以外、真央さんのことはなんとなく知ってると思う」
なんということだ。
ヤヨイは知らなかったようだが、ユーゼンにいたアズマはとっくに真央と面識がある。
ということは……。
「自分が何者か知らなかったのは、私だけだったんですね」
それに対し、ヤヨイは首を横に振る。
「いいえ。最初はワタシもユキトも事情をよく知らなかった。4年前、真央さんがまたキーラボに来てくれることになったって、カイ所長に言われただけなのよ」
真央は4年前に死んだ。
ならカイ所長の言う『またキーラボに来てくれることになった』という人物は自分のことだ。
マオはそう考える。
「でもおかしいなとは思ってた。真央さんはそれまでとはどこか様子が違っていたし、カイ所長は何かを隠しているみたいだったから。ワタシ、問い詰めたの。そしてカイ所長から本当のことを聞いて……納得した。ラボに来てくれたのは真央さんじゃなくてマオちゃんだったんだと。あの時のこと覚えてるかな? マオちゃん、ちょっぴり無愛想でなんだかユキトみたいだった」
ヤヨイの声色が少しだけ和らぐ。
自分がラボに来た時のことをはっきりと思い出せないマオ。
あの時、研究室にいたのは誰だった?
カイ所長、ヤヨイ、ユキト……。
確かにアズマは後からこのラボに来た。自分が紹介された時には居なかった。
ではカイ所長は自分を、キーラボの研究員たちに何と言って紹介していた?
……ダメだ、あまり思い出せない。
これも自分の脳が特殊な仕組みで、しかも出来て間もなかったからなのだろうか。
ヤヨイは最初から事情をよく知らなかったと言う。
同じように事情を知らず、自分のことを真央だと思い接していた研究員だってキーラボに居たはずだ。
しかしこの状況だと、カイ所長は初めから自分をマオだと分かって接していたということになる。
マオはバラバラになっていた情報を少しずつ組み合わせ、やがてあるひとつの結論に辿り着いた。
カイ所長とテロメアが残した研究記録。
ユーゼンに協力しているようにも取れる、どこか違和感のあった部分。
『引き渡してしまった方がいい』
『2、3発殴られた』
『月に2度、定期報告を行えば』
カイ所長が守りたかったものはもしかして……っ!
「マオちゃん、どうしたの?」
「カイ所長は? 一緒じゃなかったんですか!?」
ひどく慌てたマオの問いかけにヤヨイは一瞬、言葉を詰まらせる。
「カイ所長は連れて行かれた。少し前にナバタメっていう研究員が来て……」
「どこに? 何か言ってませんでしたか?」
「確か……、『まさかあなたが両方のプランで要になるなんて』って言ってたわ」
「他には?」
「ごめんなさい。後は手がかりになるようなことは何も。でもカイ所長が連れて行かれる前、喜美が一度ここへ来て、USBメモリみたいなものをカイ所長の頭に刺していた。後になって届けられた資料の内容を思い出したんだけど、きっとあれがトレースバースだったのかも……」
ヤヨイが申し訳なさそうに言ったので、マオはふと我に返る。
「すいません、ヤヨイさん。まずは私たちがここから抜け出さなきゃ……ですよね」
だが遅かったか。
喜美は既に、カイ所長に対してトレースバースを使っていたようだ。
本人がどんなに拒否していたとしても、これでカイ所長の持つ医療クローニングの知識と脳情報は喜美の手に渡ってしまったということになる。
ナバタメが言った両方のプラン。
これはきっとプランAとプランBのことだろう。
プランBルームに案内された時、カイ所長はそこにいなかった。
試験管と向き合う研究員たちがひしめくあの部屋に、カイ所長が連れていかれるとは考えにくい。
そうなると連れていかれたのは、プランAルーム?
イオリもそこへ立ち入ることに躊躇していた。
サカキの後を引き継いだナバタメが自由に出入りしている部屋ならば、そこに連れていかれた可能性は高い。
カイ所長に会いたい。
会って、伝えたいことがある。
ここで『解体』されるのを待っていたら、伝えられずに終わってしまう。
それでは駄目なのだ。
カイ所長や屋上に残されたイオリのことも気がかりだったが、まずはここから抜け出さないことには何も始まらない。
マオは両手で左右の頬をパチンと軽く叩き、息を大きく吐き出した。
「何かここから出る方法を考えないと……」
試しに立ち上がり、鉄格子の入り口を揺らすマオ。
びくともしない。
どうやら外側に電子キーが取り付けられているようだ。
まさかユーゼンの地下にこんな場所まで造られていたとは。
文字通りエヴァンディール計画で排出された『不要物』を処理する部屋なのだと改めて実感する。
「ねぇ。ユキトに送ったメール、マオちゃんも見たんでしょう」
ヤヨイが尋ねてきたので、マオは内側から電子キーを操作できないものかと手を伸ばしたまま答えた。
「メールって、ズィファイルのパスワードが書かれてた……?」
「うん。その様子だと動画も見てくれてるよね。クリオネと会った?」
「……会いました」
マオが苦い表情を浮かべる。
「なら大丈夫。余計な体力を使わないでここで待ってた方がいいかも。カイ所長のためにも、まずはマオちゃんが安全にここから出ること、それが優先よ」
「ヤヨイさん、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないですっ! クリオネさんはもう、私たちの味方じゃありません。裏切って喜美所長側についたんですから。そのせいでアズマさんがっ……撃たれて死んだんですよ!?」
つい声に力がこもってしまった。
マオは手を止め、向かい側の鉄格子の中にいるヤヨイを見た。
「本当に? アズマ君は本当に撃たれて死んだの?」
「えっ……?」
訳が分からないと言いたげにマオが大きく首を振る。
「それは銃を使ったってことだよね。撃たれたアズマ君から血は出てた? あの人、何か言ってなかった? 例えば『血が怖い』とか」
「血が……?」
いつも読んでいただき、そして応援もありがとうございます!!
実は小ネタをさり気なく入れてくのにハマってしまい気がつけば小ネタに時間を取られて遅くなりました……。→(小ネタ魔www)
ごめんなさい!!
〜小ネタのハナシ〜
•ヤヨイがマオを認めてくれたので『真央』『マオ』を無くしてみました笑
(マオが気にしなくなったのかも)
•実はマオの捕まってる場所はカイ所長が今までいた場所になってます!
(ヤヨイからカイ所長の方を見ていた時と、マオからヤヨイを見ていた時とで同じ文章を使ってみました)
他にも小ネタを入れて明かしたり明かさなかったりしているので探していただけたら嬉しいです♪( ´θ`)
(ささやかな楽しみwww)
次回も小ネタを活かせるように頑張って書きたいと思います!!笑




